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39. 母との対話

 オーシャンは朝から興奮していたせいか、母さんが俺たちが持ってきた獲物を調理してくれた食事をとった後、暖炉の前で話続けていたと思ったら突然スイッチが切れたように眠りについてしまった。ついでに妹のブライトもいつのまに眠っていた。


 ちなみに頼んでいたの母上の説教は割と真にせまっていて普通に怖かった。閑話休題。


 久しぶりに食べた母さんの食事は美味しかった。食料もふんだんに使ってもらったので村を離れたあの夕飯のように俺たちは何度もお代わりをした。

 暖かい料理に一気に文明世界に戻った感じがする。やはりサバイバル飯とは違うな。そして防寒のきいた実家は、当然森の仮家のツリーハウスよりも暖かい。

 俺は数か月ぶりの実家の快適さをひっそり満喫させてもらいながら食後の眠気に抗っていた。

 このまま心地よい眠気に身を任せたいところだが、今日中、そして弟が寝ている今日中にできればやっておきたいことがある。眠気を我慢してもうちょっとがんばろう。


「母さん、父さん」

「アウル」


 眠ったオーシャンをベットに運び終わったところで両親に声をかけると、母さんたちからも声をかけられた。うん。これからおそらく対話の時間だろう。主にこれからの村についての話だ。なにしろこれまで手紙のやり取りは続いていたのだが、森に行ってから二人に直接会うのは初めてなのだ。


 食卓に蝋燭が灯され、三人で机に向かい合う。俺の対面に父と母だ。構図はまるで進路相談の家族会議だろう。しかし父さんと母さんとこんな風にしっかり話すのは今世でも初めてだ。いや今までの人生でもか?経験値がないのが恐ろしいが、俺は腹を決めて姿勢を正し、口を開いた。


「まずは母さん、父さん、手紙をありがとう。サンダー爺にも世話になったが、家に受け入れてくれて嬉しい」


 おかげでオーシャンも悲しませることなく故郷に帰ることが出来た。


「アウル、あなたは本当に、アウルなのね」


 俺は沸かしてもらった湯で体を洗い、今は森にいた時よりさっぱりしている。森では燃料の節約やらで数か月まともに体を洗っていなかった。さすがに汚かったのか家に帰ったときに俺も弟も速攻で体を清める布を渡された。おかげで野人のようだった見た目も、普通の村人に戻っている、と思う。使った後の湯の汚さに我ながらドン引きしたのは内緒だ。


「お湯もありがとう、やっぱり森では難しくて」

「アウル…」


 あ、やばい。今の嫌味っぽくなってしまったかな?会話って難しい。

 しかし挽回しなくては。


「母さんの作るご飯はやっぱりおいしいな。こんど作り方を教えてもらってもいい?」

「それは、、、もちろんよ。いつでも」


 母さんの言葉に柔らかさがあった。夕飯の時にオーシャン主導で交わされていた談話のおかげで雰囲気はだいぶ和らいでる。ありがとうオーシャン。いい空気のまま簡潔にいこう。夜は短いし。俺の眠気的にも。


「手紙で言った通り、森でこの冬でも育つ食料を見つけた。俺とオーシャンとブライトが食べきれない量あった。森に採集したものを保存しているから、取りに行ったら村の皆にわけることができると思う。だから俺に協力してほしい」


両親は黙って俺の話を聞いていた。


「食べ物は今日もある程度持ってきたし、森に貯めているから分配について父さんから村のみんなに食料について話してほしい、俺は小さくて、まだ村のみんなは信じられないと思うから」

「あと森に行ってわかった。あそこはたくさん危険があるけど、食料もたくさんある。そして俺はあそこを村を救うために利用できると思う。だから村に帰ってきた」

「信じるのは難しいかもしれないけど、どうかお願いします」


 俺は頭を下げた。食料は定期的に渡してきたが、両親にとって他に信じられる確証はまだない。森での狩猟採集の有用性と森で見つけた救荒作物の実用性。実物があっても実際に育ててみるまではわからない。でもこれから俺はこの世界で生きぬきたいのだ。俺だけでなく兄弟達を振り落とすことなく一緒に。

 そのために故郷の村の改革は必須だ。


「アウル、顔を上げて」


 頭を下げたままでいると、机の向こうから声がした。母さんの声だ。俺は顔を上げた。


「アウル、私はあなたのやることに口出す権利はもう持っていないわ。一度子供を手放して、その子が自分の力で切り開いた道をふさぐなんて権利は。あなたがどんなに幼くてもね」

「・・・」

「それでもあなたは私たちの子供です。子供がやりたいことは協力するそして」

「母さん」


 母さんは俺の目をまっすぐ見ていた。俺の知らない母さんの顔だった。


「ありがとう。アウル。この村にない、そして今皆が欲しているものをあなたは森から持って帰ってきた。そしてこんな私のことをまだ母と言ってくれる。だから、あなたを信じるわ。できることは言って。私にできることでも、できないことでも。」

 

 母さんは震える手で俺の方に手を伸ばした。震える指先は白く血の気が引いていた。

 そうか。母さんも俺と話すのに勇気が必要だったのか。俺は伸ばされた母さんの手を握った。


「ありがとう母さん。これからいろいろ頼むことがあると思う。よろしくお願いします。

あとオーシャンに普通に接してくれてありがとう。オーシャン、ずっと楽しみにしていたんだ。俺の都合で森にとどまってたのに帰るのずっと我慢してくれてたんだ」


 あの森の岩場で見たオーシャンの横顔を覚えている。


「だからありがとう。オーシャンにとっても俺にとっても、父さんと母さんは尊敬する人だ」


 二人は静かに頷いた。

 森に子供を置き去りにしようが、村人のために魔獣の氾濫した土地を捨てようが、その決断をうちの両親が葛藤無くしたわけではないことを俺は知っている。父さんと母さんが身を挺して魔獣から子供をかばうような人であることも。

 こればっかりは、これまでのループ人生に感謝だな。


 両親のおかげでこの後の村の活動も何とかなりそうだ。親は協力してくれるといった。母さんは正面から向き合ってくれた。父さんは寡黙であまり口を開くことはないが、行動に誠実さが隠せない人だ。これから村の人たち相手に心強い味方になってくれるだろう。俺も明日から頑張っていこうと改めて思えた。


 親との対話を終え、ようやく俺は久しぶりに自分の家のベッドで眠気に従って深い眠りについた。


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