表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
19/34

十九話 ヘラ VS 地球防衛軍(4)

ヘラはアームからカメラを起動させ、全周囲を確認していた。こちらに攻撃してきた先程の敵機とは別に、遠く離れた場所に複数の機体を確認していたが、多分あれがジャミングを継続しているのだろう。しかし一定の距離をおいており、ミサイルによる撃墜を図るか、近づいてレーザ照射を行うか、判断に迷う状態であった。


ただ現状は敵が敷いた状況に置かれている事もあり、一時離脱する事を選択した。


最優先はエーテル通信の回復と情報伝達だが、あの小型の戦闘機程度でエーテル振動を妨害できるとは思えず、となると今の位置では認識できない場所にその妨害源があると思われる。それを突き止められるかもしれないと考え、地球から一旦離れてディフェンスラインに設定した位置まで離脱する事にした。


分離していたアームを通常モードに戻そうとしたその時、一台のカメラがバーニア炎と思われる光点を6つ発見した。敵の第二波と判断したヘラは、アームの観察系を一時全開放し、索敵を開始する。しかしジャミングのせいで電磁波系統の情報はノイズばかりで役に立ちそうもなかった。アナログ式の圧力センサや共振感知のジャイロから、おおよそだが相手の移動速度が割り出されたが、自身の最高速度の方が速いと思われた。


新たな敵機は現時点では一方向からのみの接近で、他方向から近接する他の物体は確認できなかった。ただし敵の動きを見るに、こちらに近づきつつも先ほどと同様に多方向に分散するような軌道と思えた。


離脱するか、留まって迎撃するか、ヘラは一瞬悩んだが、第一波でこちらの戦力を見定めた上で放たれた第二波である事を踏まえ、離脱する事とした。最優先はエーテル通信の回復であり、この場に留まるより離脱した方が好転する可能性が高いはずだ。


アームを本体に合体させ、最高速度で離脱を開始する。あっという間に地球が遠ざかる。妨害攻撃をしていた敵機も引き離したため、各種センサのノイズが消え、一気に明確な情報が頭脳に入ってくる。しかしエーテル通信だけは一向に回復する気配がない。


自身に積まれたエーテル振動子は15時間前から常に星群に向けて空間振動を作用させている。しかし途中から、糸が切れた糸電話のように受信側とエーテル振動がつながらない。まさか星群側に何かあったのだろうか……


いやその可能性は非常に低い。やはり何かしらの方法でエーテル通信が阻害されているだけだろう。一刻も早く状況を脱出し、地球側にエーテル通信の妨害技術がある事だけでも伝えなければ……


そう考えた時に、ジャミング領域を抜けた事で機能が回復したセンサ類から警告が入る。進行方向以外の周囲を敵機に掌握されつつあり、敵機の速度はヘラの最高速度を上回っており、このままの進路は危険、という状況診断の結果が伝わってきた。


高速離脱中に敵機から意識を外してほんの僅か、時間にして2秒も無かったはずだが、なぜこんなに状況が変化した?


しかしヘラは焦る事はなく冷静に状況を分析する。敵機はこちらを上回る速度で私を囲むような軌道で分散、突進してくる。このままでは30秒以内で相手の包囲網が完成するであろう。あまり良くない展開だ。


敵機は自分を囲むために分散した、ならば各個撃破を行う。


瞬時にそう決断したヘラは、アームの姿勢制御用ブースタと本体の駆動ブースタを操作し、一番近い位置に居た敵機に狙いを定めて突進した。そのままアームを展開し、まず射程が一番長い追尾式ミサイル発射準備に移り、そのまま一気にミサイル射程圏内に入る。


相手の機体をモニタで確認すると、シールドとスラスターが一体化した葉っぱ形状のものが胴体周りに8枚付いていた。その葉っぱを自在に動かして3次元機動を行うのであろうが、しかし私を上回るこのスピードでは慣性を消しきれないのでは?と思う。


あ、とヘラが気付いた時には、その目標の敵機は本体から後ろを切り離していた。そうか、直進用の補助ブースタを使って私に接近し、近づいたら本体の葉っぱ型ブースタを使って動くのか。


他の敵機の位置情報を確認すると、すでに当初の進行方向まで敵機に回り込まれつつあった。まぁいい。1対1の状況を作りつつ、眼の前の状況を処理するだけだ。ミサイルの射程に入った。攻撃開始。


そしてミサイルに続くようにそのまま眼の前の敵機に接近しつつ、アームを展開し攻撃体制を作る。また同時に妨害電波や波形吸収式の粉粒体散布を辺りにばら撒く。追尾式ミサイルは敵機を捉えている。


しかしミサイルが着弾予想していた想定値をはるかに超える位置と向きに敵機が三次元駆動を行った。敵機の機動性能が計算できない事態に陥ったが、ヘラはまったく驚かずに戦闘プランを修正していった。


ミサイル全弾不発、目標を完全にロスト。敵機の有する挙動は、現時点の追尾システムおよび軌道計算では把握する事は不可能と判断。敵機を動線で捉えず、面全体で捉えて攻撃するように戦闘方針を修正。


