21. 森での生活
村から森へ向かう際運ばれた籠の中には、申し訳程度に丸いパンが一つ入っていた。子供といえど三人分にはとても足りないが、軽く体を洗った後、三人で朝ごはんとして食べ、俺たちは森での生活を開始した。
軽く腹ごしらえをした後、簡易的に作った寝床を本格的に三人で住める場所に整える。身体強化は魔力効率がいいので、人目のない今は遠慮せず使って作業を進めた。
高さの同じ枝を持つ木々の間に軽く枝落とししたした丸太を横渡しし、固定して床板と屋根をくみ上げる、壁は細めの枝を組んで蔦で縛り、隙間には苔や草の葉を敷き詰めて風を防ぐ。
住処を作った主要な幹に何段かとっかかりのくぼみを掘れば簡易な梯子になる。完成した住処の見た目は茶緑の完全保護色のツリーハウスだ。
地面から高さを上げているので、木を登る熊以外は防いでくれる。冬なので冬眠中の蛇は出てこないだろう。
俺が作業をしている間、途中で見るのに飽きた弟が暇をもてあそび始めたので、花畑で草摘みの任務を命じた。花畑の中から傷に効く薬草を見つけて採取するミッションだ。いくつか俺がとって採集の見本を見せた後、オーシャンが見つけた植物を何本か正誤判定をしてやると、オーシャンもコツをつかんだのか自分で草の中から目的の薬草を探し始めた。夢中で地面にかぶりついたオーシャンを視界の隅に収めつつ、俺の作業も加速させた。ちなみに妹のブライトはずっと俺の背中でおんぶしている。
時折没頭しすぎて薬草の花畑からはぐれていく弟の軌道を修正しつつ、今度は窯を整える。ここは煮炊きはもちろん、昨日仕留めた雹赤熊の肉を保存食にするため、燻す場所としても使えるよう広めに整えた。
いったん作業が落ち着くと、オーシャンが採集の成果を見せに駆け寄ってくる。俺たちが入っていた籠は本来の使い方の通り、オーシャンによって採集された草が大量に詰まっていた。
「にいちゃんこれは?」
「これとこれはちがうなあ、でもほとんど正解だ。すごいぞ、オーシャン」
「やったあ!」
「これは料理にも使えるから、今日のご飯に使おうな」
「おれがとったやつつかうの?すごい!」
何の料理に使うのか弟の質問攻めにあいつつ、今度は一緒に水場に向かった。熊は今川の中だし、燻製場所はまだ未完成なので、今日の晩飯は湖の魚だ。
この湖は今までの人生で何度もお世話になった重要な水場だ。冬でも凍らず、水草もあるので栄養補給に事欠かない。
俺は湖につくと、籠から取ってきた薬草を取り出した後、中にいくつか枝を指し、パンくずを少し入れ簡易罠にしたものを湖の岸辺に鎮める。罠となった籠に夢中になるオーシャンの様子を確認しつつ、手早く近くの洞穴に入り込んだ。洞穴を進んでいくと、奥に白い骸骨が横たわっている。
いつかの誰かが森で息絶えた骸だ。俺は何某かに手を拝みつつ、洞穴の周囲を見渡した。この骨の横には錆びたランブや旅用の簡易鍋などが転がっている。これが目的だ。食料はなにかと手に入るが、調理器具や道具はなかなか手に入れることが出来ない。半野生的な森生活をおくった人生の何度目かでこの洞窟と見かけたとき、俺は涙を流した。嬉しさと今までの苦労を思い出して。
ポットや鉄の鍋など、あるものを持てるだけ拝借し、外に出ると、弟の姿がなかった。慌ててあたりを見渡すが、動くものは見当たらない。しまった!俺が目を離したせいか!
必死でオーシャンがいた場所に駆け寄ってあたりを見渡すが、鎮めた罠籠が少し持ち上がっているだけだった。まさか水の中に?
水面に目を凝らすとかすかに色の違う場所がある。俺は焦る気持ちを抑えながら背におぶっていたブライトを近くの幹に縛った後、すぐに湖に飛び込んだ。
水の中に、果たしてオーシャンはいた。意識を失っているのか、水底に静かに落ちている。俺はさらに深く潜って弟を持ち上げると、水面へ上がった。
乾いた地面に上がるとすぐにオーシャンの呼吸の確認をする。心肺蘇生をする加減がわからないため、俺は弟の口に手を突っ込み、魔力を操作した。また少し無理をするが、弟の命には代えられない。集中してオーシャンの気道に入った水を誘導すると、しばらくして弟の口から水が吐き出された。そのまま咳をするオーシャンは激しく息をしてようやく息を吹き返した。よかった。濡れた弟がかすんだ目でぼんやりとこちらを見ている。安堵の息が漏れた俺は、危機を脱した弟をそのまま毛布にくるんで、おとなしく待ってくれていた妹と一緒に担ぎなおし、俺は拠点へ全速力で走った。




