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40. 集会所

 村に帰った翌朝、ベッドの上で起きて簡単に朝食をとった後さっそく行動を開始した。

 

 事前に両親に頼んでいた食料の村への配給を、供給元の俺が山から帰ってきたので本格的に開放する。父さんたちは頼んでいた通り、出所は言わずに俺が送っていた食料を少しずつ村のみんなに分けてくれていた。村のまとめ役の父さんのおかげで各家庭に均等に配られ、皆細々と食いつないでいてくれたらしい。今までの人生より村人の顔色は幾分マシだ。しかしみんなの栄養事情は相変わらずよろしくない。

俺たちに続いての口減らしはなかったが、このままでは時間の問題だっただろう。急いで森で作った保存食その他諸々を広めたい。

 父さんに頼んで村の寄合所に人を集めてもらい、これからの話合いを行う。子供の俺も今回そこに参加させてもらった。

 集まった大人達の中で一人幼い俺は当然注目を集める。

 まずは俺の自己紹介からだ。たぶん今の今まで死んでることになってるし。


「ということでドロマイトの長男、アウルだ。改めてよろしく」

「アウル、あの…?」

「…生きとったんか…」


 父さんが集めた集会で俺が紹介された後、村人が集まった部屋にぽつりと声が響いた。

 集会場に集まった代表者たちは複雑な表情をしていた。まあ無理もないだろう。村の話し合いで議題になった口減らしの犠牲者がその会場にいるのだ。

 ちなみに集会前に会場の家の子供達が久しぶりの来客に同世代の俺がいるのに気付いてかけ寄ってきたが、木の実を少し渡して後にしてもらった。

 子供には俺達のことは伝わっていないことがわかって少しホッとしたが、今日はここで大人に俺の計画に協力してもらうのだ。今更ながらちょっと緊張してきた。


「村の食料事情が厳しいのは知っている。俺は森で食べ物を見つけて生き延びた。それはこの村のみんなが食べられる量があると思う。

俺一人だと運ぶのが大変だから、村のみんなでとりに行くのに協力してほしい」


 俺だけで食料を持ってくるのは正直難しい。オーシャンの狩りがうまくなってからは予定より獲物が増えたので、山にある保存用の洞窟は現在満杯に近い。運び出しには人手が必要だった。

 あとほかにもいろいろ説明したいことがある。救荒作物のこととか。ここで父さんが助け舟を出してくれた。


「皆に配っていた食べ物があっただろう。あれはアウルが用意した。親である俺がやったことを知った上で、皆に食料を配りたいと言ってくれた。

恥をさらすようだが、俺は皆を助けようとする息子を信じたい。このままでは春まで持たないのは皆わかっているはずだ。何もしないよりは、一度賭けてみないか。うまくいかなかった責任は俺がとる」


 予想外の言葉に、思わず俺は隣の父さんを見上げた。責任なんて、家では父さんは何も言っていなかったのに。

 俺は生き延びるために皆を利用して、打算的に助けてほしいからここに来た。うまくいくとは思うが、もちろん確証はない。であるのに父さんは無責任に思える俺の責任を無条件でとると言う。

 相変わらずだ。頭は固いのに、親父の責任感の強さは今世でも健在だった。

 俺はそれに甘えて父親に続けて口を開いた。使えるものはなんでもいい。今はとにかく人手が欲しいんだ人手が。


「森で生きのびてわかったけど、ひもじいのはきつい。みんなそうだ。森でのことは仕方ないことだと思った。だから親を憎んではいない。でも食料を見つけて、腹が膨れた後、飯はみんなで食べる方がいいと思った。俺だけでは持ってこれなかったから、みんな手伝ってほしい」


 全員はわからないが何人かがうなづいた。俺達兄弟が森に置き去りにされたのを知っている連中だ。俺の境遇に逆恨みの疑いを持つ者もいたが、今まで食料を少しずつ渡していたのが効いてくれていたらいいのだが。

 しばらく場がざわついた後、取りまとめの一人が口を開いた。


「量はどれくらいある?うちは薪を運ぶ背負子はあるが、動ける家族は女子供が多い。人手は?」

「この時期なら橇はどうだ?昔使っていたのが納屋にあったはず」

「縛るなら縄を持って行った方がいいな」


 幼児が言うことだったが、食料は切迫した問題なのだろう。具体的な質問が続き、みんなで村に行くめどがついた。よかった。ひとまず第一段階は突破だ

 そんな中でひときわ年長な爺さんが手を挙げた。あれはたしか遊び仲間のランプて子の爺さんだったはず。


「あの森が基本的に禁足地なのは理由があったはずだ。あそこ森の主は魔獣の大赤熊で昔は何人もやられて奥地には入らなくなった。森は危険なのは今も変わらんはずだ。皆やせ細って力も出ない。万が一魔獣が現れたら怪我ではすまんぞ」


ああ、それなら問題ない。


「大丈夫だ。その熊なら俺が倒した。」


 そう言いながら俺は、証拠に熊の爪を懐から出した。こんなこともあろうかと用意していたのだ!

 鈍い輝きを持って黒々とした鋭く分厚い爪を数本。自信満々でそれを集会所でかざすと、今までにない沈黙が広がっていた。


 あれ、俺なんかやってしまった??



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