27. 森の探索者
弟オーシャンの成長に頼もしさと少しの寂しさを感じた次の日、俺たちは拠点近くの谷合いに向かった。今日の訓練は高低差のある足場でかくれんぼだ。ちなみに村ではこの遊びをクマカクレと言う。見つける方がクマ役、隠れる方が迷子役だ。
慣れない遊びに夢中になる度に俺も弟もかすり傷などが絶えないが、その都度回復魔法を使って治していった。最近着々と魔力が増えているので遠慮なく使用していく。使っては増え、使っては増えの好循環だ。
森での暮らしを優先する理由のひとつはこれだ。実はこの森で幼少期を過ごすと魔力の増加が過ごさなかった時と微妙に違うのだ。理屈はわからないがおそらく、魔獣の多い森は生物の魔力を多くする作用があるのだろう。魔力が多い場所で成長すると魔力の増加も増える。俺は経験でそう感じるようになってからは子供時代はできるだけ森で暮らすことを優先するようになった。塵もつもればなんとやらだ。
ちなみにこの仮説を魔法使いの師匠に提言したが、鼻で笑われた。許さん。いつか殴りたい。
オーシャンには遊びの傍ら、身体強化の応用で、感覚を鋭敏にし、森の中を探索する方法も教えた。
いつもより遠出をし、新しい場所で新しいことを学び、クマカクレの遊びでオーシャンも夢中になって動き回った。俺の兄弟育成計画は順調だ。生きるにあたってはできることが多いに越したことはない。俺に負けないくらいどんどん強くなってもらいたい。もちろん俺も追いつかれないように頑張るつもりではあるが。
今日この場所を選んだのはもう一つ別の理由がある。オーシャンと遊びながら雪の積もった地面を睨んであちこちを動いた後、少し高い丘の雪の薄い地面の隙間から細い蔦が伸びているのが見えた。俺が探していたものだ。これはいわゆる芋科の植物で、うまく増やせば救荒作物になる。もちろん今までの人生で自生する場所は把握していた。俺は持ってきたバケツに土ごとその苗を採取した。肉以外の食料の確保完了だ。
そのあとの特訓の合間にも、使えそうな植物は採取していき、帰るころには籠がそれなりに埋まっていった。拠点に帰ったら苗たちを住処の近くに植える予定だ。少し萎れているのもあったが、花畑の近くは気候が穏やかなのでうまく育ってくれるだろう。
日が暮れる前にはサルごっこをして拠点へ移動した。サルごっこは地面につかずに木の上を移動する遊びだ。俺が今勝手に命名しました。最近はなんでも○○ごっこか○○特訓をつけてオーシャンと遊んでいる。普通の幼児はこんな忍者みたいな芸当は不可能だが、身体強化を習得した俺達なら可能だ。妹ブライトは子持ちサルとして俺の胸に鎮座している。
森の空中を移動して帰る途中、見慣れないものが目の端に映った気がした。
「オーシャン、ストップ」
「ん、どうしたの?にいちゃん」
俺の声に近場の幹に降り立ったオーシャンがこちらを向いた。俺は向かいの山肌を指さした。
「あれは…だれかいる?ひと?」
「ああ、クロスボウを持っている人間だな」
身体強化で目に魔力を集めると、山肌を歩く人物は犬を連れて雪山をゆっくり進んでいた。あれは村で見たことがあ人間だった。
「ザンダー爺だ。足が悪かったはずだが」
村と森の中間の小さな山小屋で暮らしている爺さんだ。今世で関わったことはないが、これまでの人生で遠目から見た感じは偏屈な爺さんの印象があった。そんな爺さんがなせこの森に?
ザンダー爺のあるく山麗は俺たちがいる場所より村に近いが、ここからでもわかるような足の引きずり方で森に来ているのは純粋に不思議だ。これまでの人生でこの時期に遭遇したこともないから、定期的に森に入っているわけでもないだろう。
ふむ。
「オーシャン、帰ろう」
「え、あのひとは?」
「今日はもう日が暮れるし、あの爺さんも帰るだろう。それに」
「それに?」
俺はわざとらしくで音量を落として言った。
「今は秘密の修行中だからな。」
ふざけた気配を弟も感じてくれたのか、いたずらっぽく弟も声をひそめた。
「そうだね。ひみつのとっくんだもんね」
そのあと俺たちはサルごっこ改めニンジャごっこ(命名:アウル・アゲード)をしながらツリーハウスに帰った。
弟達が眠ったら少し様子を見に行こうかな。




