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宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
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九話 地球の覚悟

エーテリオンドライブは宇宙空間の中を走る弾丸であり、光速を超えて真っ直ぐに移動する。エーテリオンドライブで移動している限り、移動中の相手自体を捉える方法がない。エーテル振動核を有する火星が健在する以上、相手が太陽系に向かってくる場合に火星到達を阻止する方法が今まではなかった。


宇宙に出た人類が太陽系に戻ろうとした前例はあるのだが、幸いにも太陽系に戻るエーテリオンドライブ軌道はすべて無人用の小さな航路しか見つからなかった。そのため、太陽系外に出ていった人間が太陽系内に戻るには、エーテリオンドライブを使わない光速以下の移動のみであった。


過去には無人航路に無理やり乗り込んで太陽系内に戻ろうとした人間も居たが、エーテリオンドライブ中の空間は50万分の1に圧縮されるため、その空間圧縮と同調して人体が破壊されるのがほとんどだった。中には運良く生き延びた人間も居たが、無人カーゴ船による密航などだったため、すべて太陽系到着後に捕捉し拿捕された。


しかしもし無人とは言え戦闘能力を有する組織化された軍隊が地球に送られた場合、火星に到達された後に戦場が開かれてしまう事になる。エーテリオンドライブを防がない限り、次々に敵機が太陽系内に侵入する事になり、最悪は地球にも被害が広がる恐れがあった。


600年前から復興した地球ではあるが、国力も軍事力も星群には数段劣ると考えられており、特にテラマテリアルの生産量は敵わない。とても真正面から相手出来る状況ではなかった。



太陽系側の防衛部隊が取るべき手段はエーテリオンドライブで太陽系内に到達する前に対象を破壊する事であった。その結果、エーテル軌道の強制解除によるエーテリオンドライブの損失が考案され、それを実行する戦闘機グレビレアが開発された。


グレビレアに備えられた棘状の装置からは、エーテリオンドライブ中のエーテル軌道に対して、瞬間的に軌道を歪ませるかのような攻撃を行う。トンネルに敷設されたレールが一箇所だけ失われた場合、高速移動中の列車が脱線してトンネル壁面に衝突する。それと同じように、エーテル軌道が瞬時に歪んだ場合に、エーテリオンドライブ中の宇宙船はその運動エネルギーに比例したダメージを受け、一瞬で圧潰することになる。


つまりエーテル航路の破損条件は、そのエーテル振動に対する共振破壊であった。グレビレアは6対の高機動性エーテル振動エンジンを装備しており、破壊対象のエーテル航路に入り込んで振動に干渉し、共振破壊した瞬間に自分は離脱するという高難易度ミッションを行う。まさに外から無理やり列車のレールに乗り込み、レールの上を走りながら片側のレールをひん曲げて脱出するがごとくの方法である。



しかしいくらエーテル航路が火星につながっているとはいえ、半径3千キロメートル以上の惑星表面のどこに繋がるかを検知しなければならず、なかなかに大変な作業となった。実際、星群からの地球探索船ヘラが火星近辺にエーテリオンドライブで到着し、さらに20日かけて地球の衛星軌道に到達する間、防衛基地ではヘラを検知できていなかった。


ヘラが星群に向かってエーテル通信を行ったあたりで正確な位置を把握し、エーテル通信の遮断に成功したのである。そのエーテル通信とヘラの軌道予測から星群が火星に向かってくるエーテル軌道の候補が絞られ、防衛側は次に火星へ来るであろう星群の宇宙船を可能な限り迅速に検知するように活動していた。



今から600年前に、先進国同士の戦争により陸地の4割が戦火に巻き込まれ、重なる大気汚染により地球全土に大飢饉が生じた。地上だけでなく月と衛星軌道で繰り返される支配権の争奪戦により、地球と月との間で築かれたシステムはほぼ灰燼となった。


とある共産国家の無条件降伏により終戦条約は形成されたが、生き残った国家は荒れ果てて復興の目が見えない地球の再建よりも、別の星を新規開拓する事を選んだ。その後、いくつかの紛争とエーテル技術の産出を経て、共同事業により火星をエーテリオンドライブ出発港として太陽圏外へ旅立っていった。地球残存国家に対して地球と火星不可侵条約を一方的に押し付けて。


残された地球と国家は、太陽圏外の星群が開発した技術を貪欲に導入し、それを地球再生につなげていった。地球表面を覆っていた放射能物質や毒性塵芥を、エーテリオンドライブによる空間移動を応用して廃棄する技術を確立した事により、ようやく地球表面での生活が復活した。


また民主主義や宗教による戦争発起の反省から、AIによる集合知からの意見を国会運営に取り込む新たな政治体系が形成された。当初は覇権国がなかったための暫定的な政治体系であったが、過去の国家運営を学びきったAIによる法治理念に加え、AIによる多国間同時翻訳が成功の鍵となった。国家間の軋轢や統治者の腐敗といった戦争の火種になりかねない問題を最終的にAIに判断させる事で、過去に類のない共同国家運営が数百年に渡り続けられた。貧しく厳しい環境下ながらAIにより極めて平等で平和な時代を迎えた地球人類は、一度は瀕死状態に陥った地球を必死に介護する日々を過ごしていった。


また国家運営を整え継続している間も、地球を捨てていった星群について、あらゆる手段を用いた情報収集に勤しんだ。いくつかの星群はその膨大な距離によりほぼ連携する事はなかったが、火星とエーテル振動にて繋がっていた永世中立かつ星群大使館というべきバーナード星系では、星群間において大小さまざまな情報や物資の交流が形成されていた。太陽圏もまた細心の配慮でその交流に参加し、各星群から様々な技術や情報を地球へと送り、また星群内に協力者を広げていった。


過去の罪を忘れて地球に戻ろうとする浅はかな星群が少なからず存在したが、情報操作や地球不可侵条約に違反する事を通告する事で、地球復帰の活動を妨げてきた。



しかし600年という長い年月が過ぎた頃、とうとう地球への帰郷行動を本格化させた星群があるとの情報を地球側は受信した。さらに調査を進めるうちに、地球を含む太陽系の支配権まで狙った行動であるとの確証を得た。


この情報は地球に残った地球の共同国家に伝達されると、星群が過去に地球に対して行った数々の破壊と無責任な行動が逐次公開されナショナリズムが煽られた。その結果、共同国家の各代表意見とAIの見解合わせて全会一致で星群に対する防衛戦争が可決された。


星群の国力は今もなお地球側よりもはるかに大きいが、しかし地球側は防衛に絶大な自信を有していた。そして地球に向かってきた星群に対して、一縷の希望すら持てないほど徹底的に叩き潰すため、防衛側は研鑽を重ねてきたのである。

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