表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
3/34

三話

時代背景です。これまたさらっと読み流しても結構かと。

宇宙進出が進むにつれて地表にあった国境は薄れていったが、国家の概念は先鋭化し、星群という形で新しい枠組みを形成するようになった。星群が独自に開拓・開発した星は永久に支配できる、という墾田永年私財法が宇宙憲章に蘇り、なかばギャンブルと化した惑星開発や衛星開発が次々に進められた。星群同士の小競り合いは大なり小なり発生したが、戦争に発展するほどの脅威はなく、そもそも人類が争うには宇宙は広すぎたし、あまりに多すぎる星の数は、人類の希望と欲望をあと千年は刺激するだろうと計算されていた。


さらに宇宙空間での移動速度や通信速度は新技術を持ってしても使い勝手が悪すぎるものだった。星群間での争いに使うにはあまりに効率が低すぎたため、学会発表とプロパガンダに使うのがせいぜいであった。


要するに狭い地球から広い世界に飛び出すことで、地球での紛争や戦争は家庭内暴力から開放されたように意味を成さなくなったのである。限られた金と時間と体力を兄弟げんかに使うより、誰も手を付けていない未知の財宝探しに使う事を人類は選び、結果として表面的な平和が600年にわたって築かれた。そして人類の飽くなき欲望を満たすのに十全な星々は今の所、十分以上に存在しており、地球を旅立った人類はお互い争うことなく領地を広げていったのであった。


その当時において、人類が宇宙服なしでも日常生活が送れる地球に似た惑星の候補は、5000個以上挙げられていた。その中で、人類が所有する技術により到達可能な星は300個あり、第二,第三の地球を見つけるのは時間の問題と思われていた。



ただし事情により地球に残った国家や人類は未だに地球内で活動をしている。しかし帝国主義も国家主義も地層のすみに埋もれた今、宇宙に独り立ちした元先進国にとって地球はゆりかごでしかなく、地球やそこに住む人間は、完全に無視された状態となっていた。



そして600年という時間が流れ、地球という名前が歴史の授業でしか登場しなくなった頃、地球簒奪計画が始まったのである。



地球上で先進国と言われていた国家は、宇宙に進出する際に、地球では得られなかった物質に着目した。そして複合素材「テラマテリアル」を開発し、人類が宇宙空間で生活するために必要な素材の入手に成功した。


テラマテリアルは金属よりも比強度があり、樹脂よりも高機能をもたせる事ができる素材である。この素材によって、軽量で強力な宇宙船の筐体を作り、薄くて機能性の高い宇宙服を作り、惑星改造に必要な重機を作り、多種多様な建造物を作り、人類は宇宙へと進んでいった。無重力かつ真空という条件のみ生成できるテラマテリアルはまさに宇宙産物の結晶であり、まずテラマテリアル生産工場を立ち上げ、そこに資源を集め生産を高め、生活拠点を築いて都市を形成する流れとなった。


エーテル振動とテラマテリアルによって、星群は新たな宇宙開拓時代を開いた。そして600年に渡る太陽系外での行動は、人類以外の宇宙生命体に出会うどころか、自分たちを快く迎えてくれる母星すら見つからなかったという結果で返ってきた。


さまざまな技術と経験を宇宙に積み重ねてきたが、土と大地と空気に素肌で触れる事は一度もなかった。また地球に類似した環境を、他の惑星の上で再現する事は現時点での技術でも実現不可能であった。


代替として人工的に地球の環境を再現したリゾート用のコロニーも開発されたが、直径1キロメートルに満たない大きさしか作れなかったため、わずか数ヶ月の生活でそのメッキが剥がれてしまった。VR技術による仮想空間上で地球環境を体験する方法でも、性体験の代わりにいかがわしい本を読んでいる男子高校生レベルの満足しか得られなかった。


どの人工都市でも土と芝と街路樹は整備され、プランタ形式の植物はほぼどこの家庭にもあり、自然公園は心の支えとなった。しかしそれらはあくまで人工物であり不自然でありダッチワイフであった。歴史の資料で語られる地球生活への渇望は、600年に渡って人々の奥底に溜まり続けていった。結局、人類は地球という母親を忘れられないマザコンであったのだ。



元共産国家から生まれたアルタイル星群では、第二の地球を見つける傍ら、地球の情報を集め出す活動が少しずつ始まり、星群予算の数%を確保するまで拡大し始めた。太陽系に繋がる星域にテラマテリアル工場の建設計画が立ち上がると、星群が公募した労働員募集の際には倍率35万という想像以上の人が殺到した。


地球に繋がる辺境星域が今一番の注目を浴びる状態になり、星群の予算以外にもスポンサー企業が集まり、選挙の争点にまで挙がるようになった。そして星群が所有する過去の地球に関する資料が片っ端から掘り起こされ、それらが例外なく人々のノスタルジーを刺激し、歴史に沈んでいた地球が最新かつ最高の話題に登るようになっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