4-1.要塞ギルド
それはとある山奥に切り開かれた、冒険者ギルドを拠点とする小さな市街地でのことだ。
「おい急げ、ありったけの武器と火薬を持ってこいッ!」
「ウィザードや魔剣士は何人いる!? この際、冒険者じゃなくてもいい! 全員の力を合わせるんだ!」
「少しでも遠距離系の魔法を使える奴はここに集まるように報せてくれー! もう時間がないぞ!」
いつもは人通りと活気で賑わっている街の広場に、緊迫した物々しい声が駆け巡っていた。広場にはすでに20人あまりの冒険者たちが、各々の得物や杖を手に待機している。
もうおしまいだと道端に座り込み、頭を抱えている商人。赤ん坊の泣き声。不安げな表情をしている我が子の問いかけに、髪を梳いてやりながら優しく答える母親。街なかにはあらゆる声が溢れ、そのどれもが今が平時でないことを物語っていた。
そんな中、ひときわ目立つ重装備に身を包んだ冒険者は、現場の指揮にあたるギルドマスターである。地に大剣を突き刺す形で、彼がその鋭い眼光を向けているのは街の上空だった。雲1つないこの日は快晴で、陽光もしかと届いている。しかし、そこにあるのは澄みきった空の蒼などではない。何故なら――。
そのときちょうど、外側で風でも吹いたか。ポヨンと遠くの上空が弾み、揺れる。まるでスプーンでプリンを突いたときみたいに、プルプルと。
――そう何故なら、そこに薄く紅かかった半透明の被膜のようなものが存在しているからだ。そして何も、その被膜が在るのは空だけではない。薄く伸びたそれはドーム状に広がり、市街全体を包み込むように完全に覆ってしまっていた。逃げ場のないその事実こそが、現状の混乱と人々が恐慌に陥っている元凶である。
「まさか、こんな光景を目にする日が来ようとはな」
冗談みたいな現実を、彼は努めて冷静な視点から俯瞰する。最初は何の冗談かと思ったが、今となっては薄気味悪さすら覚えた。アメーバは細菌を包み込むようにして自らの内側に捕らえ、捕食するというが。いま自分たちの置かれている状況こそ、それを彷彿とさせるものに他ならないのだから。
現にこうしている今も、被膜の覆う範囲は徐々に狭まりその分だけ厚みも増していっている。事態は一刻を争うものだった。
「準備を急げ、この状況を打破するには一点突破しかないぞ!」
彼の下す号令のもと、続々と戦力が広場に集結していく。
その一方で――。
「…………」
傍らの路地にうずくまり、その様子から目を背ける1人の青年がいた。




