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49. 新参者

    ーアズライト視点ー



 ギルドの入り口から扉が壊れる音がしたのはようやく俺が傭兵ギルドの加入が認められそうな時だった。


 入って早々胡乱な目でジロジロと眺めてきたギルド内の人間たちは、俺が加入しに来たと宣言するとあるものは薄ら笑いに変わり、あるものはすぐに興味をなくしたように視線を外した。そのしぐさにはあらかさまに入ってきた俺を格下と判断した顔もあり、思わず顔が熱くなる。だが俺は黙って受付であろうカウンターに進んだ。

 なめられるのは慣れてる。同年代と比べて体は大きい自覚はあるが、ここにいる人間たちには見るからにかないそうになかった。いいんだ。俺がデカくなるのはこれからだろう。数年後に今いるギルドの連中と同じ風格になる自分を想像して心を落ち着かせる。


 十数人がいるギルドの建物内を進み、奥に会った受付の女は態度が悪かったが、地元の武勇を話して道中狼と接戦したことを少し話をもって話せばなんとか加入できそうな流れになり内心ホッとした。念のため腰元にぶら下げていた狼尾が役に立ったようだ。

 オイバル町に来るまでになぜかついてきやがったチビのガキのせいでさっきまで汗だくになる羽目になったが、ようやく俺にもがツキが回ってきた予感がする。

 

 村では親がいないだけで馬鹿にされ、そのたびにケンカしていたら、気づいたら周りから遠巻きにされるようになった。その視界から逃げるように村を出たが当然行く当てもない。見知らぬ土地の家から食い物をくすねては食いつないでいたところで傭兵ギルドの存在を知ったのはつい最近だ。


 傭兵と言えば力自慢の仕事だろう。少ない知識からぼんやりと鎧と剣を持った兵士を想像する。想像の中の俺は村でケンカに明け暮れた悪ガキと違って一人の立派な男になっていった。

 俺が成功した姿を見れば村のやつらも見直してくるだろう。

 そう思って傭兵ギルドのあるというオイバル町を目指したのだ。


 そういえばあいつも傭兵ギルドに入ると言っていたが、さすがに無理だろうな。余裕の出てきたところで俺はギルドの前まで一緒だったアウルを思い出した。チビで不愛想なそのガキは無謀にも道中狼の群れに突っ込んできた向こう見ずな奴だ。

 そのとき俺は自分にかかりきりで、あいつがどんな動きをしたのか詳しくは知らない。狼の群れが散っていったのもあいつが持っていた短剣が偶然仲間の一匹を倒せたからだろう。

 多勢に無勢から助太刀してくれたのは助かったが、大した実力もないだろうに俺と同じようにギルドに入りたいと言ってきたときには驚いた。

 アウルの背格好はどうみてもせいぜい荷物持ちのガキだ。戦いではお荷物ですぐ死にそうなガキに依頼も仲間も来ないだろう。

 というわけでアウルは外に置いてきた。俺と一緒に入って下手に兄弟だと思われたら世話をさせられるに決まっている。大人ってのはそういうもんだ。面倒なことはどうでもいい奴に任せてほうっておく。そのゴミ捨て場になるのはごめんだった。



 その塵芥だと思っていたアウルが蹴とばしたであろう扉は、蝶番が外れたのか、爆音をたてて吹き飛んで扉ごと床にたたきつけられたのち、静かになった。倒れた振動がおさまった頃にはギルド内は緊迫した静寂につつまれていた。


「サムはいるか」


 そんな空気をガン無視してアウルは声を発する。なに考えてるんだあいつ。

 思わずさっきまで一緒だったやつの顔を見たが、入り口からの逆光でよく見えない。それも相まってギルド内は一人のガキが入ってきたというよりは、獣が一匹まぎれこんだような空気だった。

 そんな空気の中、一人の人間が受付の奥から進み出てきた。グレーの髪を後ろに撫でつけたたれ目のおっさんだ。背は高いが、屋敷の執事のような服を細身に身に着けている。


「サムは私だが、ずいぶんと乱暴な入室だなボク?」


「アウルだ。ここではこういうのが礼儀だと思ったんだがな。違ったなら謝る」


「謝る態度ではないけどね、はあ、姉さんが帰ってきたらなんて言おうか」


「そのマダムに最初が肝心って聞いたんだ。早速だがこっちも急いでるんだ。俺はギルドに加入したい」


「なに、待て今マダムといったのか?姉を知っていると?」


 マダムという言葉に俺以外の周囲がざわめいた。何だ、何が起こっている?なによりアウルはギルドの関係者だったのか?何もわからない俺を取り残して目の前の話は進んでいった。


「リンクの家で少し人助けをしてね。その時に紹介状をもらったんだがな。道の途中でなくしてしまった。だが信じてもらえると助かる」


「頭が痛い…確かに姉さんは今リンクに行っているが、信用するには突拍子もなさすぎる。そもそも君は子供だろう。そんな体格ではとても仕事は紹介できんぞ」


「栄養状態が悪くてね。年にしては小さいが気にしないでくれ。腕には自信がある。だがそうだな。別に今依頼はうけなくてもいいんだ。それよりほしいものがある」


「ほしいもの?なんだ」


 眉間を抑えてため息をついたサムがアウルに問うと、奴は何でもない顔で続けた。


「なに、大したものじゃない。“双子のギボン”の紹介状がほしいんだ」


 

 アウルとサムの話は全く見えないまま、また知らない言葉が出てくる。

 俺はさっきから取り残されたままだ。この状況を新参者の俺に説明してくれる人間は、誰もいなかった。


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