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宇宙一小さな宇宙戦争  作者: みなぎ
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十話 研究所のタナー(1)

何日かの調査に協力した後、久しぶりに自身の研究所に出勤したタナーは、女子更衣室で後輩のアオリに、自分の手首に取り付けられた秘密保守契約の証であるリングを見せながら尋ねた。

「これって会話まで録音されるのかしら?」


ショートカットで女性用の防寒コートを脱いでいる最中だったアオリが答える。


「あー、NDリングですね。えっと、確かリング自体に録音機能はないんですが、そのリングをこの建物が検知すると、建物につけられたレコーダがリング周辺の情報を記録するはずです。あ、でも更衣室やトイレはどうだったかな?調べておきますね」


予想以上にプライバシーが無いことに驚いたタナーだが、しかし今回生じた事故を考えると致し方ないかと諦めた。


アオリは自分と同じ生体テラマテリアルの研究者だが、特に人体との融合を専門としているだけあり、このリングのような人間に付帯するタイプの装備に特に詳しい。


「アオリってもしかしてこのリングも開発したことある?」

「いえ、私の先生が担当でした。なのでセミナーで教えてもらったんです。」


なるほど。道理で詳しいわけだ。もしかするとリングを外せたりも出来そうと思ったが、それをするとかえって厄介になりそうなので諦める。


「じゃあしばらく私の側にいない方が良いかもね。全部録画されちゃう」

「別に良いですよ、私ちゃんと仕事してますから。逆にどれだけ真面目に仕事してるか見てもらうチャンスかも」


明るいユーモアを返してくれる可愛い後輩に目を細めつつ、タナーも仕事の準備を進める。しかしこんなリングを着けられた状態だと、例の面接は受けられそうにない。


今回のアクシデントがある程度解決されたらリングを外すとフザカか言っていたが、彼自身もリングを着けていたし、犯人やその手段の目処が着くのだろうか。いや、そもそも丹下が容疑者として上がっているのだろうか。


彼はそもそも辞めると言っていたが、それは研究所を辞めるという事なのだろうか。そうしたら容疑者として目をつけられるだけだろうに。そもそもこのリングを含め、星群からはとても逃げ切れないだろうに。


いや、会議室のエーテルを切ってしまう方法を持っているのだ。きっと何かこのリングにも対策は持っているのだろう……



タナーが務める生体テラマテリアル研究所はイオタ2惑星地表にある人工都市の一角にあり、建造されてすでに40年経っていた。惑星イオタ2は地表温度は最高でも10度だが最低が-200度となり、また大気成分の関係上、惑星表面は雹と石が混じった砂嵐が吹き荒れていた。そのため建造物は地表はせいぜい1階建てで、9割以上が地下に広がっていた。


それでも研究を行うには適した条件が多く、研究都市と名付けられるほど数多くの研究機関が建設されていた。研究所同士は地下トンネルで接続され、地表の建物は外からの資材搬入がほとんどだった。


丹下が所属する衝撃破砕研究所は珍しく地表に実験室を持つが、さすがに汚れや粉塵の発生と切り離せない実験なので仕方ない所ではある。あの会議室の一件以来、彼とは会っていないが、会わない方がお互いに良さそうだと考えていた。彼の言う通りであれば、面接官とやらが向こうから会いに来てくれるだろうし、その時に確認すればいいだろう。それより自分のプライバシーの方が今は問題だ。



そしてヘラによる地球監視については、当初の予定通り一旦は地球の映像が公開されたらしい。ただ現在、不慮の事故があり原因追求していると報道されていたはずだ。


地球到達に向けられた探索船2号機ヘカーテは、ヘラの後を追うように約3ヶ月ほど遅れて出発している。これは基本的に遠距離に渡るプロジェクトの場合、故障対策や測定の重複を目的として2台1組で基本的に運営されるためである。


ヘカーテについては現状通信も状態も問題なしと回答が返っており、今も順調に地球に向かって進行しているはずだ。ただ、丹下が言うように、このままではヘカーテも地球側に追い返されてしまうのだろうが…… 


上層部はヘカーテを使ってヘラの状況確認と地球探索を継続する計画だろうが、多分ヘラと同じかそれ以上に衝撃的な事がヘカーテに起きるだろう。何とかそれを止められないだろうか……


そこでふと考えを改める。なぜ私がヘカーテを守らなければならないのだろうか?


そもそも地球に戻りたい、という考えやこの活動はどこから生まれてきた?いや違う、アルタイル星群は地球を支配したいのだ。この宇宙を旅した中で手に入れた技術を使って地球に戻り、地球と太陽系を自分たちのものとしたいのだ。


結局人間の大部分は、この窮屈な人工皮膚といえる宇宙服を脱ぎ去り、窮屈なシェルタとも言える人工空間から抜け出し、適度な重力を受けて大地に足を降ろし、青い空を見上げたいのだ。何百年にも渡る宇宙を旅してきた自分たちが故郷を忘れることが出来なかった。故郷をなぜ追われたのか、都合よく忘れて……いや、なかったことにしているのだ。


それをルイ議長ら与党政権が謳い、プロパガンダを活用して、第二の地球ではなく母なる地球に目を向けさせたのだ。


あの地球の映像は衝撃的だった。それを公開したのは群集心理に火を着けたかったのだ。現に世間一般は今はヘラの事故よりもヘカーテの情報を待ち望んでいる。そして地球に戻るために議会も研究所も大きく動き出している。


丹下は言った。「地球は戻ってくるのを許さない」と。だめだ。このままでは地球と戦争になる。


いや、地球が攻撃した確証はなく、星群議会もヘラが地球からの攻撃によってロストしたとは考えていないようだ。しかしヘカーテももし同じようにロストしたら、議会は地球に原因があり、場合によっては地球側が攻撃したと発表するかもしれない。


まだヘカーテがどうなるかわからないが、無事に地球観測を実行する事は敵わないだろう。その時にあの政府や上層部は計画を諦めるだろうか。多分、答えはノーだ。


では私の立ち位置は?丹下が恨みがあると言ったのはわかる。そこは自分も否定できない。私一人の力では多分何も出来ない。情報が足りない。

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