29. 頼み事
「俺の親にこれを届けてほしい。あとライアンには俺は元気だって伝えてくれ。」
一応多めに持ってきていた完成済みの干し肉といくつかの薬草を懐から取り出した。爺さんにも少しやろうと持ってきた分を全部おいていこう。頼みごとをするわけだし。
「さっきからわからんかったんじゃが、どこでこれを手に入れたんじゃ」
「まあ話すと長くなるが、簡単に言うと狩って獲った。あ、これ母さんたちだけじゃなく爺さんの分もはいっているからな」
「簡単すぎるっ!おい儂はそんなものいらんぞ!」
「俺が頼むんだ。ライアンに良くしてくれたようだし、それに今の俺じゃ一人でできることは限界がある」
かまわず食料を並べ続けると、ため息をつきながらまたサンダー爺は目を覆った。すまん。今日は歩き疲れに加えて頭も疲れさせてるな。
「アウル、お前何をするつもりじゃ」
懐の肉などを出し終わると、顔を上げた爺さんに聞かれた。夜中に突然来た子供が村では貴重な食料を渡してくる。確かに不審者だな。まあ別に言ってもいいか。
「俺は数か月後に村に帰ろうと思う。でも死んだはずの俺が今帰っても迷惑だろう?だから少しずつ、村のやつらが俺達を受け入れられる迎えられるるように、助けてほしい」
「アウル、」
「その手始めがこれだ。村の生活が苦しいのはわかってる。俺の知り合いから少しずつこれを渡してほしい。最初はどこで手に入れたかは言わなくていい。でもまた持って来る。どこで手に入れたかしつこく聞かれたら、その時俺たちのことをこっそり伝えてくれ」
俺の要望をきいて、しばらく黙っていた爺さんは今度は重々しく口を開いた。
「アウルよ、どうやったのか知らんがお前がここまでやって生き延びてきたのはわかった。だがこれはそんなに甘くはないぞ。」
「サンダー爺」
「人間ていうもんはそんなに優しいもんじゃあない。与えたところでそれからは取られっぱなしだ。森において行かれた上にお前が献身しようと、結局はただ損するだけだ。肉親への思慕かもしれんが、もうそんなもんは振り切ってしまえ。生きていけるなら血縁なんぞしがらみになるだけだぞ」
爺さんが肩をつかんで俺の考えをやめるよう説得する。爺さんやっぱり優しい人間だよな。顔は怖いが初めて会った他人の子供のことを真剣に考えている。俺は爺さんのカサカサの手を上からにぎりしめた。
「うん、だからあんたに助けてほしいんだ。振り切って一人になっも俺がやりたいことはできないだろうからそれに、」
「なんじゃ」
「弟と妹がいるんだ。俺はあいつらの兄貴だから」
そう言うと、肩をつかんでいたサンダー爺の手が力を弱めた。またため息をついて俺の顔をまっすぐのぞく。
「・・・わかった。だが儂は後悔しても知らんからの」
「ありがとう爺さん、これからよろしく」
サンダー爺はようやく頼みごとを引き受けてくれた。正直こんな爺さんを働かすのは気が引けるが、俺が今持ってる人脈はこれくらいしかないので頑張ってほしい。俺も頑張るから。
そのあと、食料を持ってくる周期や供給の量などを話し合って夜が明ける前に俺は森の拠点へ帰った。
帰ったら寝起きのブライトが俺を探して窓から出ようとしているのを見て冷汗をかき、どこからはい出したのか現場検証をしている間にブライトがなぜか自分の魔力にそぐわない量の魔力を操作をしている様子に謎が増え、わからないままだが寝不足だったので狩りにはいかず、その日はオーシャンに皮はぎレクチャーをしながら慌ただしい森での日々に戻っていった。




