12. 弟との遊び
弟が一歳になった。オーシャンと名付けられた赤ん坊はすくすく育ち、最近は歩けるようになった。起きている間は俺の後をとことこついてくる。おぼつかない足取りの弟を待っていると追いついた弟は、嬉しそうに抱き着くのだ。
正直とても可愛い。今までは生きのびるために自分の能力を高めることに必死で見向きもしなかった兄弟。それがこんなに愛おしいものだったとは。弟はついてきてくれるし俺もそのたびについかまってしまうので、村の大人たちからはいつでも一緒だと笑われるようになった。
そんな俺と弟が最近ハマっている遊びは「たかいたかい」だ。遊び方はいたってシンプル。俺が弟を抱っこする。弟を空に投げる。そして落ちてきた弟をキャッチする。これだけだ。
だんだん高くしていくのがコツで、弟オーシャンも、もっともっとと高さを要求してくる。
投げる方の俺も弟の笑顔みたさにだんだんと高度を上げ、最近では身体強化を使うようになった。一度オーシャンを高く投げすぎてトンビもどきの猛禽類に空中で攫われかけたが、その鳥には投石にて墜落させ、弟と俺の三時のおやつになってもらった。
今日もその「たかいたかい」で仲良く庭で遊んでいる。
「そおいっ!!」
ブンッ!、フワッ、ヒューン、ガシッ。
「キャッキャ」
「ふふふ…」
「ニー!ニーッ!」
「よーし」
オーシャンがおりようとせず体をゆするのはもう一回、の合図だ。最近は単語をしゃべるようになって俺のことをニーと呼んでくれる。かわいい。
俺は期待に応えてさっきより少し力を込めて「たかいたかい」をした。
「おりゃっ」
「キャーーーー♡」
「きゃーーーー!!!(悲鳴)」
とびきりの「たかいたかい」を披露すると、弟の喜声に重ねて誰かの悲鳴が重なった。
オーシャンをしっかりキャッチした後そちらを向くと、青ざめた顔をした村娘アニーがこちらを向いている。
あ、やべ。説教の厳しいアニーだ。
アニーは持っていた籠から作物がこぼれるのもそのままに、そばかす顔をいからせながらこちらに駆け寄ってきた。
「な、何してるのアウル!そ、そんなオーシャンを」
「アニーこれは、」
「言い訳は聞かない!こんな危ない遊びして!怪我したらどうするのよ!」
俺の不審な行動によく遭遇するアニー。だいぶ距離があったのにわざわざ向かってくるあたり、なんだかんだ面倒見がいいんだよな。
弟をだきしめた姿勢はそのままに、俺は二度目の説教をその場で受け続けた。
よし、オーシャン、この遊びは人のいないところでやろう。
そうして俺の秘密は日に日に増えていくのであった。
弟と俺がよく遊ぶようになったのは、弟がかわいいのはもちろんあるが、理由はもう一つある。この前の夏の盛りに妹が生まれのだ。
名前はブライトと名付けられた。深紅の瞳と赤い髪の、父の特徴が色濃い、玉のような女の子だ。
出産の際、弟の時よりは落ち着いていた父は、生まれた子が女の子という知らせにまた挙動不審になった。
「アウル、オーシャンあなたたちの妹よ」
「大事にするんだよ」
「ん。」
「あう」
ベッドに呼ばれた俺は弟を抱っこしながら両親に近づいた。母セレネに促され始めてみた妹は、オーシャンが生まれたときのように小さくて可愛かった。
最近は兄こと俺になついている弟を俺に任せて、家は賑やかに女児誕生お祝いムーブになっている。俺は(ちょっと過激な遊びをする以外は)聞き分けのいい長男だったので、産まれたばかりの妹の傍でも近づくことが出来たので今回もきょうだいの誕生に立ち会うことが出来た。弟は眠そうだ。
時折揺り籠を覗きこむと、妹の寝顔は弟と同じように輝いていた。妹に関しての前世の記憶はあまりなない。俺がこれまであまり家族に注意を払ってこなかった証拠だ。俺はこんなにも守るべきものに目を向けていなかったのか。
過去の事実に落ち込むが、年下の家族の誕生に気を取り直しててこれからの鍛錬を誓った。




