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35. 免許皆伝と帰郷

 はじめての狩りから帰って、しばらくオーシャンは興奮気味に俺やブライトに戦闘中のことを話し続けていたが、ふと糸が切れたように眠ってしまった。おそらく緊張の糸がきれたのだろう。そして翌日、俺たちはオーシャンのとったウサギの魔獣を解体しながらツリーハウスの周りで一日を過ごした。今回はオーシャンに解体も一人で任せている。オーシャンはゆっくりとした手つきでしかし確実に肉を部位ごとに分けていった。


「それにしてもこんな大物はまずないな。母ちゃんもお前が一人でとったと聞けば驚くぞ

そしてオーシャンおめでとう」

「にいちゃん?」


 解体が一段落したところで俺はオーシャンに話しかけた。自由に行動して食料もたまったし、サンダー爺のおかげで思いがけず村へ帰る前準備もできた。

 

 そろそろ森を出るころだろう。


「修行は免許皆伝だ。お前は魔獣を倒した。つまり俺の必殺技を習得したということだ。」

「!」

「この修行をオーシャンは達成した。オーシャンの獲った獲物も見せたいし、そろそろ家に帰ろう」


 必殺技の説明は適当だが、そろそろ帰るのにはいい頃合いだろう。俺たちの生まれたあの家に。


「ほんと?!」

「ああ、この兄ちゃんが言うからまちがいない。獲物も母ちゃんにお土産にしていこう」

「やったあ、!じゃあ早くかえろう!おうち!」

「そうだな」


 目をキラキラさせて飛び跳ねる弟をほほえましく見つつ、はやるオーシャンをなだめながら拠点へ帰った。

 この後の一日は変える準備のために荷物をまとめる作業にした。枝肉に分けたウサギ魔獣肉を、草に包んで縛る。他に持っていく荷物を籠に入れ、入らなかった積み上げて蔦で絞った。弟達の目を盗んで移動しなくていいので、サンダー爺のところに通っていた頃よりもかなりしっかりとした荷造りだ。あ、そうだ、あとでサンダー爺のところに行って帰る日を伝えておかなきゃだな。

 準備の間弟が追加で荷物に持って行きたいものを入れてくるので苦労したが、またこの拠点には戻ってこれると説き伏せて少しずつ俺たちは準備を重ねていった。

 村への連絡をこっそりしつつ拠点をあらかた片付けてて数日後、俺たちは背丈の倍もある荷物を背負って出発の準備をしていた。


「オーシャン、焚火は消したか?」

「うん!ゆきもかけたよ!ねえあとこれも持っていきたい」


オーシャンが持っているのはなんと遊び用に作ったブランコだ。持っていくいかない以前にそれは木にまだ結ばれているんだが。


「それはまたもどってこれるから!今度だ今度」

「うーん、これは…?」

「オーシャン…」


 はやくしてくれ、荷物はもういっぱいなんだ。


「おいてくぞオーシャン」

「はーい。あれにいちゃん、これきのうまでなかったよ」


 オーシャンが昨日は縛り付けていなかった新しい荷を背嚢に見つけて聞いてくる。めざといな。

 これは兄ちゃんの家へのお土産だ。弟に負けてられないと思って少し薬草を追加したくなった訳では決してない。


「ずるい!にいちゃんも荷物増やしてる!」

「これはみやげだから。軽いし」

「じゃあこれもー!」

「却下」

「けち!」


 荷物持ち担当の俺の言うことは絶対だ。代わりにブライトを頼むわ。


 狩りでないときのブライトは活発に動くため、ブライトを託すとオーシャンは抱っこされながらも動き回る妹の相手にかかりつけになった。よし。


「じゃあオーシャン、ブライト。家に帰るか」

「うん!!!」「だう」


 そうして俺たち兄弟は冬の森をゆっくりと歩き始めた。


 森での移動はもっぱら木から木への移動が主だったが、村へ帰る道は地面をゆっくり歩いて進んでいく。

 背中にでかい荷物を背負っているものあるが、心なしか高いテンションのオーシャンと道中話しながら、心の準備をするためだ。俺にとってもオーシャンにとってもなにしろ久しぶりの帰郷である。幼いオーシャンの中ではこの森での日々は兄弟たちと子供だけで過ごした冒険のようなものだ。できるだけ楽しく過ごせるように苦心はしたが、どうやっても親が恋しい時期である。

 正直夜中に起きて母さんたちを呼ぶのを聞くのは心がきつかった。森での生活は俺がそう仕向けただけに。久しぶりの両親との再会に、弟が浮足立つのも無理はない。

 村までの道は知っているので脱線しがちな弟を先導しつつ、俺は興奮の抑えきれないオーシャンに付き合ってしゃべりあった。

 そして俺は、弟が森での出来事を何から両親に話そうかと順番を考え続ける続ける様子に耳を傾けながら並行して自分の心を落ち着けていた。


 俺にとっては正直、緊張の瞬間だ。

 サンダーの爺さんに頼んで続けていた文通のやり取りで、俺があの日父さんに背負われた籠の中で起きていたことを、両親は知っている。つまり、いわゆる食糧難による子供の森への置き去りに当事者の俺が気づいていた。ということだ。

 その上で森で食料を手に入れ、困窮している村に持って帰る。突然こんな連絡が来たとしたらそんな手紙をはたして受け入れられるだろうか?俺はもう気にしてないんだけど、もし両親の立場だったらすごくいたたまれない。俺もちょっと気まずいが両親の心境にいたっては推して知るべしだろう。

 実はこれまでの人生で何度か村に帰ったことはあるのだが、今世のように村に帰る前にサンダー爺と関わり、両親に手紙を書いたのは初めてなのだ。

 それに今回の人生は弟との仲を深めた結果、弟のためにいろいろ策を巡らしたのも始めてなのである。つまり今までの人生から結果の予測ができないのだ。

 今まで帰るパターンと言えばは問答無用である日家の玄関に立ち戻り、人の反応も気にせず正しいことだと信じて最短経路を突っ切っていたため、人の心情について考えることは最低限しかしなかった。これから久しぶりに会う両親の反応は俺にとっても未知数なのだ。


 俺を慕ってくれる弟は単純にかわいいし、無邪気な彼には余計に傷ついてほしくはない。そのために俺は今まで森でずっと修行中だという設定を弟の前で守ってきた。

 そんな設定も今日で終わりだ。そして最悪の場合、俺の作ってきた設定は今日の両親の反応いかんで崩れてしまう可能性がある。

 天真爛漫なオーシャンでも、もし両親がよそよそしい態度や戸惑って帰宅を歓迎しない様子を感じとってしまえば、両親との間にいらぬ軋轢が発生する危険性がある。それだけは無いことを祈るばかりだ。これは俺がコントロールできることではないし、完全に賭けだけれども。

 俺ができることは今歩いているこの段階でももうない。緊張だけがつのるなか、着々と村との距離は近づいていった。


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