表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
11/34

十一話 宣戦布告

いろいろ考えるうちに、退勤時間となった。後輩のアオリがお先に失礼しますと挨拶をしながら更衣室に歩いていく。


自分はこの後セントラルエリアに向かい、リングのデータ提出と定期報告が待っている。軽くため息をつきながら着替えをし、セントラルエリアに繋がる地下鉄に乗り込んだ。


「やあ、久しぶり。そしてお疲れ様」


地下鉄の中で偶然、自身の恩師であるカムラと出会った。カムラはちょうど50歳になる教授で、自分より二回り年上になる父親のような存在である。初めて会った時からカムラは著名な教授だったが、現在はテラマテリアルの物性研究を掲げるアカデミー最高責任者であった。カムラの妻であるエミーもまた研究者で、二人揃って学会に出席するオシドリ夫婦としても有名だった。


「カムラ教授、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。今日は奥様はご一緒ではないんですね?」

「ああ、今日はヘラについての調査報告会に呼ばれていて、これから残業なのさ。君も一緒だろう?君は確かヘラの映像公開に出席していたはずだし」

「はい、これから私も報告会です。奥様がいらっしゃらないのが残念ですが、ご同行させて下さい」

「ああ、エミーもキミに逢えなくて残念がるだろう。」


タナーはまだ聴講生だったころ、すでにカムラと結婚していたエミーに研究者としての薫陶を受けており、実の娘のように可愛がってもらっていた。両親が居ない自分にとって、カムラ夫婦は恩師でもあり親にも似た想いを感じており、また事情を知るカムラもタナーを様々な面でサポートしていた。


生体研究に進むと決めた際にも、カムラが身元引受人として全面的に支援してくれた事を受け、恩返しすべく一心不乱に今まで頑張ってきたと自分でも感じていた。


「ところでタナー、研究者としての君は心配してないけど、20代の女性としての君はちょっと心配なんだが、私生活はどうなんだい?」

「あー、相変わらずです」


ここ数年、会うたびに恋人はいるのか?結婚する気があるのか?と遠回しに聞いて来るカムラ夫妻であった。学生時代は一緒に勉強する程度のボーイフレンドは居たが、受講生になってからは研究一筋のため、恋人どころか親しい男友達とも無縁だった。


10代の頃は髪の毛を伸ばして服装もいろいろ挑戦していたが、研究者になってからは手間がかからないようにただ髪を束ねたヘアスタイルになり、服装も白衣に合わせられる事を基準に選ぶようになっていた。


カムラ夫婦は研究室でお互い知り合って意気投合し、すぐに結婚したというので、自分も同じかもと多少は思った時期もあったが、今の所は気配なしである。



談話をしながらカムラとタナーはセントラルエリアで指定された会議室に到着した。部屋の中はすでに100名近くが集合しており、至るところでヘラ消失について喧々諤々たる様相だった。


カムラは用意されていた席に案内されて行き、タナーもとりあえず丹下を探す事とした。しかし会議室に来ていた中に丹下は居ないようだった。なんとなく肩透かしのような気持ちになりつつ、タナーもまた用意されていた席に座った。


定刻になり、見事な髭を蓄えた恰幅の良い40歳くらいの男が、会議室壇上の中央に立った。


「みなさん、ご多忙の中お集まりいただき、ありがとうございます。私は本会議の司会進行を務めさせていただきます宇宙軍の未開拓地先行部隊長官シュマル、でございます。」


高級軍人らしく軍服を着こなし、大きく通りの良い声で宣誓をするシュマルという男。タナーはあまり軍に詳しくないが、シュマルの名前と噂だけは知っていた。超がつくほどの積極的な行動派と褒めるべきか、拙速な指揮官というか、褒める人が5人いれば貶す人が4人いるような評価の人間だった。


しかしなぜ調査報告会を軍が仕切るのだろうか?そんな疑問は会が進んで行くうちに明らかになった。そしてタナーはまた愕然とする。そのショックから立ち直れないまま、会は終わりを告げられた。


まさかこんな事態になるとは、タナーも予想外であり、しかしそう遠くない未来に人間同士の争いが起こることは予想できた。



調査報告会から3日後、政府および宇宙軍の共同発表が星群に伝達された。


地球探索船ヘラが地球到達に成功した事。

しかし太陽系に巣食うテロリストによってヘラが破壊されたという経緯。


太陽系に巣食うテロリストをこれ以降、地球反乱軍ERと命名すること。

ERは地球を拠点として太陽系のエーテル発信基地である火星まで支配しようとしていること。


アンタイル星群はこのERを殲滅し、太陽系を取り戻すことを目的として進軍を近日開始すること。

また星群の中にER工作員として活動し、セントラルエリア通信障害を引き起こした複数名を指名手配したこと。



これらが矢継ぎ早に公表され、星群の各所で宇宙軍バンザイ!地球を我が手に!というアジテーションがこれ見よがしに各メディアに踊り始めた。あまりに急な、それでいて用意周到すぎる地球進出にタナーは目眩を覚えた。ただ幸いなのか分からないが、ER工作員として6人の名前と顔が公開されたが、そこに丹下は居なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