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宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
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二十五話 ヘカーテ VS 地球防衛軍(1)

「火星圏、エーテリオンドライブの振動を確認しました。予測どおり10時間後に地球探索船ヘカーテが到着する見込みです。重量は200トンから300トン、体積も1000立方メートルと予測され、これは前回の探索船ヘラの約1.5倍から2倍の大きさと推定されます。」


「エーテリオンドライブ到着地点の正確な座標割り出しを急げ。第三、第四防衛隊は予定通り、第二防衛隊には到着予定時刻の4時間前から発信スタンバイ、先発は第五防衛隊……」


ヘカーテが太陽系に到着する直前、地球側は完全包囲の陣形でそれを待ち構えていた。ヘラが地球にまで到達させてしまった事を失態と考えており、今回はドライブ直後に捉えるため必勝の体制を整えていた。


そして今回のヘカーテ迎撃において、ヘラの時と同様にカーツが作戦指揮者となっていた。


「現地観察部隊、およびエーテル振動解析部隊から正確な位置と時間を最優先で。エーテルストライク発動準備。」


作戦司令本部に次々に送られてくる情報は、星群内部の協力者やヘラの分解調査から得られた推定値と差がなかった。100%成功するとは考えていなかったが、それでもカーツは成功の自信があった。


「第五防衛隊、迎撃準備完了しました。」

「第二防衛隊、迎撃準備完了しました。」

「エーテルストライク、発動可能です。」

「迎撃目標ヘカーテ、残り300秒後にドライブアウトします。」


出撃部隊3艦隊、総勢25機の大小交えた宇宙船が待ち構える。どの艦隊のどの宇宙船にも緊張が走る。


到着まで残り30秒、29、28……

船内にはカウントダウンの声だけが響く。大気のない宇宙空間では音がしない。

しかし残りカウントが10を切ると、エーテリオンドライブの着地時に発生する独特の空間振動が周囲に広がり、まるでガラスがひび割れるような音のように感じた。


「相変わらず、嫌な音だねコレ。」第二防衛隊のスパイダー戦闘機に載るマツヤがひとりごちる。実際には音ではないが、マツヤにとって生理的にキツイ感覚だった。


「空間そのものが鳴るから防ぎようがないんだよね」マツヤと同い年でよく一緒につるむトーリも同意を示す。二人は前回同様にスパイダー戦闘機に乗り、第三陣としてヘカーテを待ち構えていた。


「来るぞ、戦闘準備!」最年長でありチームリーダでもあるオーモリが喝を入れる。そしてスパイダー待機位置から約400km先に突然、大きな空間振動を伴いながら地球探索船ヘカーテが現れた。


「うわ、手が8本もある…」


共有モニタに映ったヘカーテの姿を見てマツヤの第一声がそれだった。

ヘラは円筒状の本体に4本の作業アームが花びらのように取り付いた形だった。しかしヘカーテは本体と思われる四角い形状の中心に、ヘラそのものを左右に取り付けた形状をしていた。


「ヘラが2つ合体したような宇宙船だな……。しかもその真ん中に強そうな本体か……。」トーリも同じような感想を述べる。


「中に何人パイロットがいるのかね。両肩に1人ずつ、真ん中に1人、最低でも3人か……」普段は無口のアツシマも、ヘラのパイロットには思う所があったせいか、ヘカーテを睨みながら会話に入ってくる。スパイダー搭乗員全員に、3ヶ月前のヘラの解体映像が蘇る。


「ドライブアウト完了、エーテル振動安定しました。目標ヘカーテ、射程内です。」

「エーテルストライク、発射」


カーツが司令官のみに許された引き金を引く。しかし司令室には何の音も振動もなく、ヘカーテにも何も生じなかった。


「目標ヘカーテにエーテルストライク命中を確認。なお目標はドライブ状態を解消し通常機動に移行中と思われます。」

「第五防衛隊、攻撃開始!」



ヘカーテはアツシマの推察とは異なり、4人のパイロットが搭載されていた。両肩の作業アーム司令室に1名ずつ、ヘカーテ中心に操縦者1名と戦闘指揮官1名が格納されており、作業アーム8機とアーム司令室2機が本体から分離可能な構造となっていた。


最大11機に分離して戦闘が可能であるため、柔軟性に富んでいるが、それを同時に統制を取るため、戦闘時は本体の戦闘指揮官が最上指令を司る。残り三人は本体損傷時の保険および探索作業時の交代要員であり、AIが状況を判断して4人の中から一人を上位を指定するシステムとなっていた。



