最後の絶望
……いつしか、目的と手段が入れ替わっていたのかもしれない。
「勇者」に出会えて、魔王を倒せそうだなんて息巻いて……。
僕はただ、笑顔のルナと一緒に生活することを望んでいただけなはずだ。
僕が世界を救った勇者になることなんて、二の次であるべきだっただろう。
……呑気なものだ。ルナに贈る花を抱えて、肝心の魔王討伐の報せは持っていない。
視界に入る情報が、只の画像としてだけ脳に送られる。そこに感情はない。
…
…
ルナのいる場所へ着いた。
前の病室とは違った。部屋はもっと狭くて、それでいてもっと多くの人数がそこにいた。
……設備を見ると、この部屋にいる者にかけられているコストは微々たるものだった。
つまり、諦められている。先は長くないと見限られたか……もしくは、自らの未来を諦めた者たちなのだ。
……前にルナに贈った花が、部屋に飾られていた。だが、彼女の体調を映した鏡かのように、萎れきっていた。
…
なんの言葉も出てこなかった。
なんとなく、カバンに入った花を入れ替えようとした時……ルナが手をこちらに向けていることに気付いた。
花束を渡してほしいのだろうと思い、ルナの方へ向き直すと、彼女の手に封筒が握られているのが見えた。
花束と交換で、それを受け取る。封筒には、"四人で一緒に読んで"と、これ以上ないほどに薄く、細い字で書かれていた。
…
その場で、レイン、グレン、セイナと共に、ルナの書いた手紙を読んだ。
……読み終えた頃、ルナの方がかすかに動いた。
もう水を受け付けない乾燥した唇が、葉と葉がこすれ合うように微かな言葉を紡ぐ。
「こんな絶望を知る人が、これ以上、増えないように……
…
……出発よ。
私の、勇者様達……。」
花瓶に飾られた花の、萎れた花弁の最後の一枚が、掴んでいた萼から手を放す。
それから、ゆっくりと、地面に墜落した。
…多分。
私はもう、今すぐにでも死んでしまうでしょう。
世界を救うって、大変なことなのに、なんだか相応しくないような気もするけど、私もみんなと一緒に、旅をしてみたかった。
でも、皆んなが色々なものを持ってきてくれて、すごく嬉しかった。ずっと部屋の中にいるのに、少しだけ、私も冒険しているような気分になれた。
本当に、ありがとう。
あと、私は素人だから、全然だめだめかもしれないけど、作戦を思いついたの。裏面に書いておいたから、よかったら見てね。
…
どれだけがんばっても、他の人たちは、みんなのこと、勇者様って呼んでくれないかもしれない。
でも、変じゃない?
みんなはとってもがんばっているんだから、だれかひとりだけ勇者様で、それ以外は違うなんて、そんなことはないと思うわ。
称号ってものは、きっと、力じゃなくて、人の心に刻まれるのよ。
だから、もしもみんなのことを、誰も覚えていてくれなくても……
私は、みんなのこと、勇者様って呼んであげるから。
誰がなんと言おうとも、みんなは本物の勇者様よ。




