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宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
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二十七話 ヘカーテ VS 地球防衛軍(3)

ヘカーテは火星の衛星ダイモスに向けて巡航しつつ、迎撃体制のまま次のターゲットを探していた。最初に相手した10機は半分を撃墜された後、撤退した。それと入れ替わるように7機が近づいてきたが、レーザプラズマ砲の射程から大きく離れた位置でこちらの様子を見ているようだ。このまま膠着状態が続くのはあまり良くない。地球に進路を変えれば、敵も向かってくるはずだ。


進路を変え始めてすぐに、ヘカーテから天頂方向に位置していた敵機がこちらに突進してきた。他の6機は動きがない。こちらの思惑通り、しかも動いたのは1機だけ、プラズマのターゲットが分散されず好都合だ。


なめらかに機体の姿勢を変えつつアームを天頂部に向け、光学センサで捉えた敵位置にレーザプラズマ砲を照射する。8本のアームすべての砲台からプラズマが走った。


光速で飛ぶレーザプラズマは見てから回避は不可能であり、先程撃墜した敵機もすべて回避行動の前に被弾していた。しかし今、プラズマが走った先からなんの反応もなく、敵機も居なかった。


ヘカーテもヘラと同様、パイロットが驚くことはなかった。また油断することもなかった。しかし捉えたはずの敵機を一瞬で見失ってしまった。理解不能。センサ類は異常なし。敵機はどこに。いや、同じ場所にいる。なぜプラズマが当たらない?



超短パルスレーザはマシンガンのように一発一発が短いレーザ光が連射される武装だが、プラズマ砲は一定時間、連続したレーザ光が照射される。ただし長時間照射はエネルギー消費が激増する上、光励起触媒が温度上昇して最悪破損してしまうため、数秒照射後に冷却のインターバルが設けられていた。ヘカーテは8門のプラズマ砲を時間差を設けて照射することで、その欠点をカバーしていた。


しかし何度プラズマを向けても敵機には当たらなかった。敵機が近距離に入ったため、ヘカーテはプラズマ砲からパルスレーザによる面射撃に切り替えを選択した。


なおプラズマからパルスレーザに武装を変更する際、発振器の光学回路を切り替えるため僅かながらディレイが発生し、その間レーザ光が使えない空白の時間が生じる。最悪、敵機の攻撃を多少受けることも視野に入れつつ、ヘカーテは冷静にプラズマ砲を照射しながら、アームの防御面を相手に向けた。


相変わらずプラズマはなぜか避けられてしまうが、相手の機首がこちらを向く前に、一気にブースタを駆動させて敵機の進行方向からの高速回避を図った。猛進する牛を飛び越えて躱すマタドールのように、敵機とヘカーテはすれ違うような状況となった。ヘカーテは相手の射線を完全に交わしつつ、準備が完了したパルスレーザで面照射を行おうと、ちょうどすれ違い終わった敵機にアームを向けた。


「うわすっげ。波木さん、完璧だ」


マツヤが呟いた瞬間。ヘカーテは中心から両肩、そして全てのアームに至るまで複数のレーザで串刺しにされた。音の伝わらない宇宙空間だったが、ヘカーテがまさに針爆弾の地雷を踏んだかのような爆音が聞こえたように思えた。鎧袖一触の出来事だった。


十本以上のレーザがヘカーテをズタズタに貫いた後、内部衝撃波が遅れて伝わったのか、少し遅れて作業アーム8本が全て引き千切られるように吹き飛んだ。ヘラ本体に似た両肩と中央のコアは真下からハンマーで何度も叩かれたようにグシャグシャに砕かれていた。



「ターゲット、沈黙しました。安全のためスパイダー全機はそのまま戦闘状態を維持。第五防衛隊から無人工作機を投入させます。」


スパイダーの撮影画面を見ながら、レイコがササに報告する。ササはヘカーテの映像に向かって軽く黙祷した。あの一瞬なら、ヘカーテのパイロット達も苦しまずに逝けたと思う。良かったとは言えないが、ため息と一緒にヘカーテを見たときから感じていた暗い思いが抜けていくのを感じた。