ヘカーテは戦闘が生じる前提でエーテリオンドライブを行い、太陽系に到着後、索敵を開始した。すると周囲に20近くの人工構造物、おそらく宇宙船を確認した。コレは異常事態だと判断し、臨戦態勢にすぐさま移行する。そして同時にエーテル通信で星群本部に太陽系に無事到着した事と、到着の際に複数の宇宙船が自分に接近している事を伝達した。


「エーテル通信が反応しません」……ヘカーテの制御補助AIから回答が来る。ヘカーテは合計5本のエーテル振動子を内蔵しており、それぞれが独立して本部との通信を行う方式となっていた。その5つすべてから、反応なしとの回答が来たのである。しかし故障確認をしても、どこからも異常診断が出てこなかった。


ヘカーテは4人体制だが、お互いに相談する仕組みにはなっておらず、管制AIが状況ごとに上位指令者を決めて、そのパイロットが操作を行う形式だった。現在は戦闘指揮官がメインとなっており、臨戦態勢を続行しつつ、エーテル通信部の故障診断の継続と復旧をAIに要求した。


その時、レーザ式索敵センサが自分に向かってくる17機の宇宙船を完全に捉えた。それぞれ別の方角から向かってきており、識別により星群に無関係の機体であると診断された。最初からこちらが太陽系に到着する位置がわかっていて、取り囲んだ状態で待ち伏せしていたのだと理解する。ヘカーテは駆動ブースタを駆動し、火星方面に向かって移動を開始した。その方向には17機中、4機の宇宙船が視野に入っており、ヘカーテは進行方向に両肩を向けた。


両肩に着けられた4本ずつ8本の作業アームが展開し、超短パルスレーザ砲と複合レーザプラズマ砲を開いた。パルスレーザはヘラと同性能だが、発射本数はアームごと2倍と増えており、ほぼ前面180度の面制圧が可能となっていた。


またレーザプラズマ砲は連続照射式で、プラズマが物体に触れた瞬間に激しい反応を起こし爆発を促す攻撃兵器であった。射程はパルスレーザより長く、またプラズマがターゲットに当たった瞬間に発生する光を検出し、その位置に追加のレーザプラズマを撃ち込む。そのため一瞬でもプラズマが照射されれば、一気に大出力のプラズマが追撃される一撃必殺とも言える兵器だった。


ただしエネルギー効率があまり高くないため、比較的小型だったヘラには採用されず、大型レーザ核が搭載されたヘカーテの主砲に使われた。


まずいちばん近い距離に居た敵機に対し、レーザプラズマ砲を発射する。敵が旋回するより早くプラズマが当たった。そして敵機表面がプラズマ照射により融解しはじめたところに、さらにその点に向かって追加プラズマが照射され、一瞬で機体内部が完全に爆散した。


1機沈黙、残り16機。次に近い敵機を探しながらヘカーテは通信回復に努める。視野に入れていた自分に最も近い3機から、飛翔体が発射されるのを検知した。光速で発射されるレーザ兵器が主流になってから、実弾兵器はどれだけ高速に飛んでもレーザにより光速で検知されて迎撃されてしまうため、戦闘機同士の戦いではあまり採用されない武器となっていた。


ヘカーテはレーザプラズマを主砲としてだけではなく、対実弾兵器としても採用しており、次々に自分に向かってくるミサイルを検知してはプラズマで破壊していった。視野外にいた6機からもミサイルが発射されたが、アームを全方位に広げ、すべてプラズマで完璧に破壊した。


そのまま敵機の一台に接近し、レーザプラズマ砲にて撃墜。現在感知している敵機は残る15機。そのうち第一波として近づいてきたのは残り8機、まずはこれを殲滅する。


次に近づいてきた敵機はパルスレーザでこちらの接近に合わせて攻撃してきたが、遠距離のために充分な威力ではなく、アーム面に当たっても簡単に反射してダメージは確認されなかった。相手のレーザと同時に照射したプラズマが敵機に命中し、一瞬で爆散した。


残り7機、次は天頂部が最も近い敵だ……。ヘカーテはアームを自在に動かしながら、次の獲物に突進した。



「敵の能力はほぼ把握した。無人機とは言え、これ以上の損害はほぼ無意味だろう。第五防衛隊の戦闘機の撤退を命ずる」


司令本部からの命令が下る。



5台目の敵機をパルスレーザの面射撃で戦闘不能にしたヘカーテだが、残る5機が自分から距離を離し始めたのに気付く。一方で最初の攻撃に参加していなかった7機が逆に少しずつ近づいてくる。ヘカーテは逃げだした機体への深追いはやめ、次に自分に接近してくる機体に的を絞る事にした。また多方向からの同時攻撃に備え、アームを大きく広げ、迎撃体制を整えた。

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