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16. 不作の年


夜のピクニックは夏の間何回か決行した結果、森ですごす事に兄弟達は慣れてきたようだ。なお妹にはなぜか毎回見つかり、仕方なく連れていくようになっていった。まあ最終的には三人でおいていかれるから好都合ではあるのだけれど。


そんなこんなで夏の間は子供らしく遊んでいたのだが、これまでの人生の通り、村で生まれて三年目の今年、夏は冷夏だった。収穫の時期が近づくにつれ、大人たちの顔に渋い表情が浮かぶようになる。穂が十分に育っていないのだ。いつもは青々とした一面の麦畑の色は色あせており、葉に近づくと黒い斑点がまだら上についていた。

 それでも実がつく時期になると作業も増え、そして大人たちの様子はさらに暗くなる。村のまとめ役である父は、夜に何度も大人たちの集まりに駆り出されるようになった。

 不作の気配は日に日に強くなっていくが、大人たちが忙しくしているのをこれ幸いと、夜の抜け出しを増やして森での冬ごもりの準備を進めた。拠点の目ぼしに薪作り、防寒の計画と食料を保存する場所の制作。なにしろ弟達と森で生きるのは初めてのことだ。俺だけ生き延びる基準で過ごして体を悪くしては本末転倒。少々過保護かな?まあ備えあれば憂いなしというしな。

 そういうことにして思いついたものは取り合えず森の拠点に追加していった。


 しばらくして、収穫の時期になった。

 例年穀物の倉庫にしている小屋は、収穫が終わっても要領の半分も埋まらない。収穫祭はあったが、祭りの料理はあからさまに品数が減っていった。

 そして冬が近づく中、食卓の料理の量も少しずつ減っていく。母セレネは何かと工夫をしてかさまししてくれるが、その結果が具材のわずかに浮かぶスープだったりした。それを見る俺も心は苦しいので、昼間に川でとった魚やちょっとした野草を集めたりしたが、毎日の食卓を潤すには雀の涙だ。俺はまだ遊びが仕事のような毎日だったが、いつのまにか村の子供も、いつもは近づかない森の淵まで食べられる植物や薪を集めに行くようになった。

 幼い弟と妹も不穏な空気を感じ取ったのか、不安がる様子を見せるようになる。そんな二人をあやしながら、村全体が暗い空気のまま冬を迎えた。

 


寝静まったリビングで二人の諍いが聞こえる。




「あなたは良いっていうの!?」

「…皆を決断させるには俺達が見せなければ、」


大きく机を叩く音が響く。


「それであの子たちが生贄に?!なにも、三人ともなんて、ま、まだあんなに幼いのよ!!」

「森へは俺が連れていく。奥地のほうへ行けば、」

「もういい!聞きたくない!!!」




 そんな夜はオーシャンとブライトを外へ連れ出した。

 森へ行ったり、そうでなくても近くの原っぱに行ったりだ。そんな日は月明かりの広場で弟達は静かにあそんでいる。

父と母が数日にわたり口論した日か続いたのち、ついに森に向かう運命の日がやってきた。


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