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44. 弁解

 母さんが俺の手を握ったまま離さない。白くて細いその手は優しく触れているように感じるのに、引っ付いたように離れなかった。どうしたんだ母さん。


 ちなみにオーシャンとブライトは先に寝ている。俺もいつもは寝る時間なのだが、一応村を出る報告はしたかったので仕事の話がてらいつもより遅くまで居間に残っていた。


「村を出るってどういうことなの?」

「アウル、説明しなさい」


 皿を片付けに席を立ったはずの父さんもいつのまにか傍にいて、自然と両脇から二人に詰められる形となった。俺は椅子に座ったままなので当然逃げ道がない。なんだか警察車両に乗せられたような気分になる。しかしそうか、俺の中では決定事項だったけど、誰にも言っていなかった。説明は大事だ。俺はそれをこれまでの人生で実感している。二人の圧が怖いが言われた通り説明をした。


「村の仕事がもうすぐ落ち着きそうだから、俺のできることは一旦終わったかなって。人手がいる季節になるけど、ほかの村から帰ってきてくれる人もいたから俺は村から出ても問題ないかと思って」


「だから・その・なぜ・村を出るのか、説明をしなさい?」

「あはい」


 村を出られそうな気分になった前提条件を話したけど足りないらしい。動機を詰められた。あいかわらず話すのには慣れてないことが表に出たようで反省だ。そうだな。順序がでたらめになってしまった。

 会話に少し自信が出てきたところだったのだが、自己認識は改めなければならないようだ。村人たちは知り合いが多いから俺の意味を組んでくれて何とかなっていたんだろう。

 母に促されたまま、少し姿勢を正して続ける。


「森ではオーシャンと一緒に狩で体を動かして、魔獣とも戦うことが出来るようになった。でも最近はそれが出来てないし、魔術もまだ十分に使いこなせてない。新しい魔獣が出た時のために対抗できる力を身につけないとと思って、村の外で修行したいと思った。だから村を出ようと思う」

「「…」」


 森の話をすると母さんのにぎる手が厳しくなった。母さんは森での置き去りをずっと気にしているので俺もあまり話題には上げていなかった。しかし本当にもう気にしなくていいんだけどな。固まってしまった母を見かねて父さんが静かな声で続ける。


「村で修行することもできるだろう。村の外へ出る必要はあるのか」

「それは…」


 俺が魔法や身体強化を使えることを両親は知っている。というか村の説明会の時に見せた熊爪にオーシャンの語る武勇伝のおかげで俺が子供に似合わない戦闘能力が備わっていることはほとんどの村人にばれていると思う。

 

「ある」

「なぜだ」


 間髪入れず聞かれた。俺も問いかける父さんに向き直って背筋を伸ばした。


「俺は熊を倒した。でもそれは運が良かった。それから森でくらして少しは強くなったけど、熊は魔力を持ってそれを使ってきた。俺は魔法を使えるけど、何でできるかはわからない。俺に今足りないものはそれだと思ったから。村の外には魔法を学べる場所があるらしいから、そこで魔法を身につけたい」

「…そうか。そうか…。お前なりの考えはあったんだな」


 本当は魔法は以前の人生で学んだんだけど、今は知らないことになっている。ほんとは村の外でやりたいことことがあるから言い訳なんだが。

 畑の魔法陣も魔法の有識者がいないのをいいことに魔法をカンでやってるで押し切っている。今限定のゴリ押し魔法理論だ。外から魔術師が来て畑の魔法陣を見られては秒でバレる嘘である。


 ともかくそんな言い訳を俺は勢いのままたたみかけた。


「春の手伝いができないのは申し訳ないけど、俺は俺が倒した魔獣がまた出ると思ってる。今じゃないけど、山の主がいなくなったのに気付いたら新しい魔獣が縄張りを求めて来るだろう。それが来るまでに少しでも学びたい。あ、俺なら外でも現地調達できるし、村の食べ物は持って行かない。配給は変わずできる」

「村のことは気にしなくていいし、前にも言ったが俺達はお前のやることなら応援しよう。だがまず魔獣はそんなにいるもんじゃないぞアウル。お前が出会った個体も言い伝えだとされていたくらいだ」

「うん、でも、」


 父さんの言葉につい俯いてしまった。これから魔獣は絶対に来る。俺はそれを知っている。だけど今それを証明することが出来ない。そんな息子を見て父は別の意味を感じたのか声をかけてきた。


「お前が強さを求めて村を出たいのはわかった。だが条件がある。村を出るなら俺の親戚を頼りなさい。村の外はお前の知らないことがたくさんある。あとは、母さんはお前のことを心配している。もしなにかあれば必ず帰ってきなさい。約束だ」


「!父さん…」


「父さんの親父が西に行った先のケルンの町にいる。紹介状を書くからそこを必ず頼りなさい。詳しいことは明日話そう」


 顔を上げるとと父さんは俺の肩をたたいて母さんも一緒に立ち上がらせた。

 よかった。どうにか穏便に村から出発はできそうだ。小さい子供の意見をきいてくれるのは俺の実力を知っているからだろうが、それでも許可してくれた。我ながら理解ある親を持ったものである。


…ところで父さんの出た実家って、母さんと駆け落ちしたの商家のことだろうか?というか、村を出てからは自由行動で好き放題しようと思っていたのに、どうしようかな。


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