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宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
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二十八話 ヘカーテの累

「ヘカーテ、無事にエーテリオンドライブにて太陽系内に到達の見込みです。到着後、ドライブ解除を行いながらエーテル通信を開始します。」


星群セントラルエリアでは、所有するエーテリオンドライブ出発港から地球探索船ヘカーテが予定通りのフライト完了報告がなされた。


ヘカーテはヘラ以上の探索や戦闘能力を有しており、地球圏内での様々な情報収取を目的としていた。もともと太陽系から外に出ていった複数の星群間では、太陽系への不可侵条約が結ばれていた。人類初のエーテリオンドライブ航路は太陽系からバーナード星系へ構築されたが、これは一方通行であったため、一度太陽系から出た人類は、戻る事は出来なかった。


バーナード星系において4つのエーテル振動に適した惑星が発見された。そのうち惑星ラフマーンに太陽系へつながるエーテリオンドライブ航路が見つかったが、有人ではなく無人のみ可能な航路だった。結果、太陽系とバーナード星系の航路は無人輸送船のみ航行が許可され、バーナード基地は各星群から情報や物資が集まる拠点であり重要な交易拠点となっていた。その他のエーテリオンドライブ航路は幸いに有人航路であり、各星群はさらにバーナードから外と次々に旅立っていった。それから数百年、バーナード基地は表面上はわずかながらの交易しかない辺境扱いであった。


ヘラやヘカーテは惑星ラフマーンとは別の、星群支配領地にある惑星ヘリオスに作られたエーテリオンドライブ発射台から火星に向かって出発していた。無断で太陽系内に直通するドライブ航路の構築は当然、憲章違反であったが、星群は地球に残された旧国家の国民調査のためと地球進出の理由をでっち上げた。星群を構成する元々の国家が法令遵守ではなく独裁国家であった事も、その行動の背景に強く影響していた。


しかし国境を隣り合わせた地球国家時代と異なり、宇宙星群時代では境界どころか隣の星群がどこにいるかさえ不透明であった。言うなれば大航海時代に近く、また600年前に捨て去られた太陽系やバーナード基地に注意を払う星群はほとんどなかった。

そのためアルタイル星群は他に構うことなく、太陽系へと無人エーテリオンドライブ航路を構築し、ヘラとヘカーテを送り込んだ。


そもそもエーテリオンドライブの発射台は半径500キロメートル以上の惑星を改造して造られる。条件に見合う星の探索から始まり、惑星軌道を含めた適性検査を合格した後、莫大な費用と材料と時間を使ってやっと発射台は完成する。しかも発射台は進路が決まっており、言い換えれば行きたい方向に適した惑星が見つからなければ、その方向へのエーテリオンドライブは不可能となる。


更に問題として、半径500キロメートルは無人宇宙船の最低条件であり、有人宇宙船のドライブ航路を構築する場合は条件が一段上の厳しさとなる。それほどにエーテリオンドライブの発射台を構築するのは星群における大事業であり、わざわざその労力や予算を太陽系に向ける事自体、錯誤であった。


アルタイル星群も、元々は目的があって太陽系に直接つながるドライブ航路を見つけたわけでは無かった。偶然、とある航路の候補の先にもう一つドライブ発射台に適切な惑星ヘリオスが見つかり、その発射先が太陽系内だった、というだけであった。この偶然は30年ほど前に発見され、当時は太陽系に価値を見出す事はなかったため、最初に見つかったドライブ航路のみ開発された。しかし裏では太陽系への航路も研究開発が一部で進められており、利権と選挙と個人的栄達を望む者たちはそこに勝機を見出していた。


幸か不幸か、太陽系に繋がった惑星航路は、その条件から無人宇宙船を飛ばすのがやっとであった。しかし太陽系への再進出を決めた星群政府は、無人エーテリオンドライブの有人化対応を国策として定め、開発を勧めてきた。無人ドライブの有人化自体、非常に価値のある技術と見込まれていたが、宇宙船の大きさは限定されたままだったため搬送効率の点から発展していなかった。


しかし他の星群に抜け駆けして地球を支配するという妄想に固執してしまったアルタイル星群は、すでに後戻りできない状態となっていた。大人が通れない小さな穴から裕福な隣家を覗いていただけでは満足できず、その隣家に押し入るためにすでに自分の体を無理やり穴に押し込んで突き進んでいたのである。


大人が通れない狭い穴だったので、手足を取って体を無理やり小さくした大人を子供に見せかけて下見をさせることにした。ついでにその子供をダシにした。


最初に送り込んだヘラは計画通り隣家の母屋まで侵入に成功し、無断で中を撮影した。そしてそのままわざと見つかって捕まった、ことにした。ヘラがもたらした情報から、隣家には想像以上に宝物が沢山あった。星群は、宝物は自分の物にするべきだと考えた。ヘラは隣家に捕まってしまったから助ける必要がある。そういう理由で隣家に押し入る事にした。


隣家に確実に侵入するため、同じように体を無理に小さくした大人を4人送り込んだ。そしてその間に、もっとたくさんの大人が次々にその狭い穴を通る方法を考えた。手足を取って無理やり小さくすると、通り抜けた後に泥棒や占領をさせるのが難しい。なら人工的に小さい体に改造した大人を作れば良いのだ!自分たちは体を改造したくないので隣家に侵入できないが、隣家を占領して自分の持ち物にしてしまえば、取り敢えず満足だ……。



