第17話 相部屋
「で、仕方なく僕はあんたらと相部屋になったわけ」
「……生意気な同居人だな。まあ、これも何かの縁だ。仲良くしようぜ」
ライサーはセートに手を差し出すが、セートは呆れた様子だった。
「ただ部屋が同じってだけで弱い奴と慣れあう気はないよ。じゃあ、僕もう寝るから」
そう言って、自分のベッドに横になると、早々と寝てしまった。
「まったく本当に腹立つガキだな……」
「ただ、あの強さは本物だ。彼から学べるところは全部学ぼう」
「まあ、それもそうか……」
アルベクは自分たちが彼が警備隊に来たのは、自分たちが強くなるには良い機会だと考えていた。彼と寝食を共にし、トレーニングをすれば、彼の強さに近づけるかもしれない。
そう思って、アルベクは自分もいつもより早く寝ることにした。
ライサーもアルベクが布団に入ったのを見て、自分のベッドに横になり、眠りに入った。
「あーうるさい!」
この部屋に来たばかりのセートは、ライサーのいびきのうるささに辟易した。見れば、アルベクはこの騒音の中でも、気持ちよさそうに寝ている。セートにとっては信じられなかった。
「おい、起きろ!」
たまらずセートはライサーの身体をゆするが、彼は微塵も起きる気配がない。
「クソっ! 明日は絶対部屋替えてもらうからな!」
その夜、セートはいびきのせいで一睡もできなかったのである……
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「カイン隊長! 同居人のいびきがうるさすぎて寝れないんだけど! 部屋をかえてくれないかな」
朝の訓練が終わった後、セートはカインに直談判をする。
「ライサーのいびきなぁ。まあ、これも訓練の一環だと思って我慢してくれ」
「出来るか! こちとら一睡も出来なかったんだぞ。色々と支障が出るわ!」
兵士にとって睡眠は大事だというのに、この隊長は……
「アルベクも最初はいびきに苦しめられていたが、すぐに慣れたぞ。まあ、もう数日だけ我慢してくれ。それでだめなら、部屋を変えてやる」
「数日だって? あーもうわかったよ。絶対変えてもらうからね!」
それをやり取りを横目でみていたアルベクは、セートに多少同情したのであった。
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午後にはセフィーネが警備隊本部に来た。
「あら、セートじゃない」
「げ、セフィーネ」
セフィーネの姿を見つけたセートは逃げるように、そそくさと自室に戻っていった。
「知り合いなのか?」
「ええ、親衛隊員とは皆、面識はあるわ。彼らの核玉に不調がないかチェックするのも私の仕事ですもの。まあ、彼はこっちの所属になったんでしたっけ?」
アルベクの問いにセフィーネはそう答える。
「セートからは避けられているようだけど?」
「彼、面白いんですもの。色々からかっていたら、苦手意識を持たれたみたい」
「……なるほど。ところで、昨日セートと試合したけど、ぼろ負けだったよ」
「でしょうね。でも私の作った核玉は竜玉で出来た核玉にも負けない力を秘めているわ。それを引き出せるかはあなた次第だけど?」
そう言って、セフィーネは核玉のある、アルベクの胸部に視線をやる。
「特にアルベク、あなたには期待しているわ。あなたなら、親衛隊だって超えらる才能があると思うの」
「でも、竜の装甲には波動武器も刃が立たなかったよ」
「だから、まだ進化の途中なのよ。核玉の出力が上がれば、武器も強くなるから心配しないで」
「そのためには特訓あるのみか……」
「ええ、頑張ってちょうだい」
セフィーネはアルベクの肩をポンと叩く。そういえば、初めてセフィーネと会った時も肩を叩かれたっけと、アルベクは思いかえしていた。
「カノア島の魔術師たちも親衛隊の強さは知っているわ。彼らの目的が復讐にあるとするなら、親衛隊を超える核玉の開発を急ぎ進めていると思うの。あなたたちは、強敵と戦うことになるでしょうね」
「なるほど……覚悟しておくよ。しかし、親衛隊はなぜ動かないんだ。彼らがカノア島を攻めれば、すぐに決着がつくんだろ?」
その質問にセフィーネはなんて答えるか少し考えている様子だった。
「まあ、そうなのでしょうけど。 ……ほら、皇帝陛下は気まぐれな方だから……」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ」
セフィーネは笑ってごまかす。アルベクとしてはあまり合点のいく答えではなかったが、皇帝陛下にまつわることだ、答えにくい事も多かろうと無理やり自分を納得させた。