18. 雹赤熊
暗闇の森の中、弟と妹を起こさないようにゆっくりと籠から抜け出す。包まれていた毛布を二人にかけなおすと、そのまま二人の入っている籠を背負いなおした。
そのまま身体強化を使って二人を運びながらこれから現れるであろう、この森をなわばりにしている雹赤熊に対応するための場所に向かう。村に生きるだけなら逃げる一択だが、この数時間では遠くに逃げることはできないし、冬眠をしないあの熊は腹を空かせて執念深く、しばらく森で過ごすには今日ここで仕留めるのが吉だ。
もともと籠を置かれた場所は、雨風はしのげるがひらけた場所ではなかった。あそこより動きやすい広場に今俺は向かっている。その場所も事前に下見済みだ。森を駆け抜けて広場につくと、眠っている二人を起こさないように籠を置いた。よし、条件のいいフィールドには到着した。あとは獣が来る前にできる準備をしておこう。
近くに群生している薬草をいくつか摘み、ついでに見つけた音消しの薬草も何束か籠の中に入れ、物音がしてもばれないよう対策した。あとは家からこっそり取ってきた小刀で切り取った枝を数本削っていった。
そして東の空が白んで朝が近づいてきたきた頃、あいつはやってきた。
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3歳児の俺からみると小山のように大きい体躯がのそりとこちらに近づいてくる。黒々とした木々の間から姿を現したそれは、幹のような剛毛で毛先は赤黒く光っている。吐き出される白い息は朝日に反射して霧のように体にまとわりついていた。森に侵入してきた俺達の匂いをたどってここまで来たようだ。
秋の終わりに冬眠を選ばず、食料の乏しい冬の森で腹をすかせたその熊は、うちの村では雹赤熊と呼ばれている。俺は籠の中のオーシャンとブライトを背後にし、そいつと対峙する。二人は目立たない木の洞に隠しておいた。
俺の選んだ有利な場所で、俺は先行でかけた。身体強化を使って先ほど削った鋭利な枝を熊の目めがけて投影する。尖枝の先端は迷いなくそいつの眼球に吸い込まれていったが、肉を裂く前に鋭い音をたてて砕けた。雹赤熊の目には半透明な結晶が張られて、眼球をガードしている。さっきまではなかった物だ。
そう、実はこいつ、氷魔法を使うのだ。だからこいつは雹赤熊と呼ばれている。いわゆる魔獣の一種だ。
まあそれは事前に知っていたので、周りの木を使用して背後に回り込む。高い枝に飛び移った後、雹赤熊の背後に二本目の枝を連続で突き刺した。雹赤熊は後方にそこまで警戒がなかったのか、氷のシールドは張られず、今度は少し突き刺さる。分厚い皮膚を少し貫通したおかげで、熊の注意はこちらに向かった。
殺意のある目で突進してきた雹赤熊の正面から一度離脱し、死角に入っては投影、死角に入っては投影を繰り返し、傷を重ねていった。苛立った雹赤熊はついに氷魔法での攻撃を仕掛けてくる。赤熊の周囲に魔力が集積し、氷の礫が投影された。礫が射出された瞬間右にずれると、元いた地面に尖った氷の結晶が突き刺さっている。いいぞ。できれば魔力を消費させていきたい。そのまま一撃離脱を繰り返して攻撃を繰り返した。時間はかかるがこれからのことを考えると魔力の消耗は少ないに越したことはない。
そうやって俺は弟と妹の場所に雹赤熊が行かないよう注意しながら戦闘を続けていたが、しばらくして二人のいる場所で音がした。
音消しの薬草が少なかったのか、籠の中の物音も雹穴熊の威嚇音も外に聞こえてしまったらしい。幹の洞からの音に熊も反応しそちらに目を向けてしまった。ちょうどその瞬間、籠の中かから小さな頭が顔を上げようとする。まずい!
「にーに?」
眠そうな顔で弟のオーシャンが眠そうな表情で籠から顔を出していた。




