第39話 強敵
フェルザーは双刃剣という一見すると扱いにくそうな武器を使いこなし、ライサーを追い詰めていた。覚醒形態を手にしたライサーであったが、相手はさすが魔術師の頭目である。その強さは伊達ではない。
二本の刃が代わる代わるライサーを攻撃し、いっさいの反撃する隙を与えなかった。
「その程度か、覚醒者!」
フェルザーの双刃剣がライサーの脇腹を軽く切り裂く。
「くっ!」
脇腹に鋭い痛みが走る。だが、フェルザーの攻撃はそれで止まず、すぐさま左側の刃が右足を狙ってくる。
何とかグレイブでガードするものの、次は右側の刃が顔に迫ってくる。
(やられる!)
そう思った時、斬撃波動がフェルザーの身体に直撃し、彼女は吹き飛ぶ。
見ると、セフィーネと親衛隊員のユークスが来ていた。斬撃波動をフェルザーに放ったのはユークスであり、手にはメッサー(片刃の刀剣)を持っている。
「大丈夫、ライサー?」
駆けてきたセフィーネが問う。
「ああ、問題ない」
「あの鎧魔導士は強敵だ。二人で戦いましょう。セフィーネさんは離れていてください」
セフィーネの魔法陣を使った攻撃は竜の鎧魔殻には通用しない。彼女は二人から距離をとる。
「お願いね、二人とも」
「任せてくれ」
「ふん、何人来ようと同じことだ。全員葬ってやる」
フェルザーはたいしたダメージを受けていないようで、双刃剣を振り回しながら、再び接近してきた。ライサーとユークスはそれぞれ武器を構え、その攻撃に対処する。しかし、二対一という数的有利にかかわらず、フェルザーの素早い連続攻撃を捌ききるのがやっとであった。
「はは、そんなものか!」
フェルザーの双刃剣から稲妻が放出され、二人に直撃する。
「く、うわっ!」
「ぐっ……」
その隙にフェルザーが再び止めを刺そうとするが、刹那、足元が爆発し、彼女は体勢を崩す。
「何っ!?」
見ると、セフィーネが彼女の足元の地面に魔法陣を発動し、爆発させたのである。本体にダメージは行かなくとも、攻撃を妨害することは可能だった。
「いまだ!」
ライサーとユークスの二人はセフィーネが作った隙を狙い、攻撃を繰り出す。刀身には核玉からのエネルギーを注入させ、威力を増していた。
「舐めるな!」
フェルザーは上空に急浮遊することでその攻撃を避ける。魔女であるフェルザーには空中を飛行するなど容易いことであった。
「これで二度と同じ手は喰わん!」
そう言うと、上空から再び魔術の稲妻を浴びせる。
「クソっ!」
ライサーとユークスは武器を回転させ、それをガードする。しかし、防ぐので精いっぱいであった。
(負けるか……こんなところで!)
ライサーは気合を入れグレイブの刀身に再度エネルギーをチャージし、それをフェルザー目掛けて放出する。衝撃波がフェルザーを襲う。
「ちっ!」
フェルザーはすぐに転移魔術を使い、その姿が忽然と消える。
「どこだ、どこに消え……あっ」
あたりを見渡たしたライサーは、フェルザーがセフィーネの眼前に降り立つのを見た。
「しまっ!」
「帝国の魔女。まずは貴様からだ」
そう言うと、セフィーネが転移魔術を使うより早く、双刃剣で彼女の鎧殻装を突き破る。
「ウっ……」
セフィーネは腹を刃で貫かれる。鎧殻装が解除され、腹部から大量に出血し、口からも吐血する。
「セフィーネ!」
ライサーとユークスが急ぎ近寄るが、セフィーネはその場に倒れ伏す。それを見て、フェルザーは再びライサーとユークスに狙いを定める。
「貴様、よくも!」
ライサーはグレイブをフェルザーに叩きつけるが、軽々と避けられる。ユークスもメッサーを振るうが、双刃剣の刃に跳ねのけられた。
フェルザーは縦横無尽に跳びまわり、二人を翻弄する。その刃は弧を描き、彼らの弱点を的確に攻撃していく。
「畜生……」
ライサーは怒りに支配され、冷静さを欠いていた。そんなライサーの隙を見て、フェルザーは彼を蹴り飛ばす。
核玉の力で強化された脚力は、ライサーの身体を吹き飛ばすには充分だった。
「ぐっ……」
「次は貴様だ、親衛隊員!」
フェルザーの刃がユークスに迫る。ユークスは懸命にメッサーでその攻撃を防御するが、刃の連続攻撃の前に押され、手首を斬り落とされる。そして、次の瞬間には、その首が地面に落ちていた。
「ユークスさん! うぁぁぁぁぁぁぁ!」
ライサーが絶叫する。それをフェルザーは嘲笑う。
「振り出しに戻ったな、覚醒者!」
怒りに任せてライサーはフェルザーに向かっていく。しかし、力の差は明らかであった。すぐにフェルザーに押し込まれ、グレイブの柄を切断される。続く一撃で、肩を刺される。
「終わりだ、我が弟子の仇よ」
そうして、フェルザーが双刃剣を振り下ろそうとしたした瞬間だった。フェルザーの身体に鎖が巻き付き、一瞬動きが止まる。
「くっ、何だこれは」
見れば、虫の息のセフィーネの手から魔法陣を現れ、そこから鎖が放出されていたのだ。
「小賢しい!」
フェルザーは易々と鎖を引きちぎるが、そのわずかな時間をライサーは見逃さなかった。
グレイブを再生成し、負傷していない右手で力を込め、その刃をフェルザー目掛けて振り下ろす。
「しまっ……」
銀色の刃が竜の装甲ごとフェルザーの身体を裂き、血が噴き出す。彼女はダメージを追い、大きくよろめく。それでも、フェルザーはまだ倒れない。
「こんな……ところで終われるか……魔術師の未来は……私が……」
ふらつきながら、なおも双刃剣を振るう。ライサーは右手一本に力を込めて、グレイブをフェルザーの胸に突き立てる。その一撃は竜の鱗の鎧魔殻を刺し貫き、竜の核玉は破損させ、またたくまに鎧魔殻は粒子状に霧散する。そうして、彼女はようやく地面に崩れ落ちる。
地面に這いつくばりながら、それでもまだ彼女は足掻く。弱々しい力で、ライサーの足首に掴みかかる。
「……守るんだ……皆を……シェルド族を……」
そう言い残して、彼女は事切れた。
ライサーはフェルザーの死を確認すると、すぐにセフィーネの許にいく。
「セフィーネ、大丈夫か!」
重傷を負ったセフィーネはその手から魔力の光を出し、自分の腹部に当てていた。治癒魔術だろうが、高波動を纏った武器の攻撃は、鎧殻装兵といえど、治りが遅い。最悪の場合、死に至るケースもある。
「……大丈夫に……見える? 重傷よ…… でも私には……核玉と魔力が……あるわ。しばらくすれば……治る……はずよ」
「分かった。もう喋るな。敵が来ても、俺が守ってやるから……」
ライサーの言葉に、セフィーネは力なく笑う。
そして、ライサーは首を落とされたユークスの死体に目をやる。
(実力者だったユークスさんも、俺が不甲斐ないばかりに…… 俺がもっと強ければ……)
「畜生!」
ライサーは叫ぶ。