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15. 夜のピクニック

 初夏のさわやかな夜、今日はあの計画の決行日だ。今日のために俺は最適な日程を探してこの日に決めた。まずで農作業でそれなりに忙しい両親が疲れて眠る日を予測し、弟の昼寝が長く夜に起きられる、更に天気が良く新月。夜中に二人の子供がこっそりいなくてもばれる確率が低い日を選んだ。

 ダメ押しで子供ベッドの中に慣れた手さばきで原材料布団の簡易身代わり人形を作る。今日は一応弟の分もだ。時間は深夜。準備は万端だ。頃合いになると眠気のすっかりなくなっている弟をそそのかして出かける準備をした。


「オーシャン、オーシャンおきてるか?」

「にいに?」

「シーッ、静かに。なあ、俺も寝れないから、今から蛍を見に行かないか?」

「ほたる?」

「お尻が光る虫だ。夜に見るとピカピカ光ってきれいなんだ」

「みるー!むぐ」


オーシャンの喜声が部屋に響き渡ったのであわてて口を押えた。阻止はできなかったが、幸い家の人間は起きてこなかった。


「よしっ、でも母ちゃんたちには内緒でいくから静かにするんだぞ」

「うんっ」


 日々新しいものに興味津々なオーシャンは今度は声を潜めて賛成してくれた。

 さっそく同意してくれた弟を背負うと、開けておいた窓から飛び出すことにする。


 予想外なことが起きたのはこの直後だ。

 家を出ようとしたとき、まだ1歳にも満たない妹のブライトが窓枠にかけた足にしがみついてきたのである。最近歩けるようになった妹は家中の探索をしまくっており、子供用のベットの柵も易々と超えることが出来るようになっている。結果俺たちの高めのベッドにも登ることは造作もない。だがブライト、その鍛錬の結果を今出さなくてもいいだろう。

 やんわりとその手を外そうとしたが、異様に強い拳は全く離せなかった。子供らしからぬブライトの鋭い眼光は不満そうな意思を隠そうともしない。何がお前をそうさせるんだ。

 何度か格闘して俺はふと気づいた。もしかして、


「ブライト、お前も出かけたいのか?」

「う!!!」


 妹に問いかけると力強い返事が返ってきた。そうかあ。


「静かにできるか?」

「う!」

「泣いてもだめだぞ!」

「う!!」

「兄ちゃんの言うことは絶対だぞ」

「う!!!」



 くどい!!!!と言いたげな返答が返ってきた。ブライトの意思は固そうで、置いていくと却ってねている親にばれそうだ。しかたない。俺は諦めて妹を胸の前に抱え、夜の世界へ飛び出した。


 暗闇の中でも慣れたもので、兄弟二人が増えても、俺は家から森への最短距離を身体強化を使って移動する。垣根から最短の木の上に飛び乗り、幹を蹴って次の木へ移動。森へ渡るための小川は唯一の木橋は渡らず、森への直線距離の岸辺から跳躍して飛びこえた。いつものお出かけコースである。

 事前に言い聞かせておいたおかげか、弟と妹は静かに俺に担がれてくれていた。

 あっという間に森の入り口につき、暗い木々の中をそのまま通り過ぎる。一気にあたりが暗くなるが、目に魔力を集めれば夜目が強化され、数メートル先の飛び移る枝がはっきり見えた。俺はその枝に延び移り、そのまま今日の目的の場所まで一気に移動した。


 森の中の少し開けた場所に降り立つと、俺は手早く火をおこした。ここは俺が森の拠点によく使っている場所だ。村から近い割にうまい具合に隠れやすい場所なのである。

 焚火が安定すると、懐に隠していた干し肉を少しあぶって弟に渡した。暗闇に少しおびえていた弟は焚火の光に少し安心した表情になり、切っ先が焦げた干し肉をしゃぶるとようやく目を輝かせた。それを見て俺も胸をなでおろす。弟が食欲旺盛でよかった。肉が食卓に出るのは珍しいもんな。

 妹のブライトも欲しがっていたので、柔らかい部分をあぶって渡すと、黙々としゃぶり始めた。ブライトは意外と肝が据わっているようで一連の間でも落ち着いていた。頼もしい妹だ。できればまだ連れてきたくはなかったけれども。結果オーライか?。

 ついでにこの間一人で来た時にかき集めていた草木で作ったテントモドキを作って見せると秘密基地のように喜んでくれた。よかった。

 みんながリラックスしたところで、近くの蛍のいる水辺へ更新した。そう、誘い文句にした蛍は本当にいるのだ。そのためにこの時期を選んだのもある。


「あ!ひかってる!」

「ああ、あれが蛍だ」

「うあー!」


 果たして蛍はその場でしっかり飛びまわっていた。初めて見る光景に、二人は興奮して光を追いかけたりしている。楽しんでくれているようだ。この日のために事前にリサーチしていて良かった。

 そのあとは夜の暗さも忘れて三人で蛍を追いかけたり、テントに入れてライトにしたりして遊んだ。

 森への恐怖は少しあるようだが、楽しんでくれるようでよかった。今日の企画は大成功と言ってよいだろう。そんなこんなで数時間夜の森ピクニックを過ごし、オーシャンとブライトが眠そうになったところで家に帰った。

 そのあといつもより更に注意深く家に戻り、今日のことを二人に口止めした後、俺は計画の成功に満足して眠りについた。


「あのね!よるにおしりがひかるほムグッ」


 朝一番に蛍のことを両親に話そうとした弟の口を、間一髪でふさぐという後始末が残っていたけれども。


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