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第5戦 人化け

というワケで頬の絆創膏が取れたくらいのタイミングで私は学校をズル休みした。こういうのはボディーブローみたいに効いてくる。


午前中はひたすら眠り、学校の昼休み時間に合わせ貴子とあずみにSNSで応えていたら2人から電話が掛かってきて慌てふためいたりしてた。

午後はオカブをスペシャルブレンドの土を入れたプランターに植えてから高級天然水をジョオロで掛けてやり、それから放置していた間に仕様が変わりまくって別物になってたスマホの課金ゲームを無課金でやり込んでいたんだけど・・


「大豆っ、そろそろ時間差で引き籠りだすな、て思ってたら案の定だね! アッハッハッ」


姉、要が式神のシロナワをマフラーみたいに首に巻いて部屋に現れた。


「・・お姉ちゃん、私、やっぱり学校辞めようと思うんだ。今度こそ! だって、巻き込んじゃうしっ」


「友達が危なくなると毎回それ言ってるけど、そんなこと気にしだしたらあたし達、仕事以外はずっと家に引き籠るハメになるよ? あのね、物塚家がまともに普通の学校に通えるようになったのは戦後からっ、御先祖さん達が苦労して今の形まで持ってきたんだよ?」


「昔の人とか知らないもん」


梅干し5個くらい同時に食べたみたいな顔をするお姉ちゃん。


「あんたが担当しているエリアはハンターが3人も配置されてる怪異の頻度が高いとこ何だから、どっちにしろだよ? しゃんとしなよ。それにね。物塚家のハンター、昔より強くなってると思うんだ」


「お姉ちゃんはね」


「だから! 自分が何をしてるか実感ある、ってことっ! 忘れないでね」


「・・・今、新しいキャラ育てるから」


「キリのいいとこで、自分も育てなっ!」


「他愛無きことよ」


お姉ちゃんとシロナワは去った。


私は晩御飯までにムキになって新キャラがクラスアップするまで無課金で育ててた。



翌日、何てことない顔で私は登校した。自分のズルさ、儘ならなさ。全部無敵万能で私に都合良く解決できたらいいんだけど、できないから、今日も私は皆に迷惑掛けながらこっそり生きてるよ。



夜、廃病院に溜まり過ぎた浮遊霊や動物霊何かを誘導して、サポーターの人達が張った浄化結界で鎮めて昇天させるわりと地味な仕事を終えると、突然、鱒子への援護指令が出た。


「何っ? 鱒子が行ったの『化けパソコン』の普通くらいの個体でしょ? 中に取り込まれちゃった??」


「化けパソコンは問題無く仕止めたが、続けて現れた『人化(ひとば)け』に襲われている! 周辺に被害も出だしてるっ、急ぐぞ、物塚大豆!!」


私は協会の黒塗りの車に乗り込んだ。


人化け、最低な類いの妖怪。


その名の通り、人が妖怪に変化した怪異。死者が妖怪としての実体と独自の摂理を獲得した存在。


妖怪は人間に近い知性や人格を持っていればいる程、基本的に脅威度が上がるけど、コイツらは人間その物。それも狂気を受け入れて、妖力妖術の扱いを理解したヤツらだ。


毎年、現役妖怪ハンターの死因の3割強は人化けによる物。私達の天敵と言ってもいい。



現地に行ってみると酷い有り様だった。住宅街のあちこちで火災が起きてる。焼け出された人々と本物の警察と消防何かで騒然としていた。


「化けパソコン対策で該当の部屋のあった棟周辺にサポーターが張り付いていたから、被害は一応限定的だ。お前は鱒子の救助を優先しろ、人員の融通がまだ利いてない。人化けは今回は最悪、お前達が離脱できればいい」


