46.道中
村の終わりから俺が見えなくなるまで見送りに来てくれた人たちは手を振ってくれた。
両親が見えなくなった曲がり角で俺は身体強化を全力でかけ、全身に強化をかけてゆく。かけ終わったところで道を駆けだすと、そこには一歩一歩が陸上選手みたいな幅の走る3歳児の完成だ。
最近は狩りもあんまり参加していなかったから体を動かすのは久しぶりだった。辺鄙な田舎は岨道に人もいないので走る音も気にせず加速していく。狩りでもないので足音も気にせずずんずん進むと、木にいたらしい鳥たちが驚いて飛び立っていった。ごめん。
久しぶりの全力に心なしかテンションも高い。森から村に帰って来てからは、森にいる時よりも体は動かしてなかったからな。鈍らない程度に体内魔力は常時回していたのだが、それでも自分の体を使うのは格別の解放感があった。
はやる脚の目的は、村の外でしかできない事をさっさと済ませるためだ。オーシャンにいった通り、俺も用事が済めばできるだけ近く村に帰りたい。もしも帰るのが遅くなって弟に「だれ?」などと言われようものなら今世の俺は寝込む自信がある。いや絶対に寝込む。
ということで気分は家に帰るまで最速でミッションをこなしていくRTAである。
ちなみに素直に父さんの祖父母の家に直行するつもりはゼロだ。前世の知識を生かして最速で用事を済ませるにはすまない祖父母。貴方達の家に向かうのは優先順位としては最下位だ。父さんたちが心配しそうだから連絡だけは後でとろう。あとでなうん。
道を走り続けると昼になる前には一番近くの村が見えてきた。出稼ぎに来ている息子が住んでいる村だ。ここは今日の夕方くらいにつく予定で(一般的な子供の足では)、泊まって世話になるように言われていた。スピードを落として近づいていくと畑で種まきの準備をしていた村人が顔を上げる。おじぎする文化はないので手を振って挨拶すると、手を振り返してくれた。
畑から出たその人と話すと昼のいい時間なので居住地まで案内してくれると言うのでありがたく言葉に甘えた。歩きがてら話していると俺がミーシャの村から一人で歩いてきたのに驚いていた。そうそう、俺の生まれた村は周辺の村からミーシャ村と呼ばれているのだ。
出稼ぎ村の中心につくと出稼ぎ息子の家を教えてもらってそこに向かう。手伝ってくれているあの家族にあいさつくらいはしないとな。
俺が村に着いたのは昼時で、ちょうど昼の休憩中で家にいた夫人と子供に会うことが出来た。手土産に少し持ってきた食料を渡してこれからも頼むと言っておいた。本来世話をされるような年下の子供によろしくと挨拶されたのが不思議なようで怪訝な顔をされたが、村のまとめ役の息子だということで無理やり納得してもらった。
俺の生存にかかわる物のためなら俺は自重しないと決めているからな。その調子で他の人間も俺の村に招いてくれると助かると言っておいた。
しばらく休んでいくよう誘われたのを断って、そのままその村を出ることにする。一応ミーシャ村の知り合いに聞かれても俺が一泊して出かけたことにしてもらったので道中爆走した奇行はバレないだろう。
また田舎道を身体強化付きで走り続けると分かれ道が見えてきた。特に道看板などはないが、この辺りの人間はだいたいどっちに行けばどこに行きつくのかわかっている。村の外で暮らしていた記憶のある俺はもちろん道を知っている。右に行けば祖父母の家があるちょっとした街で、左に行けば南に連なる山脈に沿った緑豊かな道が続く。
俺は速度を落とさず分かれ道に近づいていき、そのまま
迷わず右に曲がった。
うん。当然である。前述した通り祖父母の家の優先度は高くない。こっちの道はちょっと田舎道で治安が少々悪いが、こっちの道を進めば俺の目的の一つである傭兵ギルドがあるのだ。最終的には街にも用があるので行くのだが、順序的にはこちらに先に行きたい。ゲーム攻略的に考えてもらえばわかってもらえると思う。急がば回れである。親には言ってあるのかって?言う訳ないだろ内緒だ内緒。特に治安が悪いので有名なんだあのギルド。
傭兵ギルドはいくつかの町や村にあり、傭兵たちが緩やかなつながりを持って依頼を受けたり、情報交換できる場所だ。もちろん大きな街に行けば近くに必ず傭兵ギルドがあるのだが、俺が用があるのは今から向かう、オイバル町の傭兵ギルドだ。理由はいろいろある。一番大きな理由は加入のしやすさで、普通ギルドに入るには人の紹介や信頼(金)が必要になる。もちろん例にもれずオイバル町のギルドもそうなのだが、あそこはちょっと無茶をすれば簡単に入れるのだ。一村人の息子に金銭などという貯蓄財産はないのでこれ一択である。
目的地までの一本道を進んでいくと、しばらくして前方が騒がしくなった。そのまま近づくと複数の影が前方をふさいでいる。しかも影は獣の形をしていた。狼だ。
春の繁殖期の獣は気性が荒い。肉食獣ともなればその凶暴性はさらに増す。さてどうしようか。少々手間だが臆病な群れなら少し脅かせば逃げる。気が荒ければ戦闘になるが、遠目にも魔獣特有の魔力は感じないし、普通の動物ならまあ何とかなるだろう。もし実力的に厳しければ全速力で町まで逃げるのみである。
そう考えながら獣の群れに近づいていくと、狼達が何かを取り囲んでいるのが見えた。その中心に黒髪の人影が見えた瞬間、俺の体は考える前に全速力で狼に突っ込んでいた。
あの髪色は間違いない。
なんで今こんなとこにいるんだ?あいつ。
ストックがなくなりました。隔日の更新間に合わなかったらすんません。




