十六話 ヘラ VS 地球防衛軍(1)
その会議室には、カムラや軍官シュマルの他に6名が集まっていた。フザカも居たが、このメンバーの中では一番下の位であり、普段と異なり背中を少し丸めていた。そしてメンバーの中で最高位の人間がフザカに問いかけていた。
「フザカ君、ヘラからの通信は未だに無いのかね?」
「は、はい。あの地球からの映像撮影中に消失した時から本日に至るまで、ヘラからエーテル通信は途絶えたままです。」
「しかし消失した瞬間まで、ヘラから届いた映像や各データでは、本体の異常や外部からの攻撃に繋がる情報は無かったのだろう?」
「はい、ヘラと同じ制御を使っている惑星開拓機に、外から様々な攻撃を与えた場合の反応をテストしておりますが、最速であるパルスレーザ照射でも、開拓機はその衝撃や照度、外圧変化を感知しています。調査部も同意見なのですが、ヘラからのエーテル通信が途絶えたのは、ヘラが攻撃を受けたのではなく、通信そのものが喪失された確率が高いと、私も考えております。」
それを聞いていたカムラも顎に手を当てながら考えを述べる。
「……ヘラはただの探索機ではない。戦闘地域に単騎で情報を集められる性能を持たせている。もし攻撃を受けたとしても、無反応で破壊される事は無いはずだ。」
「はい、どちらにせよヘラは有りもしない地球反乱軍から攻撃を受けて破壊されるというシナリオでしたので、最終的に自爆する予定でした。もしかするとパイロットが暴走して予定より早く自爆した可能性もありえます。」
◇
その会議より遡ること50日前の地球衛星軌道付近では、600年振りの重力影響下での戦闘が行われていた。
『敵側の護衛機ですが、いまだに4機が健在。だめです。ジャミングも効果ありません。』
『オルキス戦闘機、最後の一機が撃墜されました。これで攻撃部隊の10機すべてが破壊されました。』
次々に報告される味方側の損害状況に、地球防衛軍の第一艦隊司令ユト・ナーは唸り声をあげた。相手は探索を目的とした宇宙船であって、ここまで強力な武装だと思っていなかったのだ。
可能な限り、相手を破壊せずに無力化するために、相手のセンサを撹乱しながら取り付いて機能損傷させる無人戦闘機「オルキス」を派遣したが、それらすべてが破壊されてしまった。
「過酷な惑星上での破壊作業を応用しているのでしょう。敵の護衛機に備えられた超短パルスレーザは、ほぼ減衰せず高いエネルギー密度で照射されています。オルキスのタングステン結晶皮膜を貫通していることが確認できました。」
同じ司令室にいる技術士管が、戦闘経緯から分析された結果を報告してくる。
「オルキスには対レーザ用の遮熱遮光防壁があるはずだが……」
「防壁ですが最初にパルスレーザを受けた面は結晶変化しておりません。しかしオルキス内部に激しい圧力上昇を感知しています。つまり防壁が想定していたエネルギー密度を相当に上回っていたため、防壁を突き抜けたと思われます」
「そうか、我が隊の見通しが甘かったか……」
絶対とは言えないものの、戦闘機オルキスに相当の自信を持っていたユト・ナーにとって眼の前で起こった全滅は信じがたいものだった。しかし部隊を預かる身としては、現実を受け入れ、すぐに対処しなければならない。
「残念ながら、現時点では捕獲作戦は失敗と考えます。この後の判断をお願い致します」
「仕方ない、相手の攻撃力が私の予想以上だった。それだけだ。ただ司令部の想定以上ではなかった。本作戦は一時停止し、司令部および第二防衛隊に状況を伝達せよ」
「了解いたしました。」
主観を入れず、淡々と状況報告と支持された命令実行を行う副官だったが、行動が終わった後に珍しく、主観の入った感想を述べた。
「敵側の戦闘能力については、今のところは諜報部および作戦技術部の想定範囲内でした。ただあの探索船が”有人”であった事は私は予想外でした。正直、今も信じられません」




