24. 森での日課
毎日毎日、冬の朝日が昇る頃に起きては保存食の制作をせっせと進める。俺が持っている刃物は村からくすねた小刀一本なので一日に作業できる量には限界がある。弟達にはもちろん危ない作業だし、結果俺は一人で黙々と作業を続けていった。
肉を乾燥させ、燻す場所も無限にあるわけではないのである程度の量が出来ては保存する洞窟に運んでいった。あの調理器具諸々を頂いた何某さんのいた洞窟だ。洞窟の主人は丁寧にほかの場所で埋葬させてもらい場所を譲ってもらった。金属類が保存できていただけあって、洞窟内の温度は一定で乾燥している。保存場所としては最適だ。
今回の生で森での滞在を決めた大きな目的の一つは、食料の備蓄だ。
農耕が主な産業である俺の村の食料事情は穀物中心だ。狩人は村のはずれに年寄りで偏屈な爺さんがいるのだが、ずいぶん昔に怪我を理由に引退しており、あまり俺の生活とも接点がなかった。加えて雹赤熊がいたせいで森は立ち入り自体避けられている。つまり村の若い人間たちは森深くへ分け入り食料を得ることに消極的なのだ。
家族を守りたいと試行錯誤した今までの人生。何回もやり直しを経験した結果、俺は村全体の生活水準を上げるのが生き延びるのに最適解だという結論にたどり着いた。凶作の前に村の外から救荒に向いた食料を持ち込んでもよかったのだが、それをした人生では馴染みの人間にも気味の悪い子供だと遠巻きにされ、異端に扱われた。異質なものへの感情的な受け入れは、思ったより時間がかかる。そんな感情のロスはこれからやりたいことを考えれば割に合わない。
という訳で使うのが森の置き去りイベントだ。多少無理があっても森で生き延びた子供の証言があれば、目新しい食料の獲得方法にも現実味が出るだろうし、俺がしれっと魔法を使えるようになったのを見ても命の危機から覚醒したのだと解釈するだろう。
そのためにはまず俺達が生き延ることが出来た食料の存在証明と、更にそれでもって村の食料事情を改善できるという圧倒的物量だ。そのために俺はこの冬森でハムスターのように食料をためることにした。村に帰るときには村人を驚かせられるくらいに。
大人をだますように行動している事にちょっと後ろめたさはある。それもあってで俺はせっせと食料づくりに日々励んだ。森での生活で貯蓄できるだけ保存食は作っておこう。村の人間を食わせるには熊肉も十分栄養源になるが、追加で狩りにでることも計画中だ。
湖の魚とりは継続中で、新鮮なものは日々消費している。食べきれなかったものはこれも乾燥させ保存庫に追加した。花畑では相変わらず希少な魔草がいくつか咲いているので、これも採集する。これは乾燥させ街に持っていけばいい値になる。俺が薬学師だったころは喉から手が出るほど欲しかった薬の原材料だ。産まれた村の森にあると知ったときは灯台本暗しとはこのことかと、悔しさに膝をついた。
この森の奥地はあの雹赤熊がいたため人の手がほとんど入っていない。また、弟達がいる手前、まだ遠出の狩りには出ていないが、実はこの森、雹赤熊に始まり魔力を行使する、いわゆる魔獣があの熊以外にも多く生息する森なのだ。魔獣は普通縄張りである森を出ないため、森に入らない分には村に害はない。
それより重要なのは魔獣の多い森は魔獣の数にともなって、魔力を帯びた魔草も多く植生しているという事実だ。魔草は薬の原材料として高値で取引される。拠点の花畑を中心に、俺は目ぼしい植物を見つけては採取し備蓄を増やしていった。
金になるものはなんぼあっていもいいからな。




