第11話 緑の鎧殻装兵
翌日、アルベクは再び鎧殻警備隊本部に来ていた。
「あれからお上とも色々話したが、アルベク、君は特例で帝国軍げの入隊を認めるとともに、鎧殻警備隊で面倒をみることとなった。面倒な手続きは済ませておいたが、最後にこの種類にサインしてくれれば、君は警備隊の一員になれる」
執務室でカインは言った。首都防衛を行う鎧殻警備隊の一員にアルベクは正式に任命される運びとなったのだ。
「お力添えをいただき、ありがとうございます」
「なに、こっちも君の力を必要としているんだ。そうだ、訓練場で部下たちがトレーニングに勤しんでいるが、ちょっと顔を出していかないか? 剣術が得意とは聞いたが、今の君の実力を早速見たいしな」
「承知いたしました」
そのまま警備隊本部に併設された外の訓練場に案内される。広々とした空間に何十人もの鎧殻装兵の姿があり、みなトレーニングに励んでいた。
武器術の試合形式の訓練から、無手での格闘訓練、また実銃を使った射撃の訓練まで、様々な訓練が行われていた。
「整列!」
カインが大声で命令すると、隊員たちは駆け足でカインの目の前まで集まり、整列する。
「お前らも聞いていると思うが、このアルベク・レーニスは本日より鎧殻警備隊の一員となった。みな、よろしく頼む」
「はっ!」
威勢の良い短い返事が返ってくる。
「アルベク、お前からも何か言え」
「えー、アルベク・レーニスです。新参者ですが、皆さんよろしくお願いいたします」
「そう固くなりなさんな。気楽にいけ。気楽に」
アルベクがあいさつすると、隊員の一人がそんな声が返ってきた。声の主を見ると、かなりの長身で、アルベクより頭一つ分ぐらい大きかった。
年齢は二十代前半ぐらいで、逆立った茶髪に緑の瞳という容貌であった。
「ライサー、静かにしてろ」
「いやぁ、そう怒らんでください。俺はこいつに会えるのを楽しみにしてたんですよ。初陣で核玉を持った魔術師数人を倒したその実力、是非とも見たくて」
ライサーと呼ばれた青年は屈託のない笑顔でそういった。
「まあ、そうだな。よし、早速だがアルベク、鎧殻装を纏ってこいつと試合をしてみてくれないか」
「試合ですか?」
「そうだ、武器の超高波動はもちろん抑えてな」
鎧殻装兵の武器・波動武装は、刃の部分に超高波動という特殊なエネルギーが流れるようになっている。これにより武器の切れ味を何倍にも高めることが出来るが、それを使わなければ、鎧殻装にダメージが届くことはないので、安全に試合が出来るのだ。
「言っとくが、アルベク。お前の核玉も新型だが、ライサーの核玉もセフィーネが開発した新型だ。新型の適合者同士、思う存分戦ってこい」
セフィーネは自分以外にも核玉を開発していたのか……
「よし、やるか。アルベクといったな。俺はライサー。ライサー・ガイザットだ。よろしく頼む」
「はい、手合わせ、よろしくお願いします!」
そういうと、お互い、訓練場の中央に立つ。そして、両者、核玉の力を解放する。
アルベクは赤、ライサーは緑の光の粒子が胸から放出され、全身を覆う。こうして、二人の鎧核装兵が顕現する。
ライサーの鎧殻装は深い緑色で、その造形はアルベクの鎧殻装に酷似していた。ただし、頭部の角状の部位は一本であった。
手にはグレイブ(長い柄を持ち、先端に刃身が添えつけられた武器)状の波動武装が握られていた。
「よさ、始めようぜ」
手にしたグレイブを軽く振り回した後、刃の先端をアルベクに向けて構える。
アルベクも諸手で長剣状の波動武器を握り、中段に構える。
「おらぁ!」
リーチはグレイブが若干長く、それを活かしたライサーはアルベクの脚をいきなり狙ってきた。アルベクはそれを剣でいなすが、グレイブは変幻自在に攻撃個所を変え、次は頭部、それも防がれると胴というように連続で攻撃してくる。
「くっ!」
アルベクはリーチの差とライサーの巧みなグレイブ捌きに苦戦しつつも、冷静に攻撃を受け、隙を伺った。
長柄武器と剣で試合をするのはこれが初めてではない。父からもリーチの長い武器との戦い方は叩きこまれてきたし、その後も色々な場所で試合はしてきた。グレイブは強いが、けして勝てない武器ではない……アルベクはそう思った。
ただ、アルベクはまだ鎧殻装を纏っての戦いに慣れていない。膂力、脚力、反射神経にいたるまで、生身の状態から大幅に向上している。それはありがたいことではある。反射神経が向上している分、生身では不利なリーチの長い武器が繰り出す下段攻撃など、本来なら守りにくい技にも対応できている。
しかし、手に入る情報量も多くなり、脳の疲労も普段の剣術の試合よりも格段に増す。
さらに膂力が強くなった分、その力をうまくコントロールできず、精緻な攻撃が繰り出せなかったりもする。
この力をうまく使いこなすのが、今のアルベクの課題だった。
「ほら、どうした。反撃してみせてくれ!」
ライサーはグレイブで攻め立てる。アルベクは後退しながら、技を受け続ける。ライサーはなかなか隙を見せてくれない。なら……無理やり隙を作るしかない。
アルベクは突き出されたグレイブを剣で逸らすと同時に、刀身を半回転させてグレイブを左側に押し込む。
この一瞬でできた僅かな隙を見逃さず、アルベクは防御から、攻撃に回る。諸刃の剣の表側と裏側を巧みに切り替え、連続攻撃を行う。
長柄武器は近間に入られると弱いものである。それでも、ライサーはグレイブを棒のように振り回し、上手く防御する。しかし、アルベクの攻撃の方が素早かった。
アルベクの剣は、軌道を変え、ライサーの肩の装甲に届いたのだ。
「それまで!」
カインが叫ぶ。最初は苦戦したが、なんとか勝つことが出来た。
「やるなぁ、お前さん。こんな新人が来てくれるなんて心強いよ」
敗れたライサーは、負け惜しみを言うことなく、アルベクを讃えてくれた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
そう言いつつも、ライサーはまだ全力ではない、そんな気がした。これはあくまで試合であり、本当の殺し合いでは、使える技術もより多いだろう。
ライサーとアルベクは鎧装殻を解除する。ライサーはアルベクの肩をポンと叩き、「これからもよろしく頼む」と言う。
「はい、ライサーさん」
頼もしい先輩が出来た気がしたが、ライサーはその呼び方が不満だったらしい。
「ライサーでいい。あと敬語もいらん。どうせ年もちょっとしか違わないしな。おまけに、新型の鎧殻装兵同士、俺たちは同格だ」
「しかし……」
「良いんだ良いんだ」
アルベクは隊長であるカインの方を見たが、別に構わんといった風だった。軍隊なのにそれで良いんだろうか……
「わかりました。いや、わかった……ライサー……」
「おう、頼りにしてるぜ!」
これが、親友となるライサーとの出会いであった。