第14話 フェルザー
「やはり戦力が足りないな……」
ネオとの戦いの後、警備隊本部に戻ったアルベクとライサーの報告を聞き、カインはそう呟く。
「現状、新型の核玉を持つお前たちに頼り切りという状況だ…… しかし、今回みたいな強敵が複数人で来られたら、こちらも対処できないだろう。帝国工廠に強力な核玉の量産を急いでもらうしかないが、適合者の問題もあるだろうしな……」
「親衛隊は手を貸してくれないんですかね……」
ライサーが親衛隊の名前を出す。親衛隊とは、皇帝を守護する帝国の精鋭部隊であり、生産の難しい特殊な核玉を使えると聞く。
「よほどの事がないかり、彼らは動かんだろうな……」
「よほどのことって、帝都でこんだけ被害が出てるのに、鈍重な方たちだ……」
ライサーが呆れていると、隊長室をノックする音が聞こえた。
「ああ、入ってくれ」
「失礼するわ」
扉を開けて入ってきたのはセフィーネだった。
「あら、アルベクにライサーもいたのね。なんの話をしていたのかしら?」
「うん? いや、警備隊の戦力が足りないという話だ。セフィーネ、核玉の開発は順調か?」
カインが尋ねる。
「新型の核玉は作るのに時間がかかるのよ。もう少し時間をちょうだい」
「……なるほど。それは仕方ないな」
「あと、新型の核玉の力はまだまだこんなものじゃないわ。アルベクとライサー、あなたたちなら、核玉の力をもっと引き出せるはずよ」
「わかった。訓練に励むよ」
アルベクは言う。たしかに、核玉の力を日に日に増しているように感じる。自分たちが成長すれば、核玉はさらなる真価を発揮するのだろう。
「ふふ、期待しているわ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カノア島全土を支配するカノア王国。
ここは百年前にサタナキア皇国が滅亡した後も、ヴァルスレン帝国から魔術師たちを秘かに匿い続けてきた。
しかし、とうとうそのことがヴァルスレン帝国の知るところとなり、つい三か月前にヴァレスレンからの攻撃を受ける。
開発していた核玉を使用する鎧魔導士の力により、派遣されたヴァルスレン軍の撃退には成功したが、もはやカノア王国とヴァルスレン帝国との対立は決定的となった。
現カノア国王シュガルタは、齢八十の年老いた王であった。髪も髭もすでに白く染まっており、杖を使わなければ歩くこともままならない。
しかし、その金色の瞳には強い決意の炎が宿っていた。
玉座に座す王のその目線の先には、魔術師たちの頭目である一人の魔女が跪いている。険しい表情をしているが、気品のある美女であり、シェルド人特有の白く長い髪と紫の瞳を持っていた。体には魔術師の黒のローブを纏っている。
「バシュルに続き、ネオも勝手に動いたようだの、フェルザー」
「陛下、申し開きもございません。すべては私の統率力のなさゆえです」
魔女・フェルザーは深々と頭を下げる。魔術師とは本来自尊心が強く、自由を求める者たちである。頭目であるフェルザーも彼らの勝手な行動には頭を悩ませていた。
「お前を責めている訳ではない…… どのみち儂の代でヴァルスレンとの対決は避けられぬ。多少の小競り合いなど問題にはせん。しかし、ヴァルスレン皇帝とその親衛隊に対抗できる玉核の開発を急げ。今親衛隊に攻めてこられては我が国は一貫の終わりよ……」
「は、全身全霊をかけ、開発を急がせております。皇帝が動くより前に、この戦いの主導権を我らのものにいたします。すべては、大恩ある陛下のために」
フェルザーは顔を上げ、年老いた国王の顔を拝見する。
「百年に渡り我が王家がお前たちシェルド族を匿ってきたのは、すべてはかつてのサタナキア皇家との縁よ。長きにわたり、ヴァルスレンへ媚びへつらってきたのもそのためだ」
国王は髭を触りながら、言葉を続ける。
「フェルザーよ、必ずや百年の無念を晴らせ。期待しておる」
「勿体なきお言葉…… 感じ入りましてございます」
そうして、謁見の間を出て城内に与えられた自室に戻ったフェルザーは、魔女サナリアを呼び出した。
「お呼びですか、フェルザー」
小柄な魔女がフェルザーの部屋に入ってくる。
「サナリア、新型の核玉の開発を奴に急がせろ……」
「それが……やはり時間を要するみたいで……」
「我らには時間がない。ヴァルスレン皇帝が動かぬうちに、急ぎ開発するよう伝えろ」
「……承知いたしました」
サナリアは一礼すると、研究室に向かって走っていった。
「まったく……我らの命運がかかっているときにネオは何を遊んでいるのだ」
不祥の弟子の名前呟き、フェルザーはため息をついた。本来なら、親衛隊に対抗できる核玉が出来るまで、ヴァルスレン帝国に気づかれずに息を潜めておくのが当初の計画だった。
ただ、開発された初期型の核玉を手に入れた魔術師の何人かは、その力におぼれ、勝手にヴァルスレン帝都で殺戮を繰り返した。
その結果、魔術師の存在と、魔術師がカノア島に隠れている事実さえも表に出てきてしまったのだ。
当初の計画は勝手な魔術師たちのせいで、崩れてしまった。
頭目としてのフェルザーの立場もない。
「だが、今度こそ失態はしない」
フェルザーはそう決意を強くする。