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4-6.神様一行


 テイラーが森に足しげく通うようになったのはそれからのことになる。


「くそー、今日こそは討ち取ってやるからな! 覚悟しやがれ!」


 いつか竜騎士となる自分が、いつまでもスライム一匹に手こずっているわけにはいかない。そんな執念のもと、シュビと木刀を差し向け再戦を挑んでは、ぽよぽよとマリみたいに弾むそれが嬉しそうに出迎える。あくまで傷つけられたプライドを取り戻すための日々が始まった。


「――ところで最近、テイラーは何をしているんだ? 昼になると姿が見えないようだが?」

「森に行っているみたいですよ」

「なに? なぜ止めない?」

「止めたって聞かないでしょう。俺はいつか竜騎士になるんだーって、あの子そればっかりなんですから」

「まったく、あのバカは」

「あなたがちゃんと言い聞かせないからですよ。いい加減、あの子に剣術でも教えてあげたらどうですか。いつまでも子供じゃないんですから」

「むぅ」

「もう、なんだかんだ言って甘いんですから」


 ギルドマスターである父に、影で母から呈された苦言も追い風になる。確かに言って聞かないならば、いっそ身を守る術を教えることも手段か。


「テイラー、お前に剣を教えてやる。ついてこい」


 そんな思わぬ父からの申し出もあって、テイラーの剣の腕はみるみるうちに上達していった。そんな日々のなかで、テイラーとスライムの関係も変わっていた。


「なぁポヨ。もしかしておまえ、本当にただのスライムじゃないのか?」

「ぽよ?」


 最初は突出して耐久値が高く、知能も優れた個体なのかと思っていたが冷静に考えておかしな話だ。剣も打撃も、魔法もこうも効かないスライムなんているはずがない。じゃあいったい、これは何なのか。答えも見つからないまま、木を背もたれに地べたに座り、名前まで付けてしまった頭の上の友人にそう話しかけたときだった。


「あーっ!」


 急にしたそんな甲高い声に、驚いたテイラーがビクンと跳ねたのは。咄嗟に剣を取って構え、ポヨもテイラーを庇うようにして前へ出る。そこにいたのは見知らぬ人物だった。まるで楽しそうなアトラクションを見つけて興奮する子どもみたいに、全体的に白い出で立ちの女性がこちらを指さしている。


「ねぇねぇ、あれじゃない!? あれだよね、きっと!?」


 そして彼女がちょいちょい手招きすると、さらに森の奥から何者かが続いた。1人――いや、2人だ。


「ったく分かったから。いちいちはしゃぐんじゃねぇよ、ガキみたくみっともねー」

「いやしかし、確かにこの気配は――! おおっ!?」


 煩わしそうに頭をがりがりとかきながら長身で黒髪の男と、それに肩車される形で女の子が足をばたつかせている。するとポヨを発見した途端に、少女の方がその円らな瞳を輝かせて。


「当たりじゃ、久しいなプルガトリオ! 何をボサッとしておる、はよ下ろさんかバカ者!」

「いてぇっ!?」


 ぽこっと底の抜けたようなゲンコツを食らわせ、よろめいた男の肩車から強引に飛び降りる。


「ぽよ~!」


 駆け寄ってくる少女の呼びかけに応えるように、ポヨもその懐に飛び込んで。


「無事じゃったか―! 心配したぞ、お主もこっちに来ておったのじゃなー!」

「ぽよー、ぽよーっ!」


 仲睦まじそうにじゃれ合う姿に、テイラーはいまいち状況を掴めなかった。


「やぁ、初めましてだね!」


 するといつの間にか傍らにいた女の方が、手をあげ気さくな感じに声をかけてきて。


「私はアリア! たぶんキミがあの子を保護してくれてたんだよね!」

「え……?」

「ちょっとだけ事情とか聞かせてもらえると嬉しいんだけど、いいかな?」


 そう言ってにっこりと、お日さまみたいに彼女は笑いかけるのだった。



 白い女はアリア、黒い男はウィレク。片や快活で、片や陰気と色合いだけでなく振舞いも正反対な2人に加えて、もう一人。やたらジジ臭い話し方で、しかも彼らのリーダーらしい修道女姿の女の子はノアと名乗った。


 見るからに怪しくてうさん臭さ満点の3人組だが、とりあえず話を聞くことにしたのはポヨの嬉しそうな反応を見てのことになる。少なくともノアとポヨが既知の仲というのは本当らしかったから。そして明かされたのは、ポヨの衝撃の正体だった。


「――はぁっ、神様⁉」

「うん、そうなんだよね。なかなか信じられないと思うけど」


 素っ頓狂な声をあげるテイラーに、アリアが苦笑いでそう応じて。


「ついでに、あのお子さまがこの世界の全能神なんだとよ」


 悪だくみの顔で親指をくいっと、ついででは済まない追加情報をしれっと投下されれば、もう理解なんて追いつかなかった。言葉もなく傍らを見やれば。


「ほれポヨ、行くぞ! それぃーっ!」

「ぽよ~!」


 その全能神とやらがポヨを空に放りあげて遊んでいるし。


「冗談だろ?」

「冗談なら良かったんだけどねぇ」

「まったくな」


 これで精一杯、ほかに説明のしようもないのだとアリアの笑顔も窮状を訴えていた。


「まぁいろんなツッコミはあるだろうけど、とりあえずパーッと話しちゃうとね」


 そんな前置きをしてから、アリアは指で中空に輪を描きながら説明する。


 「なんか神様の世界にも私たちでいう学校みたいなところがあるんだって。そこでノアとプル……あー本当はなんていうんだっけ? まいいや、あのポヨって子が同期だったみたいなんだ。友達で、仲も良かったんだって。それであの子はいわゆる土地神ってやつなんだけど、キミがたぶんその『依代』なんだ」

「よりしろ……?」

「まぁ拠り所みたいな感じかな? キミがいるおかげで、あの子はこの世界で存在を保ててるみたいな感じなんだけど」

「……なんかよく分かんねぇな」

「まぁそこら辺の理屈はあんまり気にしなくてもいいんだけどね」


 ケラケラと笑いながら、励ますようにアリアから肩をポンポンと叩かれる。なんか子ども扱いされてるみたいで、少し仏頂面となるテイラーだった。


「それで結局、おまえたちはここに何しにきたんだよ。ポヨを連れて行くのか?」

「いや、それはないと思うよ。土地神をその土地から引き離すと、それはそれで問題あったりするし。私たちが来たのは、つまりは立ち入り調査かな?」

「立ち入り調査?」

「いろいろあるんだよ。土地神がちゃんとその土地に馴染めてるかなーとか、依代とうまくやっていけてるかなーとか。あとは病気にかかってないかとかね」

「つまり俺たちは神とか精霊とか、そういうスピリチュアルな連中専門の児童相談センターみたいなもんだ」


 ウィレクからそんな補足を受けてようやく、彼らの素性が少しは知れたような気がした。


「それでなんだけど、キミの住んでるところってここから近いのかな? いろいろ説明しないとだから、村長さんとか区長さんとかいるなら案内を頼みたいなって」

「俺の父親がギルドマスターだけど」

「えっ、そうなの⁉ やったー、それなら話が早いや!」


 こうして間もなく、スライムみたいな土地神の存在は街人の誰もが知るところとなるのだった。

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