表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

最後の絶望


……いつしか、目的と手段が入れ替わっていたのかもしれない。



「勇者」に出会えて、魔王を倒せそうだなんて息巻いて……。



僕はただ、笑顔のルナと一緒に生活することを望んでいただけなはずだ。



僕が世界を救った勇者になることなんて、二の次であるべきだっただろう。



……呑気なものだ。ルナに贈る花を抱えて、肝心の魔王討伐の報せは持っていない。



視界に入る情報が、只の画像としてだけ脳に送られる。そこに感情はない。







ルナのいる場所へ着いた。



前の病室とは違った。部屋はもっと狭くて、それでいてもっと多くの人数がそこにいた。



……設備を見ると、この部屋にいる者にかけられているコストは微々たるものだった。



つまり、諦められている。先は長くないと見限られたか……もしくは、自らの未来を諦めた者たちなのだ。



……前にルナに贈った花が、部屋に飾られていた。だが、彼女の体調を映した鏡かのように、萎れきっていた。





なんの言葉も出てこなかった。



なんとなく、カバンに入った花を入れ替えようとした時……ルナが手をこちらに向けていることに気付いた。



花束を渡してほしいのだろうと思い、ルナの方へ向き直すと、彼女の手に封筒が握られているのが見えた。



花束と交換で、それを受け取る。封筒には、"四人で一緒に読んで"と、これ以上ないほどに薄く、細い字で書かれていた。





その場で、レイン、グレン、セイナと共に、ルナの書いた手紙を読んだ。



……読み終えた頃、ルナの方がかすかに動いた。



もう水を受け付けない乾燥した唇が、葉と葉がこすれ合うように微かな言葉を紡ぐ。





「こんな絶望を知る人が、これ以上、増えないように……





……出発よ。



私の、勇者様達……。」






花瓶に飾られた花の、萎れた花弁(はなびら)の最後の一枚が、掴んでいた(がく)から手を放す。



それから、ゆっくりと、地面に墜落した。






…多分。



私はもう、今すぐにでも死んでしまうでしょう。



世界を救うって、大変なことなのに、なんだか相応しくないような気もするけど、私もみんなと一緒に、旅をしてみたかった。



でも、皆んなが色々なものを持ってきてくれて、すごく嬉しかった。ずっと部屋の中にいるのに、少しだけ、私も冒険しているような気分になれた。



本当に、ありがとう。



あと、私は素人だから、全然だめだめかもしれないけど、作戦を思いついたの。裏面に書いておいたから、よかったら見てね。





どれだけがんばっても、他の人たちは、みんなのこと、勇者様って呼んでくれないかもしれない。



でも、変じゃない?



みんなはとってもがんばっているんだから、だれかひとりだけ勇者様で、それ以外は違うなんて、そんなことはないと思うわ。



称号ってものは、きっと、力じゃなくて、人の心に刻まれるのよ。



だから、もしもみんなのことを、誰も覚えていてくれなくても……



私は、みんなのこと、勇者様って呼んであげるから。



誰がなんと言おうとも、みんなは本物の勇者様よ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