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01. 異世界転生

初めて長めの話書いてみます。


 諸事情あって異世界でマフィアやってます。

 俺の現状についてはこれ以上でもこれ以下でもない。ただテンプレよろしく冒険者になったわけでもなく勇者に選ばれたわけでもないのが、強いて言えば特徴といったところだろうか。

 そこのところをざっと説明しようと思う。自分の体感的には大変長かったが過ぎてまとめてしまえば以下の通りだ。


 『初』転生の記憶はよくあるすっぽんぽんの赤ん坊で生まれたところからだ。

俺の生まれ変わりの場合は別に白い空間で神様に出会い、スキルをもらったわけでも、転生前の案内があるなんてイベントはなかった。だからこれはただの偶然なのだろう。ただ気づいたら西洋風の片田舎に生まれ変わっていたのだ。最初は生まれた国が違うだけで、現代の中でも文明化されていないところに生まれ変わっただけだと思っていた。いや赤ん坊が前世の記憶を持っているだけで十分普通ではなかったのだが、そこは割愛。なぜならそんな事実が吹き飛ぶのが異世界転生ってやつだからだ。


 初めて魔法を見たのは生まれてから一年もしない夏だった。日本の蒸し暑い気候よりはいくぶんましだったが、暑いものは暑い。おまけに風呂に入る習慣の乏しかった生まれたの集落での生活は、元日本人の俺にとってストレスのたまるものだった。

 肌着のにおいが気になりはじめたころ、セレネ(異世界での母親だ。銀色のストレートヘアーにおっとりとした目元がチャームポイントのスリム美人である)が汚れた産着にむかって指を振りながら「□□□」。と何か唱えた。するとあら不思議、いままであった布のシミは取れているし、心なしか光沢さえ帯びている。

 おまけにセレネの指先からはキラキラした光が淡く残っていた。あとで知ったがそれが魔法の残光であったらしい。そうして俺はようやく、ここが前世まで生きていた世界ではないことに気づいた。

わお、前世で暇つぶしに読みあさった、あの異世界転生をしちゃってるじゃん、と。なじみ深い未知との記念すべき遭遇日だ。

 さあしかし俺がここから今に至ったのか説明するにはまだ少しかかる。全然ざっとした説明じゃないじゃないか、だって?ざっと説明してこれなんだよ。

最後まで聞いてろ。いや聞いてください頼むから。おれ現代社会ではただの雇われサラリーマンだったのに、それにしては頑張ったと思うから。たのむから最後まで付き合ってほしい。思い出すだけで涙出てきた。まだ今世で(一応)20代なのに、思い出だけで涙腺ゆるゆるになるくらいには波乱万丈の道のりだったのだよ。

それでは聞いてください。第一回、森の熊さん襲撃事件!~弱肉強食を添えて~




 あれは忘れもしない3歳のころの出来事だった。ここが異世界だと分かった俺はだからと言って魔法の使い方がわかるわけでもなく、よく食べよく眠り歩けるようになれば家の中を探索し言葉を覚えていった。俺の家はめちゃくちゃ貧乏というわけでもないが、いかんせん田舎だったため、家の敷地を出てしばらく行けばうっそうと茂った森が広がっている。そんな辺鄙な場所だ。

 田畑の広がる集落には農作業に従事する村人が日々農作物の世話をし、暗くなれば家族のいる家に帰る。そんな規則正しい生活を送っていた。そのなかでも俺の両親は小さい村ながら村人を取り仕切る役職についていたらしく、家では集まりがたびたび行われ、難しい顔をした話し合いが父親と村のおっさん達のあいだで行われていた。なにやら今年の穀物の出来だったり、行商人への不満だったり、話題はつきないようで、俺が生まれてから言葉を話せるようになるまでその景色は変わらなかった。その間俺は、母ちゃんがやってた魔法教えてくれないかなーとか、下の兄弟達(この時は弟が一人だったが後でほかにも兄弟はふえる。両親頑張りすぎだろ)をからかう方法を考えたりと、異世界にしては平和ボケした思考で生きていた。まあ3歳にも満たなければしょうがないっちゃあなかったのかもしれない。前世の記憶はあるが、体に精神がひっぱられるってやつ?あれだ。特に転生勇者願望もなかったし。


 変わったのは最初に行った三歳ごろ、子供の俺でもわかるくらい冷夏の年だった。畑の稲は当時の低身長な俺の背丈より小さく育ち、おのずと実る籾も小さかった。

 大人たちは秋が近づくにつれ暗い顔をするようになり、いつもは穏やかなセレネ母ちゃんの顔色も張り詰めたものがただよっていた。それでも俺は暢気なもので、年に二回ほど来る行商の荷馬車が出ていったあと、村人が暗い顔をして帰ってきた日の夜、眠っている間に野外の暗闇の中誰かに背負われて森につれていかれていることに気づくまで、村の暗い空気が自分にも関係あることだとは露ほども思っていなかった。

 いつもは危ないから近寄ってはいけないという薄暗い森のさらに奥へ進んでいったところに、少し開けた場所があった。そこにつく頃にはもう、俺は家への帰り道なんかわからなかったし、昼でも薄暗い森は夜になると一寸先も見渡せなかった。

 体の睡魔に抗いながらこれがヘンゼルとグレーテルよろしく口減らしであることに気づいてしまっていた俺は、俺を担いでいた両親になんとか連れて帰ってもらいたいと、追いすがった。だが、その人は両親ではなく村人のうちの一人だった。

 どうやら自分の子供以外を森に置いていくようにしたらしい。情が残ってしまわないためだ。顔しか知らないそのおっさんは、「迎えが来るから、それまでここでまっているんだよ」と、お伽話のテンプレ別れの言葉集を俺に伝えて去っていった。絶対嘘だろと子供ながら思った。こんちくしょう。

 それでもおれはまだそのときまで希望を持っていた。朝になれば道がわかるかもしれない。森の中なら食べ物もあるかもしれない。とりあえず今夜をしのいで考えよう。

 しかしここは異世界。魔法の存在するファンタジーの世界だ。俺がチート能力でも持っていたら話は違うのだろうが、あいにくそんなものはなかった。そして不作はなにも麓の村に限った話ではない。森でも餓えた生き物たちが潜んでいることを俺はまだ知らなかった。

 空が明るくなりはじめ朝がようやく明けようというころ、俺が最後に見たのは地球ではまずお目にかけない大きさの熊が、三つの赤い目をこちらに向けて口をあけて俺の視界を覆いつくした光景だった。

村人アウル・アゲート三歳。前世では享年40歳くらいに死んだぽい一般人。

 俺の一度目の異世界での人生は、こうして幕を閉じた。



まだ続きます。

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