第1話 ヴァルスレン王国vsサタナキア皇国
無数の赤い閃光が空中の魔術師部隊に向けて発射される。その閃光はいとも容易く身体を貫き、致命傷を負った魔術師たちは硬直したまま地面に落下していく。数多の肉塊が大地に降り注ぎ、盛大に砂埃が巻き上がる。
地上では全身に無機質な装甲を纏った兵士たちが、その手に銃剣を構えていた。魔術師部隊を射貫いた閃光は、この銃口から発せられたものであった。
彼らは鎧殻装兵。ヴァルスレン王国から派遣された『魔術師殺し』の新設部隊である……
これまでの戦闘で圧倒的な効力を発揮した魔術師部隊の火球攻撃は、この戦闘では鎧殻装兵の装甲を溶かすどころか、くすませことさえ出来なかった。
「やつら、魔術が効かない!」
「撤退! 撤退せよ!」
阿鼻叫喚の魔術師部隊はあっという間に総崩れとなる。鎧殻装兵たちは遠距離では冷静に銃剣の引き金を引き、近距離では超高波動を纏った銃剣で突撃する。それはほぼ一方的な殺戮であった。
――シガーン平原で行われたこの戦闘は後にシガーンの戦いと呼称され、魔術師が戦場を支配する時代の終焉、それを象徴する歴史的一戦となった。
魔術を使える特殊な人間・魔術師の大部隊を擁するサタナキア皇国軍が、新興のヴァルスレン王国が編成した非魔術師の部隊に敗れたのだ。
一昔前、戦場において、魔術師で編成された部隊が非魔術師の部隊に敗北するなどという話は、誰も信じなかったであろう。
なにしろ、魔術師は多種多様な攻撃魔術を駆使し、銃弾すら無効化する。空を駆けて敵地に降り立ち、殺戮を繰り返す――そう、魔術師は恐怖の代名詞だった。
中でも女性の魔術師……つまり魔女はより高い魔力を持ち、サタナキア皇国最強の部隊は魔女によって編成されていた。
さらに、魔術師はサタナキア領内でも限られた民族であるシェルド族からしか生まれないので、他国では領内で魔術師を育成して対抗するという手段もとれなかった。
にもかかわらず、ヴァルスレン王国軍はいとも簡単に魔術皇国軍を打ち破ったのである。
これには、王国軍の非魔術師の部隊が、鎧殻装兵部隊だったことに起因する。
鎧殻装兵とは、ヴァルスレン王国工廠が秘密裏に開発に成功した核玉と呼ばれる新兵器をその肉体に移植された兵たちのことである。
王国工廠は人間の目玉くらいのサイズの球状の兵器・核玉の開発し、それを適性のある人間、つまりは適合者の胸部に埋め込んだ。
核玉を埋め込まれた適合者は、魔術を無効化する特殊な装甲である『鎧殻装』と魔術師を屠ることの出来る特殊武器である『波動武装』を装備することが可能となる。
装備の方法は簡単で、適合者が望めば、埋め込まれた核玉から全身を覆う光の粒子が顕現し、そしてそれは徐々に明確な実体と質量を持ちはじめ、適合者の頭部、胴体、四肢それぞれを守る強固な装甲と武器へと姿を変える。これが『鎧殻装』と『波動武装』であり、これらを装備しているものを『鎧殻装兵』と王国は命名した。
シガーンの戦いでは、土埃色の装甲で統一された鎧殻装兵の軍勢が魔術師で編成された部隊の攻撃を無効化し、波動武装で短時間のうちに殲滅している。
この戦いで敗北した皇国は瞬く間に首都を王国軍に蹂躙され、その歴史の幕を閉じた。
しかし、各地で殺戮を繰り返し、恐怖の象徴であった魔術師への王国軍の憎悪はすさまじく、魔術を使えるシェルド族は、見つかり次第処刑されることとなった。かくして、隆盛を誇った魔術師は一転、追われる立場になっていくのである。
サタナキア皇国を滅ぼしたヴァルスレン王国は鎧殻装兵の力を使い、大陸全土を統一。ここに、神聖ヴァルスレン帝国が誕生する。
そして、百年の歳月が流れた……
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