「ヘカーテからのエーテル通信、いまだに実行されません。何かあったかと思われます」


「実行されない?途中で切れたとかではなく、通信そのものがやってこないというのか?」


「はい、ヘカーテのエーテリオンドライブ完了振動は確認しておりますが、その後のヘカーテについて一切確認する事が出来ません。」


「ドライブ直後に何かに衝突したとか?」


「ドライブ状態を解除後、速やかに通信を行う命令をしてあります。そのためヘカーテ本体の事故もしくはパイロットに何か起こったか……」


成功必至だったはずのヘカーテ報告会が、一転して原因不明の事故究明会へと様変わりしてしまった。会を取り仕切るフザカは冷静に原因調査に勤しむが、そう簡単に分かるものではなかった。4時間、6時間が経過しても一向に事態が良くなる気配はなさそうだった。その間、最高責任者とも言えるカムラはほとんど発言していなかったが、見るものが見れば激昂直前である事がわかった。


「フザカくん、明日の10時に予定されているルイ議長への報告は君が直接行うように。私は残念ながら別の用事が入ったから出席できない。すべて君が最後まで責任を持って、ルイ議長に納得してもらうように説明を行う事、それが君の仕事だ」


実りがまったくなかった会の最後、カムラが静かにフザカへ宣告した。さすがのフザカも顔色が白くなっているのが傍目からもわかった。確かにこのヘラ・ヘカーテ計画の実行責任者はフザカであり、カムラの言は正しい。が、会に出席していた全員が、そもそもカムラが最高責任者である事を知っており、もし計画が成功していた場合はカムラがルイ議長に自分の成果として説明していた事もわかっていた。常に自信満々だったフザカが、背を丸めて焦燥しきった顔で、退室していったのが印象的であった。



カムラとフザカが退出した後の部屋では、残ったメンバーが今後を占っていた。


「ルイ議長の判断次第ではフザカ主査もデスバレー送りかな」

「でも議長もカムラ教授の逃げを許すかなぁ。」

「いや、今回はフザカ主査までが手打ちって事でしょう。次はカムラ教授が審判されるだろうけど」

「次?」

「ベロボーグ計画でしょ。例のウェアラブル操縦士による太陽系解放軍」

「ヘカーテがもし本当に失敗してた場合、ベロボーグも成功する率低くなりそう」

「失敗しない事が前提の計画だから、カムラ教授が失敗を認めない限り、計画は100%成功するよ」


アルタイル星群がまだ地球国家の頃から、出来ますと言った物が出世してきた。カムラやフザカも、かつての上司が「出来ます」と言って出世し権力を握った事も、実際はに出来なかったため粛清された事を何度も見ていた。それが繰り返された結果、自分が失敗イコール粛清の立場まで上り詰めていただけの話である。星群の行き過ぎた成果主義の下では、出来ない人間は要らないことになり、立場が弱い人間は搾取の対象でしか無かった。


「ERなんてテロリストをでっち上げてたけど、もしかして本当に太陽系側が戦力をもってて攻撃してるのかね?」


「600年も宇宙開発してきたうちの技術に、太陽系でほそぼそと生き長らえてきた地球の技術が勝てる訳ないでしょ。」


「それか他の星群が妨害しているとか……」


「もしうちより早く地球を抑えた星群がいるなら、憲章違反で先に訴えるはずでしょ。」


「たとえ地球を復興した勢力がヘラやヘカーテを撃墜してたとしても、憲章違反を訴えて来ないのも変な話だしね。」


「地球側が犯人をわかっていないだけかも。ヘラやヘカーテがアルタイルの船だって証拠が見つかってなければ、訴えようがないから……」


星群では、立場が下の人間が問題を指摘すると容赦なく飛ばされてしまうため、皆が都合よく考えすぎる傾向にあった。成果主義によって成果につながらない作業は軽視され、諜報も都合の悪い情報は追いやられ、都合の良い情報ばかりが捏造に近い形で政府に送られてきていた。


「600年近く、外宇宙から太陽系に戻ってきた星群って無かったわけでしょ。そんな状況で地球に残った人間が、いつ戻ってくるかわからない星群に対して備えたりする?」


「別の星群からアルタイルが地球に向かっているってリークがあったのかも」


「政府もそこは把握済みでしょう。」


「万が一、太陽系側が何か防衛してたとしたら、今のままで大丈夫なのかね?」


「今さら計画を変えるのはもっと無理でしょ。このまま予定通り、軍隊を送り込んで強引に地球を攻めた方が成功率たかいでしょ」


「こっちは好きなだけ太陽系に軍隊送れるようになるけど、向こうからこっちに直接攻める航路はないから、物量で押し切って終わりですね。こちらの勝ちはゆるぎません」


「今回はヘカーテについてフザカさんが更迭されて、ベロボーグは成功してカムラ教授は技術大臣に昇進、てところかな。」



何人かが予想した通り、ヘカーテ消失の責任を取るという形で、フザカはメリキュル惑星群の現場に部署変えとなった。メリキュル惑星群は通称デスバレーと呼ばれ、過酷な環境と終りが見えない開発計画のため、配属されたが最後、戻ってこれない場所であった。フザカの前任者やカムラの元上司もまたこのデスバレー開発地域に送られ、今も中央に戻ってきていなかった。


ヘカーテ消失事件は人民に一切通達されず、逆にヘカーテがER(地球反乱軍)と交戦中という擬態情報が発表された。それから数カ月後、政府から正式に太陽系への進出と、ERから地球を開放して星群が正しく管理するための軍事行動「ベロボーグプロジェクト」がいよいよ始まった。


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