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第10話 父の秘密

「君は、どうして適合者になることを承認してくれたんだ?」

 

 カインはアルベクに問う。


「それは……」

「彼は今日の事件現場に偶然居合わせて、致命傷を負ったの。そして、その場に駆け付けた私が彼の承認も得ず、治療を兼ねて核玉コアを身体に入れたのよ」

「なんだって、そんなことが……」


 セフィーネの説明を聞いたカインはひどく驚いたようだった。


「服が破れていたのはそういうことか…… しかし、だとすると鎧核装兵になったのは君の意思ではないわけだ……」

「はじめはそうでした…… それでも、今日大勢の人が殺されたとき、俺は何も出来なかった…… もっと早く核玉コアの力をこの身に宿していれば、救えたかもしれないと今は思っています」


 幼少期両親が殺された時と同じで、今回もアルベクは何も出来ず、無力であった。鎧殻装兵として選ばれたなら、戦うべきではないかと思う。


「だから、今は適合者として人々を救う鎧殻装兵になりたいと思っています」

「そう思ってくれているのだな…… ならば、俺は君が自分の意思で鎧殻装兵として活動を続けたいと認識するが、それで良いかい?」

「はい。俺は、自分の出来ることをやりたいです」


 カインは無精ひげを触りつつ、色々と考えこんでいるようだった。


「その胸に宿っている新型のコアは他の誰にも使いこなすことが出来なかったものだ。ただ、君だけは選ばれた。我々としては、ぜひ君に一緒に戦ってほしい。よろしく頼む」


 カインは深々と頭を下げる。鎧殻警備隊の隊長という立場にある人物が、こうして頼み込んでいる。


「い、いえ。こちらこそよろしくお願いします」


 つられて、アルベクも頭を下げる。


「ふふ、決まりね。ただ、やはり彼を大学に通わせてあげて欲しいわね」

「それは……うーむ」

「いいんだ。セフィーネ。魔術師との戦いが終わるまで、休学するよ」

「あら、ほんとに?」

「俺がいると大学にも危険が及ぶかもしれない。事が終わるまでは、戦いに専念するよ」


 今日の事件を見た後では、優先順位は変えなければならなかった。


「すまないな。では、君には正式に軍属として働いてもらうよ。帝都の治安が脅かされている今、配属先はおそらくこの鎧殻警備隊になるだろう…… 訓練は厳しいが、大丈夫かな?」

「はい、覚悟はできてます」

 

 その後、アルベクは様々な手続きが待っており、いくつもの書類にサインをした。それが終わるころには、夜になっていた。


「上層部にも話を通しておく、ただ、今日はもう家に帰るんだ。三日後の昼過ぎにまた来てほしい」


 カインはそう言って、警備隊本部の門まで、アルベクとセフィーネを見送った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アルベクとセフィーネは夜の街を歩いていた。


「そういえば、俺は鎧殻装兵になったんだから、両親を殺した奴について話してくれてもいいんじゃないか?」

「そうね…… まだフェルザーを倒したわけじゃないけど、少しくらいなら話してあげるわ」


 セフィーネは立ち止まり、アルベクの目を真っ直ぐみる。


「あなたのご両親を殺した相手、それはおそらく魔術師よ」

「……魔術師……だって? どうしてわかるんだ?」

「だってあなたのお父さんも魔術師かつ鎧殻装兵だったのですもの。寝込みを襲われたにしても、普通の人では殺せないわ」

「なんだって!?」

 

 彼女の口から衝撃的なことが語られる。父親が魔術師だなんてアルベクには到底信じられなかった。しかも、自分と同じく鎧殻装兵とは。


「なにかの間違いだろ?」

「あなたのお父さん、アルゼド・レーニスは確かに魔術師よ。あなたの高祖母も私の高祖母と同じくサタナキアを裏切り、ヴァルスレンで核玉コアの研究をしていたシェルド人だったもの」

「そんな馬鹿な……」

「あなたのお父さんも、最初は帝国工廠で研究していたみたいね。ただ、ヴァルスレン人であるあなたのお母さんと出会ったあとは、帝国工廠を辞めて農業をしていたのよね。髪と目の色を魔術で変えて、傍目からはヴァルスレン人と見えるようにして」


 たしかに、それならアルベクの父の髪が黒髪で、ブラウンの瞳だったことに説明はつく。しかし、父は魔術師である素振りなんて少しも見せなかった。


「親父はそんなこと一言もいってなかったぞ」

「魔術師は迫害の対象だし、なにより辞めた後も守秘義務があったからよ。それに、ヴァルスレン人との混血であるあなたには魔術が発現しなかったのよね。なら、一生隠し通す気でいたんじゃないかしら?」

「……親父が魔術師だという証拠はあるのか?」

「証拠というと難しいわね。ただ、農村で起こった殺人事件を私がここまで詳しく知っているのは、あなたのお父さんが元帝国工廠の魔術師だったからよ。あなたのお父さんやあなた自身、帝国によってずっと監視されていた」


 アルベクは自分が勘が鋭い方だと思っていたが、監視されていることにはまったく気がつかなかった。


「まだ信じられないかしら?」

「……いや、信じるよ。この件に関しては嘘は言って無さそうだし」

「良かったわ。それで、あの殺人事件についてだけど、あなたのお父さんは相当な魔力量を持っていて、剣術にも長けて強靭な身体をもっていた。しかも、鎧殻装兵なら、通常兵器で肉体を傷つけられても、すぐ再生する」


 魔術師は銃弾さえ無効化すると聞かされている。そして、核玉コアの再生力は焼け焦げた皮膚や折れた骨さえも再生するのは、アルベク自身、すでに経験済みだ。


「あの事件、凶器はナイフだとされているけど、ナイフなんかで彼が死ぬとは思えない。魔術師が裏にいるわ」

「その魔術師の特定は出来ているのか?」

「おそらくだけど……ヴァルスレン帝国を裏切り、出奔した魔女が怪しいと睨んでるわ。行方をくらまして、長らくどこにいるか分からなかったけど、おそらくはカノア島に匿われているのだと思う。サタナキアの残党の仲間になったんじゃないかしら?」


 もともとサタナキアを裏切った帝国の魔術師の子孫が、再び裏切るとは皮肉な話だった。カインの話だと、カノア島に魔術師が匿われてると分かったのは最近のことだという。


「その魔術師が殺したというたしかな証拠はないんだろ?」

「ないけど、その魔女が行方をくらませた時期と、あなたのお父さんが殺された次期がほぼ同じなのよね。これはやはり何かあるわ」

「その魔女の名前は?」

「残念だけど、それはフェルザーを倒さないと教えられないわ。これに関しては上からも口止めされているのよ……悪く思わないでね」

「フェルザーを倒せ……か。とりあえず、魔女を見つけたら注意しとくよ」


 もどかしさを感じながら、ずっと謎だった事件の全容がほんの少しだけ見えた気がした……

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