25. 弟の覚醒
食料の制作と並行して、弟が森での生活でも飽きないように魔力操作の訓練も同時並行で考えた。
さすがに石を駆けあがり続けるだけの訓練では味気ないので、肉を燻している間にオーシャンと追いかけっこをしたり、木に登ったりと遊びながら一緒に体を鍛えた。
花畑の周囲は環境改変魔草の影響で寒さは和らいでいるとはいえ、今の季節は冬の真っただ中だ。動いていないと体は冷えてくるので、鍛錬がてら遊びは多様化した。主に激しく動く方向に。雪を固めて投げ合う雪合戦もさっそく遊びのスタメンになっている。
「そこだ!えいっ!」
「あまいぞオーシャン!」
雪原の中、丸い雪玉が空にとびかう。ほどほどに球を避けたり当たったりしながら俺は食料づくりの気晴らしに全力で遊んだ。なんだかんだ夢中になっちゃうんだよなあれ。
「たかいたかい」の遊びと同様に、弟は遊びに夢中になるほど魔力操作を無意識に使いこなしている。今も雪玉を持つ手を中心に体の魔力を集めているのがわかる。
訓練らしいことも継続してやっているが、すでにある程度操作で来ているのもあって魔力の訓練は娯楽もかねて楽しい内容で増やしていった。
妹のブライト?あの子はなぜか籠の中にいるのをを嫌がるから俺の背中が固定位置だ。雪玉はぶつからないよう注意して動いているが、激しい俺の動きに泣くことなくむしろ歓声をあげて喜んでいる。さいきん気に入っているのおやつは熊肉の干し肉で魚を出すと不満げになります。
そんな中、ある日弟の才能が開花した。
それは奇しくも「たかいたかいVER2.5」の遊び中のことだった。「たかいたかいVER2.5」は2.0に加え、投げる際にひねりを加え回転をつけたものだ。森での遊びのため、村より遠慮せずオーシャンを飛ばしていた際、あやうく森の針葉樹の枝先にぶつかりそうになった。あわてて俺は駆け上がったが、もう少しで枝に触れそうになったとき、オーシャンは子供の脚力とは思えない力で枝を蹴り上げ、俺の胸にはね返って収まってきた。
あの瞬間俺はオーシャンの魔力の発露を感じた。驚きながら地面に降りると、弟は何が起きたのかわかっていないのか、ポカンとした顔をしている。
「オーシャン、今やったこと覚えているか?」
「うん?」
「枝の上でジャンプしただろ?あの感じを思い出しながらもっかいここでジャンプしてみろ」
「う、うん」
とまどいながら弟はうんしょと膝を曲げてその場でジャンプした。次の瞬間、俺の頭のはるか上にオーシャンの足が上がっていた。
「うわっ!!」
「オーシャンこっちだ!」
「にいに!」
急に高さが変わってあわてるオーシャンに声をかけるとその目は俺をとらえ、いつものたかいたかいの要領で俺の腕に飛び込んでいる。
びっくりした顔で弟がこちらをみた。俺も驚きながら抱きかかえた弟に笑みをむける。
「やったなオーシャン。魔力を使えるようになったぞ」
「まりょく?おれが?」
さいきん俺の自称を真似し始めた弟の瞳が瞬く。
「ああ、いちどコツをつかんだら、二度目は簡単だ。これは修行の第一関門突破だぞ」
「ほんと?おれもクマたおせるようになる?」
「ああ、これからオーシャンはどんどん強くなれるぞ」
するとキャッチしたままの手の中の弟はぶるぶる震えてつぶやくように俺に問いかけてきた。
「にいにみたいに?」
「そうだな」
「…や、やったー!!!」
魔力は多いし運動神経もいい。そのうえ若干二歳の村人が身体強化を使えるようになるのは極めて珍しい。俺?ループでズルをしているので除外で。
将来有望な弟に感想を素直に伝えるとオーシャンは嬉しさを隠せない顔で万歳をした。強さは生き抜くことに直結する。追い抜かれるのはひやひやするが、弟がたくましく育ってくれて素直にうれしい。俺はつい興奮して、弟をつかんだままくるくる回って一緒に喜びを分かち合った。




