03. 前回の人生
俺の調きょ、教育がきつかったのか、会社のようになっていった組織の利権を求めたのか、あるいはその両方か。弟が俺を刺した理由はもうわからない。それよりも俺は、「実の血縁に殺された」その事実に、今まで頑張っていた糸が切れたようにやる気を失ってしまった。守るべきだと思っていた兄弟に殺されたのだ。今までいろいろあったが、これまでに異世界での出来事で一番落ち込んだ。
やさぐれた俺はまた生まれかわった。だがその生では畑の改良もせず、魔法も学ばず、武術の鍛錬もせず、自分で動けるようになってから、誰にも言わず産まれた村を抜け出した。
子供の小さい足で凶作で荒れつつある農村から農村をただふらふら歩き続け、空腹で倒れた。行き倒れというやつだ。飢えで死んだことは何度かあったが、今回は何の計画性も目的もなく、そして死んだ後の、次の生への展望もなかった。とにかく何も考えたくなかったのだ。俺は乾いた地面に頬をつけながら、ぼうっとしたまま意識を失った。
そのまま死んだかと思ったが、起きると暗い洞窟の中で目が覚めた。後からわかったが、そこは盗賊が根城にしていた洞窟らしかった。
そこで俺はアズライトに出会った。アズライトは洞窟を根城にしていた賊のリーダーだ。道で倒れていた俺を見つけ、拾ったのが彼だった。
どうやら俺は盗賊の働き手として拾われたらしい。あぶれ者だらけで構成された犯罪組織の下っ端だ。そんなやつらに拾われた俺は特にやりたいこともなかったので、流されるまま賊の一員になった。
リーダーのアズライトは粗野で暴力的だった。しかし不思議と部下に慕われていた。俺のことも、小さい見た目に似合わず思い切り荒んでいた悪ガキのなのに、アズライトは遠巻きにすることなく、なにかにつけ俺を連れまわした。
初め荒れ荒れだった俺は生意気な態度をとっては容赦なく殴られる日々が続いたがなんだかんだ俺は一団に馴染んでいった。簡単に言えばアズライトは面倒見のいい兄貴肌の男だったのだ。
俺もなんだかんだ乱暴だが情に脆く義理は通すところにひかれていき、青年になっても行動を共にするようになった。
アズライトは思っていたよりも年が近く、前世とった杵柄で器用貧乏だった俺は盗賊内でなにかと働くようになり、気づけば盗賊の中で、ボスのアズライトの隣で右腕のようになっていた。
俺たち盗賊一団が活動していた国は不作の年が続き、あぶれた人間が盗賊団に合流するようにアズライトの一団に加わっていた。人が増えた一団は大きな仕事ができるようになり、襲う商隊も大きくなっていった。
その結果少々派手に暴れたせいで、国の正規軍に目をつけられてしまった。拠点を捨てて逃げたのだが、追ってきた兵の数はさすがに一盗賊団んでは太刀打ちできないものだった。
「駄目だアズライト、この先も囲まれている!」
「クソッ、後ろも追いついて来てやがる!」
「俺が殿をやる!その間になんとか突破するんだ!」
「おいアウル‼勝手に動くな!」
「あとで合流する!早くいけ」
「この馬鹿野郎!!必ずだぞ!」
アズライトが叫ぶに手を上げて俺は馬を翻して剣を抜いた。ちょっとした時間稼ぎだ。
やさぐれてろくな鍛錬もしなかった俺だが、田舎から出てきただけの子分より少しは戦える。少々てこずったが追っ手を処理した。いくつか俺の手を抜けてアズライト達の後を追ったものがいる。流れる血を応急処置するとすぐに味方の後を追った。
だが追いついたとき、アズライト達はまさに回り込んでいた追討軍に囲まれているところだった。
「アズライト!!」
「!!」
アズライトの背後から振り下ろされた刃に気づいた俺は、気づけばアズライトをかばっていた。魔力は先ほどの戦闘で使い果たしてしまっていた。直後に背中に衝撃がはしる。熱いと思った後、すぐ痛みが全身を貫いた。
これは助からない。死に経験のやたら多い俺はわかってしまった。背中の傷は内臓に達した感覚があり、体内で血が広がるのがわかる。
残った力で攻撃してきた兵士を倒したが、すぐに力が入らなくなる。膝をついた俺に、同じく敵を処理したアズライトは駆け寄ってきた。
最後に見たアズライトは俺の傷を見て悔しそうに顔をゆがませていた。俺の傷が助かりそうにないことに気づいたのだろう。
「おいアウル!他のやつらは無事なんだ。あとはお前だけだぞ。しっかりしろ!目を閉じるな!!おい!」
そのころには既に視界がかすんでいた。崩れる俺の体を支えるアズライトの声もやけに遠く感じる。だが味方は逃げることが出来たのは幸いだ。
結局今回の人生も二十にもならず死んでしまいそうだが、親しくしていた人間を守ることができたのだ。俺は久しぶりに安らかな気分だった。直前の死とは大違いな気分だ。
最近は生まれ直しの産声を上げるときはひどい嗚咽が混じっていた気がする。だが、次生まれるときはきっと違う気分だろう。そんな予感がする。
そうだな。もし生まれ変わるなら、今度は俺は…
そうして意識は薄れていき、
気づけば見慣れた俺の人生が、再び始まった。