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E - Who am I…?



…僕は、「勇者」ではなかった。



僕の"イデアル"は「兵士」だった。…仲間を強化したりする魔法に長けた、ありふれた無難なイデアルだ。



さらに言えば、チームのメンバーのうち、誰も「勇者」のイデアルではなかった。



…みんな、ルナを救いたいと思っていた。でも、駄目だった。神様は、僕たちを選ばなかったみたいだ。





でも、何もしないで、ただ衰弱していくルナを眺めているだけなんて、僕には無理だ。



「……このまま、じっとなんてしていられない。僕一人だけでも、旅に出る。」



冒険の旅に出れば、少なからず魔王を倒すと言う志を共にする仲間は見つかるだろう。



あわよくば、「勇者」と共に旅をするとかも出来るかも知れない。





「無茶だ!いいかアレフ、お前には勇者になんてなれない!お前が何をしても、ただ死人が増えるだけだ!」



予想通り、周りの人間は皆口を揃えて同じことを言った。



『お前は勇者にはなれない』



身の程を知らないと、僕を笑う者もいた。



誰もが、諦めていたのだ。魔王の、その手下でしかないにも関わらず……奴らを見た途端、悟った。



人間がどうこうできるようなものではない。



…だが、そんなことは僕が立ち止まる理由にはならない。ルナの笑顔が失われた世界に、僕が生きる理由なんてない。







柄でもなく花屋に寄って、落ち着く香りのする花を、予算の限り買った。



花束を抱え、発熱した人間の体温の、妙な熱気の充満した病院へと向かった。





病室のベッドは、病に臥した者たちで埋め尽くされていた。



空気を掻き分けて、ルナのベッドの元へ到着した。





「ルナ、僕は必ず、魔王を倒すから。…つらいと思うけど、どうかここで待っていてね。」



「ええ。アレフ…。絶対、魔王を倒して…そしたらこの町でまた、一緒に暮らそうね…。でも、無茶はしちゃダメよ…。」



僕の頭を鷲掴みにして、「元気出せよ」と言ってにかっと笑っていた彼女からは考えられない、情け無い声色だった。



…悲しみを誤魔化すように、手に持っていたものをルナに差し出した。



「今日は、花束を買ってきたんだ。」



「とっても綺麗……。ありがとう…。」



そう言ってルナは手を伸ばし、僕はそれに応えて花束を手渡す。



満足に開くこともできない指で、必死に花束を抱きしめる。



ルナは、嬉しそうな笑みを浮かべた。



苦しそうな彼女の顔は、見ているこちらも辛くなって、思わず逃げ出したくなってしまいそうだ。



だが、彼女の笑顔を見るとそれだけで、見える世界の彩度が上がる。



僕は、花を選ぶのに結構長い時間を要した。それだけ、美しい花々を選んだつもりだった。



でも、ルナの笑顔の輝きには敵わない。こんなに綺麗な花々でも、主役足りえない。



……いや、花束を買ってよかった。ルナの笑顔を見れた。そして、その笑顔を存分に引き立てるのに、これ以上ない役者だった。



僕は、勇者にはなれないかもしれない。それでも、誰かの花束になれたなら……いや、花瓶にでもなれればいい。



ルナが眠るまで、側にいた。花を病室の花瓶に飾ってから、家路についた…。



帰ってすぐに、思いつく限りの荷物を鞄に詰め込む。



明日からはもう、この家には帰ってこない。

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