壱 船の上での出会い
「理事長。本日12時頃、猫俣琥珀と他10名の新入生を乗せた船が港に到着します。」
学園長は理事長に報告を行っている。
「ふふ、ようやく…私の手の中に来るのね。可愛い花婿さん…。」
学園長は理事長の言葉に身を震わせた。
和多都美学園は島の中にある少人数制のエリート校。入学する生徒のほとんどが男子で女子は少ないんだとか。それでも女子の大半は一年足らずで学園を去っていってしまうらしい。
入学すると卒業まで島の外には出られない。
つまり3年間島に幽閉されることになる。
その覚悟があるか否かということだろう。
この学園には有名人の子供も多く通っている。
噂では″和多都美の女帝″の娘がいるんだとか…。
あくまでも噂だろうな。
「なあ、お前特待生の猫俣琥珀だろ?」
隣に座って眠りこけてた少年が話しかけてきた。
(面倒そうな奴だ…寝たふりしてやり過ごそう…)
グーグーといびきをかくふりをした。
隣の少年は猫のような鋭い瞳孔を向けてくる。
いや、虎のようと例えたほうがいいな。
獲物を狙う白虎のような瞳孔だ。
「なあなあ、嘘つく奴はどうなるか知ってるか?」
やんちゃそうな声が低い猛獣の唸り声のように豹変していた。
「ど、ど、どうなるの…?」
慌てて寝たふりをやめた琥珀を見ると隣の少年はにひっと微笑んだ。
「俺様がペロリとお前の分の飯を平らげちまうんだ!」
琥珀が残しておいたパンを取り上げ、ペロリと平らげてしまった。
「僕のパン!!何してんの!」
思わず怒ると少年は右手を差し出してきた。
「俺様 大白虎男。生徒会を志す忍耐強い男なんだ!」
「は?」
強引に虎男の右手は琥珀の左手を掴み、握手した。
「俺様がトモダチになってやる!感謝しろよ?」
「あぁ…ありがとう?」
「で…なんで和多都美学園に入学するんだ?」
虎男は単刀直入に情報を得ようとしてきた。
「まずは自分が話すんだろう?」
「おっと…そうだな。」
「君はどうして和多都美学園に入学するんだい?」
虎男は少々顔を赤らめた。
ああ、惚れた女でも学園に居るんだろう。
「俺様は…女子寮の寮長に決闘を申し込むためだ!!」
「えぇぇぇぇっ!?」
予想の斜め上を行く解答をする虎男に周りの人達もびっくりしていた。
「女子寮の寮長って…女帝の娘だって兄貴から聞いたぞ?」
「マジかよ…殺されんじゃね?」
「強制退学案件だろ…」
ざわざわと船内を騒がせるほど『女子寮の寮長』というワードは強烈だったようだ。
「噂だとすげぇボインらしいぜ!」
ボイン…?ぽっちゃりしているのだろうか?
いや…違うな。ぽっちゃりしているのなら周りの奴らまで反応する訳がない。ボインとは悩殺ボディ…とやらなのだろうな。
「ボインで強い美女なんて俺様の故郷では出会えねぇからな!俺様の彼女候補さ!」
虎男は現を抜かしていた。
こいつ…退学になってもおかしくないな。
よし、関わるのやめておこう。
そう思った矢先、後ろから生徒会の先輩がこちらに向かってきた。
「煩いぞ!もうすぐ到着の案内があるんだ静かにしていろ!」
ゴツンゴツンと琥珀と虎男の頭に拳骨し、静かに自分の席に戻っていった。