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10. 昼の森

 唐突だが、生まれ故郷の食事は質素だ。離乳食がはじまり、最近普通の柔らかい料理が出るようになった。パンを薄味のスープに浸したもの、麦を柔らかくなるまで煮込んだドロドロのもの。小麦を練ってゆでたなにか。味覚の幼い赤ん坊にはちょうどいいのだろうが、正直物足りない。欲を言えば体を作るため肉を食べたい。

 しかしこの田舎の村で動物性蛋白質を取るのは年に数回、祭りや行商人が来た時くらいだ。それはしかたない。

 俺は行動に出ることにした。つまり、自給自足。狩りだ。

 このミーシャ村(故郷の村の名前はミーシャという)には山脈のにふもとにあり、村の北の端からうっそうとした森が広がっている。何を隠そう、俺たち兄弟ががヘンゼルとグレーテルされた雹赤熊の森、である。

 この異世界に転生したはじめはあの熊への恐怖が大きく、繰り返しの人生でも初めの方は近づくのを避けていた。だが何百回と過ごした今では俺の庭といっても過言ではない。

 雹赤熊の森は背の高い木々が多く一帯で同じような風景が続き、歩き方を知らない人間が一度紛れ込めば大人でも自力で抜け出すのは難しい。


 しかしそこはこの俺。この森に何度も取り残された経験豊かな口減らし子!当然森の中の珍しい薬草の群生地や水場の場所も熟知している。そして食料となる動物の生息地ももちろん。

 身体強化を使うのもこの体でも慣れてきたし、俺はさっそく最近の居場所となっている寄合所の家をかこんでいる柵を通り抜け、こっそり抜け出した。

 目立たないよう植木の影に隠れながら進むと、だんだんと周囲の空気が変わってくる。森が近くなったのだ。

 森は村にいる数少ない狩人の一人の爺さんがたまに歩いており、村人も森の入り口のあたりまでなら薪や山菜を集めに来るため、地面は踏み鳴らされて歩きやすくなっている。さて、とりあえずこの季節が旬のキイチゴが生えている方へむかった。

 春の森は記憶にあるあの冬の夜とはうってかわって、小鳥の鳴き声が聞こえ、木洩れ日も明るく地面の草に落ちている。春うららだ。そうこうしているうちに見たことのある茂みが見えてきた。赤い実と黒い棘が特徴のヒトカゲイチゴの茂みだ。

 つんだ実は記憶通り美味かった。道草がてら久しぶりの甘味にしばし夢中でたべていると、背後に影が落ちた。気づかないうちに誰かが近づいていたらしい。


「アウル!あなた何してるの!」

「!」


 やばい。村娘のアニーだ。アニーは面倒見はいいが説教がすこぶる長い。久しぶりの森にテンションが上がって気づかなかった。


「こんなところに一人で来て!雹赤氷の森はこわーい熊がでるのよ!アウルが食べられたらどうするの!」

「あにー」

「ドローマさんに言いつけるからね!危ないところに来て。しっかり叱ってもらうのよ!」

「あ、あのあにーさん?」

「言い訳は聞きません!」


 アニーの説教は帰路の間続き、ポケットに収穫していたキイチゴを賄賂にしてみたが駄目だった。

 家に帰ってからも、ことの顛末を聞いた両親にもこれでもかというほど怒られたのだった。

 そうして今世で初めての森は中途半端な訪問に終わった。


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