「わかった。オカブ、人払いよろしく」


「うん」


既に退魔服は着ている。オカブの術が掛かると、私はオカブを肩に乗せて黒塗りの車から飛び出し、威吹丸を変化させて出しつつ風に乗って手近な家の屋根まで一気に跳んだ。


いた。

化け柳みたいには異界を完全に閉じない、いや、現実の世界に干渉することその物に固執しているんだろう。


電柱の1つの上に立っているヤツを中心に周辺の世界が歪み、複雑な路地に奇妙な住宅とデタラメに乱立する電柱の空間が正常な世界との境目も曖昧に、発生していた。


人化けは眼鏡の男子中学生の姿をしていた。ブチ壊された古いデスクトップパソコンを抱えている。微かに放電してる。


軽く焦げてる鱒子は朧漁を手に近くの奇妙な住宅の屋根にめり込まされて動かない。

トドロキは乱立した電柱の電線に絡め取られて黒焦げ。


逃げるだけ、っての逆に難しいか。

私は慎重に可能な限り、人化けに近い位置に屋根に着地した。電柱、電線も注意だね。


「・・化けパソコン、友達だったのに」


2択だ。物も言わずに速攻。あるいは相手の正体を詰めてみせて激昂させて、隙を作る。

相手は臨戦体勢の格上。ヤバ過ぎてこの状態じゃサポーターは近寄れない。

後者しかないか。調査部のお陰でネタは割れてる。


「ミヤマタイキの(かい)。8年前、F中学のイジメグループで流行ったスタンガンを使った『感電ゲーム』から友人を守った結果、イジメグループに脅された友人によって感電死させられた少年の霊。友人は自殺、家族は離散。イジメグループは鑑別所を経て放免され、それぞれ別の地の中学で平然と生活を始めた。あんたは1人ずつ取り憑き殺し、復讐を終える頃には人化けと成り果てていた」


「・・僕、悪い?」


「そこで終わっていればあんたを強く責められない。だけど、あんたは、復讐する過程で電撃による加虐の快感を覚え、その後は手当たり次第殺して回ってる。あんたはあんたをそうしたヤツらの悪意に負けたんだ」


「だってさ」


ミヤマタイキは口を耳まで裂けさせて嗤った。電撃で化けパソコンの依り代(よりしろ)らしかったのを粉砕する。


「電気通してあげたら気持ちいいじゃん! ぴぃーーっ、とか言うんだよっ? 最高ぅぅっ、へへへへへへへっっっ!!!!」


やみくもに電撃を落としだすミヤマタイキっ。回避する! 激昂じゃないけど、雑な範囲攻撃は引き出せたっ。


「オカブっ、手筈通り!」


「は~いっ。ぶーん」


オカブは頭の葉っぱを旋回させて飛び、トドロキの方に向かうっ。鱒子は朧漁が守ってるっ。


オカブが電撃ですぐ狙われたけど、私も回避から風の刃の連打に切り替えて牽制するっ。


「気持ち良くなりなよっ!」


「趣味じゃないっ」


オカブがゴリゴリ帯電した電線の切断に手こずりながらもトドロキの助けに掛かりだした。しゃっ、


私は風の圧を高め、リスク覚悟で近接に切り替えるっ。


近付くと電撃の精度もパワーも上がるけど、今は少しでもオカブをフリーにする!


「へへへへっ、避けるの上手だね。でもさ」


ミヤマタイキの両手が歪な、デカいスタンガンその物になった。

電撃のパワーが一気に上がる!!


バリバリバリバリィッッ!!!!


「あうっ?!」


避け切れずに喰らっちゃったっ。感電で一瞬、身体の自由が利かなくなる!


「いい声だねぇーっ!! へへへへっっ」


追い撃ちが来そうだったけど、そこへ衝撃波が撃ち込まれ、ミヤマタイキを弾いた。


「調子付くでないっ、小僧!」


トドロキだ。ちょっと回復してるっ、見れば代わりにぐったりしたオカブの頭にガッツリ齧られた痕があった。


「食べて回復してもらったぁ~、オイラはもう無理ぃ~」


アン〇ンマン方式?! 何でもいいや、私も一拍開いて、痺れからは復帰できたっ。


「トドロキ! 私のことは守らなくていいっ、全力攻撃で!!」


「潔し!」


カチ合ってわかった。私の技量と力の相性で全員連れて離脱するの、無理!

