生まれた年が5年も違うと、そう簡単に好きって言えない。
この作品は、「第5回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」に応募しているため、1000文字以内という規定に沿った掌編となっております。ご了承ください。
雷が鳴り響く冬の夜。同じアパートに住む会社の後輩が泣きついてきた。
「雷が怖くて、ひとりは無理です。ごめんなさい、今夜一晩泊めてくださいっ」
「夜中に異性の部屋に来るなよ、バカ」
「先輩に会いたくて」
「……部屋、散らかってるから。上がってから、文句言うなよ」
ぷるぷる震える涙目の後輩が、実家で飼っている雷嫌いの犬に似ていて、仕方なく部屋に入れた。
「お風呂も借りていいですか?」
「勝手にしてくれ」
「じゃーん、見てください! 日本各地の温泉を再現した入浴剤です。肩凝りにも効くらしいですよ! 先輩も一緒に入ります?」
「入るか、ボケ」
「登別カルルスですよ、カッコいい名前なのに本当にいいんですか?」
「宿泊料として、入浴剤だけいくつか置いていけ」
お風呂場からご機嫌な歌声が聞こえてくる。雷が怖いって本当か? 試しにブレーカーを落としてやろうか。
「わあい、先輩と同じ匂いになりました」
「そりゃあよかったな。あとはこたつで寝てくれ」
「そんな、先輩と一緒のお布団で寝たいです!」
「ふざけたことばっかり言っていると、追い出すからな?」
風呂から上がった後輩は、なぜか勝手に台所をチェックしている。いいから早く服を着てくれ。新品のTシャツをおろしてやったのに、どうして不満そうなんだ。
「冷蔵庫の中、ビールばっかりじゃないですか」
「放っとけ」
「栄養が偏っちゃいますよ。泊めてもらったお礼に、明日の朝ご飯は腕をふるいますから。うちに来てくださいね」
「週末は朝食いらない派だから。朝寝坊させて」
「どうせなら一緒に出かけましょうよ」
「面倒。寒い。ひと多すぎ。インフルエンザにかかりたくない」
「酷い、先輩のバカあ」
雷なんて聞こえないくらいの音量で、後輩が駄々をこねる。
「あんまりぐちゃぐちゃ言っていると、口を塞ぐから」
「ちゅーしてくれるってことですか!」
「手を出されて嬉しいと喜ぶな」
「先輩、大好きです!」
「うるさい、黙れ、今すぐ寝ろ。これ以上騒ぐなら、ガムテープで口をふさぐ」
「そういう趣味があったんですね。大丈夫です、頑張りますから!」
「もう知らん。外に出て、好きなだけ雷に打たれてこい」
「ごめんなざいいい」
やったあじゃねえんだわ。何年片思いをこじらせてると思ってる。押し倒すぞ、この野郎。
そこら辺の女の子なんか目じゃない可愛さの後輩くんは、無邪気な顔で私の心をもてあそぶ。入浴剤では割りに合わないので、明日の夕食も作ってもらおうと思う。
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(2023年12月9日追記)
たくさんの応援、ありがとうございます。お礼に、泊まりに来た当日の後輩視点の物語(同じく1000文字)を、こちらの後書き部分に追記しておきます。
蛇足がお嫌いでなければ、楽しんでいただけると嬉しいです。
『たった5歳の年の差が問題なんて、そんなの納得できない。』
僕の好きな先輩は、とても可愛い。それなのにみんな、「カッコいい」だとか、「ハンサム」だとか、挙げ句の果てには「イケメン」だとか言っている。言いたいことはわかる。すらりと背が高くて、仕事をバリバリこなす。口は悪いけれど、嫌味や悪口は絶対に言わないし、後輩の面倒見もいい。
でも先輩には、やっぱり「可愛い」が似合う。不意に見せる笑顔の破壊力のすごさよ。コンビニの新商品が激ウマ? 僕が買い占めて全部貢いじゃうよ? もうなんなの、好き。
先輩はなかなか素直な気持ちを聞かせてくれない。イメージと違うと言われたくないらしい。おかしいだろ、ギャップ萌えすることはあっても、がっかりするとか。誰だ、そんな失礼なことを言った奴。見つけ次第、埋めてやる。
先輩から見た僕は、5歳も年下だし、弟みたいなものなんだろうな。異性として意識していたら、夜中に部屋になんて入れてくれないはずだから。
教育係として新入社員の僕についてくれた時からの恋だけれど、どんなに甘えてみたって、先輩にはかわされっぱなし。ぐいぐい入り込む僕を仕方なさそうに受け入れてはくれるけれど、それだけだ。
実家で飼われている先輩の愛犬と僕がなんとなく似ているらしいと耳にしてからは、ひたすら可愛さアピールに切り替えた。可愛いと言われるのは好きじゃなかったけれど、先輩の警戒が緩むのならこの際使える武器は何だって使ってやる。
パジャマ代わりに借りた新品のTシャツは、無地のシンプルなもの。先輩が、面白Tシャツ好きなことを知っているから、楽しみにいていたんだけれどな。ちえっ、彼シャツならぬ彼女シャツが着たかった。
料理は苦手だけれど食べることは大好きなことも、酒飲みなのに酒の肴と言われる珍味は大概ダメなことだって知っている。
眠たくなると口の悪さが引っ込んで舌っ足らずになることだって、寝顔があどけないことだって全部。
何はともあれ、先輩のお兄さんたちには感謝しなくちゃな。乱暴な物言いという防波堤がなくちゃ、いろんな男が群がってきておちおち目も離せやしないんだから。
ときどきいるんだよね、先輩の可愛さに気づく奴。お目の高さだけは褒めてあげるけれど、先輩は僕のものだ。見るな触るな近づくな。先輩が減るだろう。
裏で牽制をかけていると、見た目わんこ系なのにってよく言われる。馬鹿だなあ、男はみんな狼なんだよ。
無防備な先輩の口元に釘付けになりながら、僕は明日の予定を立ててみる。