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宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
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二十九話 星群の裏切者(3)

ベロボーグプロジェクトにおける技術責任者にカムラが就き、無人エーテリオンドライブ航路を使った有人宇宙船セレネーとテルースが公開された。セレネーは16人の運搬が可能な小型宇宙船、テルースはヘカーテと同等以上の戦闘能力を持った攻撃宇宙船で、それぞれヘカーテの全長40mを越える60m級であった。操作するパイロットはセレネーが2名、テルースは3名となる。


まず太陽系での橋頭堡となる宇宙ステーション建造がファースト・ミッションに定められた。建造人員をセレネーに乗船させ、それをテルースが護衛する。そして10基の無人宇宙船を送り込み、それを太陽系に到着後、合体させて宇宙ステーションを構築する。このミッションに同行するセレネーは4台、テルースは26台と決まった。橋頭堡としての宇宙ステーションを建築するまでに、テルースを最大20機投入する事が可能な陣形となっていた。



「タナー君、セレネーとテルースのパイロットについて、現状を説明してくれ。」

「はい、第一候補の84名および予備6名について、処置したウェアラブルマテリアルの完全固着を確認、その状況にてテスト飛行もすべて成功しております。」


カムラは満足そうにうなずく。


「パイロットについては完璧だな。さすがだ。あとセレネーに乗船させる作業員についてだが、これはパイロットより負担が小さいから問題はないだろう」


「はい、作業員はドライブ後の作業がメインですので、パイロットと比べてウェアラブル構成率が小さくなっております。表皮に占める割合としても宇宙服の置き換え程度で、体重比率でも10%程度となっております。」


「パイロットのウェアラブルが体重で40%となっているが、これは?」


「はい、作業員の場合、ドライブ到着後に現地にて手足を取り付けますので最終的にウェアラブルが占める体重割合が10%、という計算です。パイロットの場合は手足は不要のため、結果的にウェアラブルの比率が大きく出ます。」


「なるほど、了解した。予定通り、ベロボーグ第一陣は5日後に出発だ。それまでパイロットの体調について万全を期すように、頼んだよ」


「はい、全力を尽くします。」


太陽系に繋がる無人エーテリオンドライブ発射基地に、ベロボーグ作戦司令室が建設されて8ヶ月。現地でドッキングして宇宙ステーションとなる無人機10機に、有人宇宙船セレネーとテルースがすでに出発できる状態となっていた。タナーは有人パイロットのウェアラブルマテリアルを担当しており、6ヶ月ほど前にセントラルエリアからこの基地に移動し、最終テストを行っていた。


最初は間に合わないと思われていたカムラのプロジェクトも最終局面にて計画通りと報告され、ルイ議長の最終調印を経て、ベロボーグプロジェクトは完成直前となっていた。


セントラルエリア出立前に、地球側の面接官アオリから「先輩はこのままプロジェクトを進めて下さい」と言われたタナーは、作戦司令室にてカムラ教授の妻、エミーと共同で作業を開始していた。エミーは星群の教育と脳科学のオーソリティであり、プロジェクト実行部隊の思考制御を担当していた。タナーとエミーは作戦司令本部長フージの直下としてパイロット教育と指導を行い、技術本部長カムラが特殊有人宇宙船を管轄し、最終調整がほぼ完了となっていた。


フージはカムラより5つ歳上で、仕事だけでなくプライベートでも仲がよく、20年に渡り共同で作業をしてきた。タナーもカムラやエミーを介して数年来の付き合いであった。


「タナー、君のおかげで作戦は完璧だよ。」エミーとパイロットの同期確認を作業している最中に、部屋に入ってきたフージから絶賛された。「確かに、この画期的なウェアラブルマテリアルだけじゃなく、地球側の情報入手もタナーのお陰だものね。」エミーもまたタナーを褒める。


