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磁力の炎

作者: つじとみ

『磁力の炎』は、既婚者同士の禁断の愛を描く物語。似た価値観と対照的な性格で惹かれ合う二人が、北新地の夜に理性と本能の間で葛藤する。許されぬ恋の炎は、破滅か一瞬の輝きか。心の迷路を静かに問いかける。

君と一緒になりたい訳じゃない。

だけどただただ君の事が頭から離れない。


いつかこうなる事は分かっていたの。

だから、自分の本当の気持ちに蓋をするようにしてた。


だけどお互い様ね。

互いにパンドラの箱を開いてしまっていた。

深夜の北新地の路地裏での情熱的な接吻。

あの夜がどうしても私の脳裏にこびりついて離れない。


君と初めて仕事で会った時なにか運命的な直感を感じたのを覚えている。

別に君に救われた訳でもない。一目惚れをしたわけでもない。互いにワイングラスを交わし、ただ取引先として君と話していく内にお互い似ている部分があっただけだ。いや、むしろ似すぎていたのかもしれない。好きな食べ物やお酒好き、最近の時事経済の興味さえも一緒だった。

でも、価値観は似てるのに何故か性格や言動は真逆の人だった。

価値観が似ているのに、性格が真逆な男には私は初めて出会った。

それから彼が大阪に出張に私の会社に絶対に来る度に、私は彼の誠実さや周りに気遣える姿勢に徐々に惹かれてしまっていた。彼は既婚者だったのに、いつから惹かれていたのかは覚えていない。川の流れの様に自然に彼に惚れていたんだと思う。


私は、それでも倫理的にイケナイ恋になる事自体になる事は分かっていたから、君への恋は敢えて隠した。報われないと解っているから。

ふと光る君の薬指の指輪がとても憎いの。


だけどそれは君も同じでしょ。

貴方も私に惚れていたわ。言動でわかる。仕事が終わっても私達は盃を交わしながら一緒に語り合った。「君は僕の出張時の癒し娘だよ。」と君が酔ってふと呟いた。だから私は知っている。

私の事が頭から君も離れないんでしょ。知ってるわよ。

だから私も自分の薬指のにキラリと光るピンクゴールドの結婚指輪を見たくない。


君と愛し合いたいと思ってる。

でと、君とこの先に進んでしまうとね、

私はお互いが壊れてしまうと知っているの。

だから私は感情を隠した。

それは君も同じでしょう?私、貴方が考えてることが分かってしまうの。

やっぱり私たちはよく似ている。


君が出張で大阪に来る度、もう私と彼のプロジェクトは完遂しているのに、どうしても逢いたくてお互いの仕事終わりに

2人の行きつけにした北新地の和食屋カウンターで盃を交わし合ったね。

お互いに気持ちを隠したまま、会社の飲み会だと旦那に嘘ついて君と夜中まで語り合っていた。


だけど、最後に盃を交わした最後の日はお互いにいつもより酔っていた。たぶんクリスマスイヴだったという事もあるだろう。


酒に酔って雰囲気に酔って

君の指を組んでしまった私が悪い。

不意打ちでキスをしてしまった君が悪い。


北新地の人気のない裏道での

不意打ちの君のキスは唇に刺さる禁忌の余韻の様な味がした。

アルコールの匂いの混じった濡れた吐息の甘い息の重さに私は妙な心地良さを感じた。

「今日は君とこのまま一緒にいたい」と言う君に対して

「だめよ」と私が彼を突き放して逃げてしまった御堂筋のタクシー乗り場には、いつもの雑踏と嫌味のようにクリスマスイルミネーションが輝いていて現実に戻った様に感じた。

私はタクシーに乗り込み自宅の住所を言い家まで帰ったが、すぐに夢に引き戻されタクシーの中で色々感情を整理しようとしたが、モヤモヤばかりが胸を締め付けていく。ただ1つ分かるのは、あの夜の唇の感触が今も脳裏にこびりついている。私は何度もあのキスの再現を試みた。

あぁ、私は君と壊れ合いたいんだな結論づいた。「ダメだダメだ。」理性では思うけど本能は嘘をつかない。やれやれ、本能には逆らえないもんなんだな。と溜息を吐く。


君のことはずっと好きだったけど、

このままの関係でいたかった。

そうでないとお互いに壊れてしまう事は知っていたから。

それは君も同じ事を思っているでしょう?


私も別に君を壊したいわけじゃない。

君も私を壊すつもりはなかったと思う。

だから君は私に本気になって欲しくないの。

私は欲張りだから現状を何も壊したくない。

だけど、本当は君と壊れ合いたいという私の本能が暴走している。


君とやっぱり壊れ合いたい。

でも、私、賢いから知ってるの。

壊してしまった先がどうなるか

君も賢いから分かるでしょう?


前から君が奥様の話を家族の話をしても嫉妬はした事がない。

だって私は弁えてる女ですもの。

なのに、私の知らない東京で暮らす君の話を思い出す度に胸が疼くのは何故だろう。


君のLINEの既読スルーに追いメッセージを打ちたくなる。

君の返信が待ち遠しくて堪らなくて、君からの連絡が返ってこないと身体に電流が走るように辛い。

隣に寝る主人を横目に、カメラロールに残る君の写真を何度も見返し、声を殺しながら泣いた涙で画面が濡れる。

君は普段東京でかなり大手の会社の部長として活躍しているのは重々承知している。

承知しているからこそ我儘は言えない。

ねぇ、次はいつ逢えるの?

ねぇ、早く私に逢いにきてよ。


私はもう、君と壊れ合う覚悟は出来てしまっていた。


何も見えない夜の迷路を私達は彷徨い始めてしまっている。

『磁力の炎』は、禁断の愛の炎に焼かれる二人の葛藤を、北新地の夜に重ねて描きました。理性と本能、倫理と欲望の間で揺れる心は、誰もが共感しうる人間の弱さ。許されぬ恋の果てに何を見つけるのか、読者の心にそっと余韻を残します。

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