ギルドの受付嬢は後片付けは致しません!
ガタイのいい大男が宙を飛んだ。否。投げられた。
その男は私的危険度ランキングでは1、2を争うほどの危険人物としてマークしていだ野蛮人だ。
投げたのはもちろん私。
私が担当するギルドの受付にやって来て競りにかけても売り物にもならないほどにボロボロになったグラグリズリーのバラバラ死体を「高く買え!」と高圧的な態度で言って来たからだ。
だから私はちゃんと言ってやった。
「帰れ。このグラグリズリーは損傷が激しく私どもでは買い取れません。申し訳ありませんがお引き取りください」
私は丁寧に対応した。ちゃんとお辞儀し説明もした。でもその大男は帰らなかった。それどころか受付のテーブルを叩きつけヒビを入れやがった。私が毎日丁寧に拭いて完璧な状態にしているのに……あいつはそれにヒビを入れた。
ピキッ、手元を見るとペンが割れていた。
「わたしは知らない……」
同僚のケイシーがそう呟くとそそくさと裏に消え、上を呼びに行ったのだろうなら私は正当防衛だ。大男の後ろで並んでいた冒険者たちも『ありゃやばい、完全にキレた……』と言い巻き添えにならないように退散した。
「なんだと!! ギルドの受付嬢が! 威張りやがって!! 出てこい! 殺してやる!!!!!!」
カチン。私はその一言で今まで我慢に我慢を重ねていたがこれで完全に堪忍袋の結が切れた。
足を思っ切り踏み鳴らしながらカウンターから出るとその大男はわたしが出てこれないとでも高を括っていたのか面を食らった表情で呆然と立っていた。
「な、なんだその顔は……」
私の気迫に押されたそいつは思わず後退りするが後ろにいた冒険者に背中を押され元の場所に戻る。
「皆んなありがと、後で証言お願いね!」
私は後ろにいる冒険者たちにそう声をかけた。
そうしたら皆んな「わかりました!」と元気いっぱい答えてくれた。偉い偉い。
「お、おい、受付嬢が俺に手を出したらどうなると思ってる!」
「受付嬢は必要とあれば力の行使も許されます」
私が一歩踏み出すとそいつは逃げようと背中を向けた。私はそいつの腕を掴む。
「手を離せ!」
男は手を振り上げて私の手を払い除けようとするがそんな柔なやり方じゃ逃げられない。
「な、なんで外れない!」
「私を怒らせましたね」
ニコッと笑みを浮かべた私。その瞬間そいつを一本投げのようにそいつの手を捻りながら放り投げた。
そのまま壁に激突しそいつは起き上がってこなかった。
「修理費は全額あなた持ちなので払ってくださいな、それともう2度と冒険者を名乗らないでください」
私は丁寧に腰を90°折りお辞儀をしてから受付に戻ると上に続く階段から騒ぎを聞きつけたギルドマスターが降りて来て私の顔を見て天を仰いだ。
「正当防衛です。証言してくれる人ならたくさんいますよ」
何か言われる前にそう言うとギルドマスターは諦めたように壁に埋もれ寝ている大男を引きずってどこかに消えた。
これで一件落着。