「いえ、私が出来る範囲で最適と考える事を実行したまでです」

10代の頃から尊敬していた2人に褒められ、そして自分の研究成果が実際に星群に多大な貢献をする目前となって、タナーは人生で最大の充実を感じていた。


「ところであの子からの情報は?」タナーが気になっていた事をフージに尋ねる。


「ああ、この一週間に関しては新しい情報は全く出てきてない。ヘラやヘカーテに使われたミサイルについて、もう少し具体的な内容が分かるといいんだが。」


「そうね。私のチームも洗脳や自白をいろいろ試しているけど、多分彼女は今以上の情報を与えられていないのかもしれない。もう一人捕まえられたら良かったわね。」


「ええ、私もそう思います。もっと早くお二人に情報をお渡ししていれば、丹下の方も捕獲できたかと思うと……」


「いや、彼女を捕まえられただけでも充分だよ。お陰で地球圏で何が起きたか、そして何が待っているか、把握できたんだから。気に病むことはない。」


「そうよ、タナー。貴方のお陰でフージ様もカムラも万全の体制でこのベロボーグを実行できる。作戦における貴方の貢献度は偉大なものなんだから」


「はい、ありがとうございます。」素直にタナーは感謝を述べる。フージもエミーの言葉にうなずきながら、ふと気付いたように女性二人に確認する。


「そういえば捕らえた工作員、アオリと言ったか。彼女の親族や近親者を洗い出しているが、まったくもって地球側との接点が見つからない。600年の出立時から一切、星群の外交にも関わっていない。どこで彼女が地球と接点があったのか諜報部もお手上げのようだ。何か聞いていないかい?」


「いえ、彼女は私に地球側の面接官として接触してきた時から、自分については一切話してはいませんでした。」


「私のチームが行ったブレインシェイクの結果でも、彼女は研究者としての知識しかなかったわね。もしかして捕まった時のための防衛策が何か仕込まれていたのかもしれないわね」


タナーも地球側の工作員がアオリと知った時、自分より年下なのに重要な役割を担っており正直驚いた。ただアオリも星群の軍事研究者として、ヘラやヘカーテのパイロット開発に従事しており、実際に採用されるほどの結果を出していた。そこまで星群に尽くしていた彼女が、なぜ地球側の工作員をやっていたのか、逆に工作員だったが信頼を得るために研究に勤しんでいたのか。


タナーは彼女と丹下が地球側のスパイである事をフージに直接伝え、その1時間以内にアオリは拘束された。丹下は残念ながら逃亡済みという事で、現在指名手配中だった。ただ星群の住民はみなが住民票と言うべき生体マテリアルチップを体内に埋め込まれており、様々な交通機関や重要建物の入り口でそれをチェックされる。一ヶ月近く逃亡に成功してはいるが、そのチップがある限り、丹下の逮捕は避けられないとフージらは考えていた。



タナーの密告により逮捕されたアオリは、国家反逆罪に加え、貴重な地球側の情報を所有しているという事で、自殺防止処置を施された上で星群最高機密の設備にて尋問されていた。エミーは軍の教育機関、すなわち洗脳や尋問などの人間を対象とした実験を担当しており、アオリの脳から直接情報を入手する非人道的な作業を得意としていた。


その結果、アオリの口からヘラとヘカーテは地球側が予め用意していた核パルス誘導型ミサイルにて撃墜された事、また地球側は星群の協力者を通してヘラとヘカーテの行動計画を入手していた事を聞き出していた。


そしてヘカーテの後にも星群から太陽系に到達するであろう第三波についても、到着エリアで待ち伏せて、同じミサイルにて破壊する計画の概要までアオリから入手していた。しかし待ち伏せ部隊の詳細や、星群から地球にどのような方法にて情報が伝わっているかは不明瞭だった。またアオリ以外の、星群内にいるはずの他の工作員の情報も所有しておらず、アオリが地球側の工作員となった経緯も何故か吐き出せなかった。


地球側による情報防衛か情報錯乱かとも思われたが、しかしヘラとヘカーテについての証言に加え、タナーがアオリから直接語られた内容の整合性から、充分に信頼できる情報と判断された。ベロボーグ作戦においては、エーテリオンドライブ到着後に地球側が待ち伏せている事を前提に計画が修正され、星群の作戦司令本部は万全の体制で太陽系侵攻の準備を整えていた。




もちろん、ベロボーグ計画において、ヘラのエーテル通信が喪失された瞬間にセンサに何も反応がなかったことや、ヘカーテがドライブ終了後からエーテル通信が消えていた事から、もっと安全性を確保した方が良いと提言した技官もいた。また地球側のエーテル振動に関する技術が、星群が想定するより上かもしれないと言った研究者もいた。しかし彼らの意見は無視され、発言者とそれら意見に同調した人間は最終的にすべて計画から追放された。ウラケもまた、その一人であった。


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