02. ループの始まり
異世界の大熊に襲われた俺は、恐怖の悲鳴を上げたつもりだったが、それは産声になっていた。いやなんでだよ。
気づいたらそこは三年前に一度見たことある光景だった。明るい部屋。見覚えのある両親。視界に移る小さい自分の手。つまり俺は異世界の両親のもとへ、もう一度生まれなおしていた。
ほんとになんで?はじめは何の因果か俺の下の兄弟にでも生まれてしまったと思ったが、どうにも違う。セレネ母ちゃんはあんまり変わってなくてわからなかったが、問題は親父だった。俺が二歳くらいの時に狩りで負ったという右頬の傷がない。そして決定的だったのが俺のことをアウルと呼ぶ。そして初めての子供と喜ぶ周囲の声だ。そう俺は長男坊だった。そういうわけで俺の異世界人生のやり直しがはじまったのだ。
異世界に生まれておいておいて一度死んでしまった俺は、あせった。そして頑張った。死んだのは夢だったかもしれないが、最後に見た獣の牙が恐ろしかったからだ。
特に三歳を過ぎた後、冷夏が来てからは森の大熊は現実のものだと実感を新たにして、体を鍛えたりした。
年齢的に森行きは回避できなかったので(子供の睡眠力故)、それはもう頑張った結果、なんと奇跡的に熊を倒せた。すごくね?無手から自分を鍛え上げた俺をほめてほしい。しかし道を覚えて帰ったところで飢饉の年の村は飢えており、今度は飢え死にしてしまった。
これで終わりかと思ったのだが、飢え死にの後、また同じ村、同じ両親の元へ生まれ変わった。これはいけない。嫌な予感がしながらまた生まれ変わった俺は、今度の生ではは森での自給自足を図った。何度か死に戻りして数年暮らすことができたが、ふもとの村には帰れず10歳になる前に赤熊よりも大きな魔物に遭遇し、結局襲われてそのターンは終了。
嫌な予感が的中してまた同じ場所に生まれ変わってしまった。
そして仕方なく確信した。
これ、ループしてる。そして思った。どうやら俺はもっと強くならなければこの世界では生き残れないらしい。そう思った俺はやり方を変えた。村の人や魔物を見て魔法の存在を知っており、これだ。と思った。成長した後、森からほかの村を目指し、何度か野垂れ死にを繰り返した後、道を覚えてようやく都会に行き着いた。そこで魔法使いの見習いに何とか紛れ込んだはいいが、下働きの段階で執拗ないじめにあい不審死(おそらく毒を盛られたので次の回では薬草等を分析して対処したが)。
今度は魔法使いギルドはたくさんだと思い、見習い時期に学んだ薬草の知識をもとに日本での肥料みたいなものを作れないか研究した。幼少期から実家の飢饉の対策に励んだ。その甲斐もあって村が豊かになったのはよかったのだが、こんどは田畑の実りを求めて森の魔獣が麓に降りてきて、壊滅。これは相当落ち込んだ。成果が出たのにそれが破壊されるのは心にクる。
ここらへんで少し疲れていたが、そうはいっても生まれ変わりは終わらない。
次の人生は、村の飢え覚悟で一度森口減らしイベントを通り、都市にむかい、今度は国の兵士の見習いで武術を学んだ。魔獣の氾濫を経験して自分には力が足りないと思ったからだ。今考えると単純な思考回路だ。
兵士の見習いで任務についていくうち、魔獣の氾濫は豊になった俺の村とか関係なく国中で起こっていたことを知った。人手の足りない戦場では、俺のような下っ端も現場に駆り出されたので、支給された武器と実践の機会を存分に利用して腕を磨いた。プテラノドンくらいの飛ぶ魔獣は単騎で倒せるようになったところで急いで村に帰り魔獣の対策を行った。魔獣の氾濫を無事防ぎ、安堵していたら、放置した魔物の骨がアンデット化。結果村がまた壊滅。聖魔法が使える軍人の重要性を実感した。
アンデッドは魔法が使えなければ倒せない。おろそかにしていた魔法が必要だ。
今度は本格的な王都の魔法を学びに前々世かいつだかわからない知り合いの弱みを握って学校に入り、実践から理論まで使えそうなものはとりあえず身に着けた。実力がついてから家に戻って学んだことの応用で魔獣のアンデッド化を阻止。
そしたら今度は安定した魔物の素材を求めて歴戦錬磨の商人たちが骨をしゃぶるように俺たちの村にやってきて、からめ手で俺達の努力の結晶を奪っていった。地元の知り合いに相談され情報が集まると、不当な取引は魔物の素材以外でもされていた。いいようにされていた村人に代わって交渉をしていたら、言いがかりの罪を着せられて投獄された後にさっくり暗殺されてしまった。怖いのは生きている人間だ。
イライラしながら生まれ変わり、今度は商家で商売を学び、足元を見られないよう村に商会をあらかじめ設立した。これに関しては俺だけが頑張っても手が足りなかったため、村の暇している兄弟を動かし、商売の手伝いをさせた。人に仕事を分散させる有用性に気づいたのはこの時だ。これ交渉ごとだけじゃなくアンデッド対策とかもやらせればよくね?
数えきれないやり直し人生に荒んでいた俺の思考は極端に商業に携わっっていたこともあって、合理主義に振り切っていたように思う。やることが多すぎて顔の表情は久しく失われていたし、セレネ母ちゃん譲りの銀髪は輝きを失って白髪のようにカサカサだった。二十代にもなっていないというのにループで積み重なった疲労で、はたから見れば、生気が失われた老人のようになっていたと思う。
というわけで楽がしたかった俺は頑張って数だけは多い兄弟を調きょ、もとい教育して戦術と商売のための学問を叩き込み、なぜか受注するようになったアンデッド対策と魔物専門の素材卸売、農作物の肥料販売を家族にさばいていった。
忙しい中で組織の管理に追われピリピリしてしまったため、働いている従業員からは遠巻きにされていたが、それに気を配る時間はないと馬車馬のように働いていた。働かなければ待っているのは悲惨な死だ。そう思って。
数年間休みなく働き、やっと皆仕事が身についてきた。少し楽できるぞと思った矢先、なぜか弟の一人がナイフを突き刺し俺は死んだ。
そうして俺は、何度目かわからない異世界人生の振り出しにまた戻って、産声を上げたのだった。