ヘラは冷静にプランを変更し、拡散型バードショットによる実弾兵器と超短パルスレーザの面射撃で、恐るべき機動力を持った敵機に向かっていった。


敵機はミサイルを交わした後はまっすぐこちらに向かってくる。先程から様々なセンサで相手の武器を探っているが、ミサイルのような実弾兵器は見当たらず、敵機の先端中央にレーザ砲門らしきものが一箇所のみだけである。レーザ砲は相手の向きに射撃方向を合わせる必要があるため、高速の3次元機動を行いながら攻撃時だけ相手に向きを合わせるのが困難という欠点があった。


ヘラは相手の挙動を常に記録しながら、バードショットを放つ。この弾はショットガンのような進行方向のベクトルを持ちながら拡散されるのではなく、狙った地点に到着した瞬間、進行方向のベクトルをほぼゼロにして周囲に炸裂する。そのため空間全体を均等に攻撃できる上、非常に命中率の高い実弾兵器であった。


しかし敵機はバードショットの炸裂範囲を超える高速回避を行い、無傷でバードショットの弾幕壁を乗り越えられてしまった。その挙動を記録しながら、ヘラはパルスレーザの準備を行いつつ、相手の攻撃体勢を確認していた。どうやら当初の観察どおり、実弾兵器は装備されていないようだった。


レーザ兵器はエネルギーや射程が大きくなるほど、筐体も大きくなる。ヘラの長いアームも、そのアーム中央に装備されたレーザ発振装置が巨大である事がその理由の一つであった。


敵機の大きさは自分の1/4程度で、本体部分の大きさは更に小さい。レーザの打ち合いになった場合、射程でも威力でも完全にこちらに分があるはずだった。


さらに星群は、レーザを面で当てる際に、拡散式ではなく超高速で面を走査させる事で、高効率で均一な面照射を可能としていた。これにより、線で発射されるレーザをあたかも面で照射し、さらにレーザ着弾時に強力な衝撃波を起こすため、パルスレーザが一発当たっただけでも大きな破壊力を生み出していた。


ヘラはレーザ兵器であれば、射程、威力、そして制圧力すべて自分の方が上、そして対レーザ防御も自分が上と判断した。レーザ射程範囲に近づいてくる敵機に対し4本のアームを向けて全レーザ砲門を開放し、今まで観察してきた敵の有する三次元駆動でも逃げられない大規模な範囲にレーザ照射を定めた。


ところが敵機は、ヘラのレーザ射程範囲に入る前にこちらに向きを一瞬だけ合わせてレーザ攻撃を行ってきた。ヘラのアーム表面は強力な対プラズマシールドが施されているが、そもそも射程を越えたレーザなど減衰されて威力はほとんど期待できない。敵のレーザがアームに当たる事は回避できないが、被害は軽微と予想……そう判断したヘラだが、アーム表面にあたった敵のレーザは内部まで完全に貫通してしまった。


想定外の損傷。しかも敵機のレーザは長射程だけでなく長時間照射型だったようで、攻撃を受けたアームは内部中央の駆動部までダメージを負ってしまった。ヘラはそれでも驚く事も慌てる事もなく、冷静に誘爆の恐れがある燃料ラインを閉めて内部出血を止める。しかしこれでアームが一つ、完全に死んでしまった。敵機は常にこちらのレーザ砲が届かない距離を維持しており、今度はバードショットとミサイルの複合攻撃を行うが、難なく交わされてしまった。


ヘラに焦りはなかったが、立て続けに起きる想定外の事に、解決策が見いだせなくなっていった。実弾兵器は回避され、レーザ砲は自分の射程より長くて強いため、有効な攻撃方法がないと判断。


ただし敵機の攻撃は今の所レーザ砲のみであり、機首をこちらに向けた状態でないと発射できない。ならば壊れたアームを分離し、残る3つのアームで牽制を続けて相手の姿勢を崩しながら近接して面照射で捉えるというプランを立案し実行しようとした。


が、周囲に居た他の5機からのレーザ攻撃が一瞬早くアームに到達し、周囲に展開していたアームは全て機能を停止してしまった。更に本体ブースター部までも最初に相対していた敵機に撃ち抜かれ、ヘラは機動力の大部分を失ってしまった。


相次ぐ被弾に対して自己分析を行った結果、戦闘不能と判断せざるを得ず、またエーテル通信も回復しない今、自分に残された道は敵に情報を渡さないために自爆するのみと結論を出した。


最終目的である自爆システムは、通常の動力系や命令司令系とは別に独立しており、本体やアーム部に格納されているエーテル受信子がヘラの直接脳波を受信するようになっていた。そのため本体がどれだけダメージを受けていても自爆命令の実行には何の問題ないシステムになっていた。


しかしヘラが自爆命令を指示しても、なぜかすべての自爆用受信素子は反応を示さなかった。ヘラは星群への長距離エーテル通信だけでなく、ヘラ内部に構築されていた短距離エーテル振動も動作停止している事に気付いた。万策尽きたヘラはここに来て初めて、諦めるという行動を選んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