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38. 帰郷

 叩いたドアの音は思ったより軽く響いた。

 今俺と弟のオーシャンは、背中に背負っていた荷物を一旦脇に置いて、二人で村にある自分たちの家の玄関前に立っている。家の周りには森と同様雪が俺の腰より高くつもっていたが、降るのは止んでおり静かだった。

 俺の家は村の中でも比較的新しくできた建物で、昔から住んでいる村人たちがまとまって住んでいる場所とは少し離れている。山から村への道中も、家につくまで村の人にすれ違うことはなかった。寒い冬で農作業もないし、外に出て動くことでエネルギーを消費してもしかたがないからだろう。


 自分がドアを叩くと言った弟は叩いた拳をそのままに頬を赤くさせて扉が開くのを今か今かと待っている。

 俺としては緊張の対面なので、いくらでも心の準備をしたいところだが、数か月ぶりに家に帰るオーシャンを待たせるのも悪い。ずっと帰宅を楽しみにしていたんだ。こわばっていた肩の力を意識的に抜いて、弟の頭を撫でた。


「いくか、オーシャン」

「うん!!」


 そうして内側に開いた家の扉に俺たちは踏み出した。





 家の中は最後に見た時と変わりなく見えた。

 まだ見ていないがおそらく俺たちの子供部屋もそのままだろう。手紙では帰る日をあらかじめ知らせておいた。そのおかげか父と母はそろって家で待ってくれていた。久しぶりに見る両親は少しやせたか?だが食料を届けていたおかげか、いつもの飢饉にしてはまだ顔色がいい。届けてくれたサンダー爺に感謝だな。

 家に入った後、部屋の中を沈黙の空気が流れる。母さんは俺達を目にした瞬間、思わずといった様子で足を一歩出したが、そのまま固まってしまった。

 父さんは椅子に座ったままでみじろきしない。まあ父さんは普段からそんなに活動的な人間ではなかったが。

 俺も動けずに家の中で気まずい空気が流れる。俺がこの場を設定したのだが、ここからどうしよう。

 そのとき俺の横から母さんたちの方に影が飛び出していった。


「かあちゃん、とうちゃんただいまー!」

 

 弟のオーシャンだ。弟は走り出した勢いそのまま、母のスカートにだきついた。そのまま顔を見上げて母さんを見上げ、まくしたてるように話し始める。


「かあちゃんあのね、俺ね、にいちゃんとねうさぎとね、うなぎもね。木の上のおうちはとべるようになってね、あとニンジャごっこもおれにいちゃんつかまえれたんだよ!あとね」

「オーシャン、わかったわ、わかったから、ひとつづつお話しましょうね。」


 要領を得ないまま立て続けに話し続けるオーシャンに母の雰囲気がやわらかくなった。抱き着いてきたオーシャンを優しく抱きしめるとオーシャンのしゃべりはかえって加速し、部屋の空気はいつの間にか和らいでいた。

 よかった。ナイスだオーシャン。話の合間に母が目を上げたので俺は無言でうなづいた。


「それにしてもオーシャンにアウル。こんなに長くおうちに居なくて心配したのよ」

「うっ、うん」

「あとでしっかりお話ししますからね。特にアウル」

「「はい」」


 よかった。かあさんは打合せ通り俺たちが勝手にいなくなっただけ風にしてくれている。

 弟は単独で魔獣を狩れるとはいえまだ小さいので、単純に怒られると思って肩をすくめた。いいぞ弟よ、そのままごまかされてくれ。兄の思惑的にどうか頼む。

 母さんとオーシャンのやりとりの間、父さんはずっと黙って見ていたが、母の言葉が一区切りついたところで声を出した。


「アウル、オーシャン」

「「はい」」

「…よく帰ってきた。おかえり」


 俺達兄弟は二人で顔を合わせてそれから答えた。


「「…うん、ただいま!父さん母さん」」


そうして俺たちは家に帰った。



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