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第16話 セート

 セートの言っていることは大言壮語ではなく、その実力は生半可なものではなかった。アルベクは自分たちと親衛隊では、その実力に大きな差があることを理解させられる。


「あんたは戦わないの?」

「実力差があるのはわかった。今の俺では武器を使われたら、まず勝てない。ただ、無手で戦ってくれるか?」

「いいよ。もともとそのつもりだし」


 アルベクはそう言うと、ライサーを他の隊員に任せ、訓練場の中央に立つ。そして、深紅の鎧殻装を纏った。


「ふーん、あんたも無手なんだ」

「武器は通じないからな。こっちの方がまだ勝算がある」

「へー、でも力でも僕には勝てないよ」


 そう言うと、セートは先ほどと同じく一気に距離を詰め、今度は蹴り技を繰り出してきた。アルベクはそれを避け、セートに組み付こうとする。打撃技は装甲に防がれるから、組技で勝負をしようとした。

 しかし、セートはそんなことはお見通しだというようにアルベクの腕を振り払うと、顔に裏拳を当てた。


「くっ!」


 その衝撃で、アルベクは後退する。身長はないが、格闘術にもかなり長けているのがわかる。厄介な相手だった。


「いいよ。組技がお望みなら……」


 セートはもの凄いスピードで、アルベクの左足に諸手で組み付き、地面に押し倒す。レスリング選手との試合の経験はあるが、セートの強化された脚力から繰り出されるテイクダウンを躱すことは出来なかった。


 そのまま、セートは寝技に移行し、アルベクはあっという間に締め上げられる。抵抗しようにも腕力の差がありすぎて、なすがままになってしまう。

 そして、アルベクは意識を失った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 しばらくすると、アルベクは医務室のベッドで目が覚めた。

 格闘術でも何も出来ず、無様に負けてしまい、アルベクは力の差を思い知らされる。


「よ、起きたか」


 隣のベッドではライサーが横になっていた。


「ライサー、まだ起き上がれないのか?」

「いや、もう大丈夫なんだが、ちょっと横になって考え事をな。どうすればあいつに勝てるのか……とかな」

「信じられない強さだったな……あいつ」

「ああ、竜の核玉コアの力、とんでもないぜ」


 超高波動を纏った武器の攻撃がまるで効かないというのは、アルベクとライサーにとって衝撃だった。さらに、親衛隊が強いといっても、あそこまでのパワーとスピードに差があるとは思ってもみなかった。


「あと、あいつ自身も相当な使い手だ……」


 実際に戦ったアルベクも、セートがかなりの格闘術の鍛錬を積んでいることは理解できた。もっと強くならなければ……アルベクはそう思った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 訓練が終わり、カインは隊長室にセートを呼んだ。


「どうだったライサーとアルベクは?」

「全然だめだね。今まで魔術師に殺されなかったのが不思議なくらいだよ」


 出された紅茶に砂糖をたっぷり入れながら、セートは答える。


「まだ進化の途中なのさ。セフィーネはいずれは親衛隊にも負けないくらい強くなることを期待しているようだ」

「それは無理っしょ。僕たちとは次元が違いすぎる」

「分からないぞ。奴らの成長速度は驚異的だ。さらに、今日君に敗れたことで、さらにトレーニングに身が入るだろうな」


 セートはあり得ないというように首を振ってから、紅茶を一口飲む。しかし、まだ甘さが足りなかったようで、砂糖を追加する。


「まあ、彼らが強くならなくても、僕一人がいれば十分だよ」

「かもしれん。しかし、君は自分から鎧殻警備隊行きを陛下に願い出たんだろう?」

「……どっから聞いたの、それ?」


 セートは不快そうに言う。


「どこでもいいさ。警備隊に来たのは、君なりに帝都の平和を守りやかったんじゃないのか?」

「……ふん。ただ、魔術師と戦いたかっただけだよ」

「うん? 本当か?」


 からかうようにカインは笑う。セートはそれには答えず、紅茶を飲み干す。


「もう出てくよ。僕の部屋はもちろん一人部屋でしょ?」

「それなんだが、もう空きがなくてな。アルベクとライサーと相部屋でどうだ?」

「あいつらと?」


 セートが不機嫌な声を出す。


「今回の事であいつらは君の強さを充分認識したはずだ。日常生活でも、強くなるために色々聞きたいだろうし、どうか、よろしく頼む」


 カインはセートに頭を下げる。セートはその姿を見て、ため息をつく。


「しょうがない。除隊者が出て部屋に空きが出来たら、その時は頼むよ」


 そう言って、隊長室を後にする。


「親衛隊員の登場は、奴らにどんな影響をもたらすかな……」


 セートが去ってから、カインはそう呟いた。

   

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