「グレビレアは無事かね?」

「はい、回線をつなぎます。グレビレア、状況を……」


『ササジュニア、よくやった!完璧だ。褒めてやる。』

『そのジュニアってのを止めてください。僕はササ・シンイチローです。』

『仕事中に名前で呼ぶわけないだろ。ササジュニア。お前はササジュニアだ。』

『じゃあササ副操縦士とかでいいじゃないですか。レイコ副司令もそう呼びますよ』

『うるせぇ、ササジュニア。せっかく褒めたのにつまんない事言いやがって。お前は黙ってろ』

『もう、なんでそんなにハイテンションなんですか……。あ、波木さん、すいません、司令室に回線が繋がってました』

『え?マジ。うわ、恥ずかしー。ササジュニア、早く気付けよ。まったくもー。あー恥ずかしい。・・・・・・・・まぁいいや。ササ司令、感謝する。約束通りヘカーテとやらせてくれてありがとう。多分、任務は無事果たしたと思う。』


責務を完遂させた安心からだろうか、いつもと違って妙に明るい波木の声が伝わってきた。ヘラの一件から今日まで、いろいろ溜めていたものがあったんだろうなと思う。


「こちらこそ、約束を果たしてくれてありがとう、波木くん。君も完璧な操船だった。あと息子もよくやったと思う。でも波木くん、本当にありがとう。そして無事で良かった。」


特殊通信のため、音声のみで画像はお互いに伝わらない。だがササはグレビレアがいると思われる方向に向かって敬礼した。


「私からも言わせて下さい。……波木主査、作戦完了お見事でした。そしてお疲れ様でした。ササ副操縦士も素晴らしかったです。・・・あと私個人からお礼を伝えさせて下さい。……波木さん、本当にありがとうございました。感謝いたします。」


副官のレイコも見えていないはずの相手に深々とお辞儀をする。ササはレイコが少し涙ぐんでいたのを見た気がしたが、見なかったことにした。そしてグレビレアの通信も静かだった。・・・・・・


『あれ?波木さん、司令と副司令に返事しなくていいんですか?波木さん。あれ?え?泣いてる?』

『あ、バカこっち来んな、黙れ、余計な事いうな。回線切れ!』

『え?ちょっと、うわ暴れないで下さい、やめて、暴れなぃで………』


ガタガタっと何かが当たるような音がして回線が強制終了した。あー、バカ息子、空気を読めよ。後で波木に謝らないとなー。と思った時、レイコが吹き出した。


「ふふ、すいません。いい息子さんですね。腕も確かなようですし。泣いてるの私だけじゃなくてホッとしました。」

「ああ、ところでこの回線、このエリアとグレビレアだけしか聞こえてないよね。」

「ええ、大丈夫、防音はバッチリです。ここだけ、4人だけの会話です。」


司令室には10数名のスタッフが居たが、エリア防音により司令席周辺の会話やモニタ通信は同じ部屋でも聞こえないようになっていた。となると自分と息子は、レイコくんと波木の弱いところを見てしまった事になる。4人だけの秘密かぁ……自分だけでなく息子にも、この会話は絶対に他言無用である事を守らせないと、あとが怖い……


「よし、ではグレビレアの帰還命令を。スパイダーにはもう少し頑張ってもらって。あと司令本部に報告を。」


「了解いたしました、ササ司令。第二防衛隊より司令本部に、作戦成功の報を伝えます。」



その後、ヘラのように破壊せずに回収する事は出来なかったのかという声も多少発生したが、人的被害がゼロにてヘカーテを完封した作戦の立案と実行は全関係者からの称賛を得られた。そして戦闘の結果について、地球圏内だけでなく、太陽系外にて活動している一部の人間にも、極秘裏の内に伝えられていた。ヘカーテは太陽系内に到着後、4時間の活動時間を持って全機能を消失した。

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