それに明確に人に害為すことを目的に存在してるっ、このままにしておかない! アイディアもあった。


「威吹丸!!」


私はミヤマタイキを巻き込み、トドロキは範囲から外して大旋風を巻き起こした。トドロキはひたすら衝撃波で宙に浮いてるミヤマタイキに遠距離攻撃っ。


「抵抗してくる相手! 好き!!」


ミヤマタイキは周囲の帯電した電線を何十も操って攻撃してきた! これっ、待ってた。トドロキを捕まえてたんならどっかで使うだろう、って。


懲りてるトドロキは器用に避け、私は大旋風で減速させて威吹丸で直接切断した。斬った部分は私の旋風の中に巻き取られ、支配権は相手がムキにならない限り私の方が強くなる!


「悪足掻きだよっ!」


トドロキに電線の集中攻撃、私には特大のスタンガン電撃を撃ってくるミヤマタイキ! 私は斬った電線を風で操って網を作って屋根に打ち込み自分の前に張った!!


電撃はアースの要領で流されて屋根を吹っ飛ばして焼き払ってく!


「っ?!」


相手が戸惑ってる間に私は投擲の構えができてた!


「でぃやっ!!」


風で加速した威吹丸は咄嗟に交差させてガードしたスタンガンを消し飛ばし、両手ごとミヤマタイキ胴体に大穴を空けていった。

そこへ、


「えいっ!!」


ちょっと焦げたまま飛び掛かってきた鱒子が朧漁を打ち込み、炸裂させて、頭部以外を消滅させた。

残った頭部もあっという間に白骨化し始める。


「あああ・・もっと、痺れさせたいのに」


まだ言うミヤマタイキの目の前に透けた姿で発光する、学生服の別の男子中学生が現れた。

ミヤマタイキに庇われ、ミヤマタイキを感電死させてから自殺した子、小山啓一(けやまけいいち)だ。


「タイキ、もういいよ。ずっとは居られないけど、俺も地獄まで付き合うから」


「啓一っ? うっ、ごめんね。僕が半端に庇ったからっっ」


「いいんだ。俺達、ツイてなかったな?」


「啓一」


小山啓一に笑い掛けられると、ミヤマタイキは完全に白骨化して沈黙した。小山啓一は近くの電柱の上の鱒子と、私達に軽く一礼して、ミヤマタイキの頭蓋骨を抱えて、地に開いた暗い裂け目の中に、穏やかな顔で飛び降りていったんだ。


「何か、最後BLっぽくて興奮しました」


「鱒子、マジ黙って。ぶつよ?」


「すいません・・」


取り敢えず私達はまた電線に絡まってるトドロキを解放してやった。


ギリ勝てた。まぁ、長い付き合いだから私は鱒子の卑怯全開の昏倒したフリを見切ってたけど!



翌日、高校の昼休み。あずみはスマホでニュースを見てる。


「Tが丘の火事、2軒全焼であちこちボヤ騒ぎだって! 酷いなっ」


事後処理部の改変もそれくらいが限界だろね。


「何か他にいいニュースないの?」


貴子もうんざり顔。私を2人を見て、思うところがあった。


「2人ともさ」


「ん?」


「何?」


「もし、やらかして逮捕されても、私、面会に行くから!」


「・・やらかす前提?」


「大豆、自分だけ面会行く側設定?」


2人に左右の頬をつねられた。


「痛ひ痛ひっ、違ふって!」


熱い友情語りたくなっただけだよっ! 勘弁して!!

読んでくれてありがとうございました!

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