邪悪、漆黒、暗黒
新しいパーティに入ってからというもの、僕の旅路は順調そのものだった。
彼らは、ただの荷物持ちだからと僕をぞんざいに扱うことはなく、仲間というよりも友達として接してくれていた。
それと、荷物持ちとはいえ、「勇者」パーティの一員として名が広まっていた。
「お、きみはアレフ君か。あの「勇者」のことだから、荷物も多くて大変だろ。頑張れよ!」
周りの反応も、もっと適当にあしらわれるものかと思っていたのだが、かなり好意的なものが多かった。
それだけ、「勇者」クラウンとその仲間たちは、期待されているのだ。
…
…
「アレフには、何か旅の目的があるのか……或いは、因縁の相手とでも呼ぶべき者はいるのか?」
依頼を終えて、宿屋でクラウンと共に話をしていた。
「魔王は当然として…。僕の故郷は、一年ほど前に魔王の配下から襲撃を受けたんだ。…仮に、"暗黒騎士"と呼ぶことにしよう。その時に、僕の大切な幼馴染が、魔王の残滓に侵されてしまった。…憂さ晴らしにしかならないけど、できればその"暗黒騎士"には引導を渡してやりたいかな。」
「そいつの目撃情報は、あったりするのか?」
「実は、奴は結構派手に動いているらしくて、目撃情報自体は多い。でも、襲撃先への滞在時間が短くて、次にどこへ向かうのかという予測しか出来ないんだ。」
「…いや、充分だろう。俺にも、その情報を共有してくれ。」
「いいのか?」
「ああ、もちろん。きみはもう、僕の大事な仲間の一員さ。」
…
…
クラウンは、"暗黒騎士"の討伐依頼を受けることにしてくれた。
奴からの被害を受けたのは、当然、僕の故郷だけではない。だからこそ、この依頼を受けてくれたのかもしれないが…。それでも、僕は彼の気遣いがとても嬉しく感じた。
…"暗黒騎士"の特徴は、その戦略にある。
本体は、角の生えた馬のような魔獣に跨った、人型の虚な鎧である。
馬も鎧も、まるで立体の影が歩いているかのような深い漆黒である。
ただ、"暗黒騎士"と呼んでこそいるが、その行動に騎士の精神は微塵も感じられない。
奴は、多くの手下を引き連れて行動している。それ自体はいいのだが……奴は決まって必ず、夜に襲撃を行うのだ。
自分の姿は闇に隠れ、足音は手下のものにかき消される。
襲撃された側から見ると群れただけの弱い魔物との乱戦でしかないのだが、夜が明けると、実力のある者たちが死傷を受けるか魔王の残滓に侵されるかして倒れているのだ。
…
クラウンも、この戦いのために入念な準備を行なっていた。彼の見立てでは、無粋な戦い方をするものの、本体の実力も相当に高いだろうとのことだった。
今回の作戦行動において、彼は僕をトドメを刺す役として起用してくれた。
願ってもないチャンスとはいえ……そこはかとない恐怖心が、心の底で渦巻いていた。
だが、クラウンの自信に満ちた表情を見ていると、自然と勇気が湧いてくる。
それは、彼が「勇者」だからという理由だけでなく…。彼の本来の人格が、人を惹きつけるのだろう。