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3-11.決闘


 その夜、リィンはもう何度目ともしれない屋敷への潜入を試みていた。人型ロイドの背に乗って夜の森を迅速に移動し、駆け抜ける。それができるのはそこがよく知っている場所だからだ。いま自分がどの辺りにいるのかは感覚的に分かる。


 アドラー邸の有する広い敷地内は、リィンにとっては森も含めて庭みたいなものだった。なにせ此処はロイドの動作テスト行うために、アウラと3人でたくさん出かけた場所だから。それこそ毎日のように、来る日も、来る日も。


 お昼時にはバルターがお弁当ボックスを届けてくれて、よくそれをみんなで囲んで食べた。まるで本当の家族みたいだと、今でもそう思える時間が、思い出がこの森の至る場所に溢れていた。


 屋敷への侵入にしたって今さらのことである。もう何年も住んでいたのだ。いくら広くたって、間取りも隅々まで知っている。傭兵とククルゥがいなくなれば、警備の目を気にする必要もない。バルターや他の使用人たちにしろ、リィンとアイリの目論見を知りながら黙認してくれているのだから。


 自分の家からモノを盗み出さなければいけないなんて、はなはだおかしな気分ではあるけれど。ともあれ、残る障害はあと1人だけだ。ひっそりと静まり返ったギャラリーに忍び込んだところでパッと明かりが全灯し、中央の開けた室内が白く照らし出される。


 驚きはしない。彼女が待ち伏せているはずだと、事前にククルゥがそう教えてくれていたから。


「なぁんだ、やっぱりあなただったのね。小娘」


 腕組みをし、意地の悪い笑みを浮かべるデニスがそこにいた。侵入者を駆逐すべく、彼女の背後に控えていた騎士甲冑がズンとまえに踏み出して。



 アウラと過ごした大切な場所を守りたいリィンと、散々手を焼かされたコソ泥を駆除すべく直々に自警し、待ち構えていたデニス。互いに出し合った自製ロイドを介して2人がぶつかり合っている。半ば予定調和的に始まった戦闘だが、その様相を外から注視する者たちがいた。


「それで、そろそろ分かるように説明してもらいたいのだが」


 昇った木のうえで、アイリがそんな疑問を投げかけている。それは落ちないように心配してか腰にしっかり腕を回し、自分をぎゅっと抱っこしている彼女に向けてのものだった。


「いったいここからどうするつもりなんだ?」


 すると見上げた頭上から返ってきたのは人当たりの良さそうなにっこり笑顔である。ククルゥの姿をしたそれは、続けてよしよし頭を撫でてきた。大丈夫だよ心配しないでと、まるで小さな子どもをあやすみたいな優しい手つきで。


「むぅ……」


 結局、満足のいく答えを得られず、ついでに慣れない扱いで小さく唸るアイリだった。ついさっきのことだ。


『では私もちょっと行ってきますので、アイリさんはここで待っていてください。危険はないと思いますが一応、この子を付けておきますね』


 そんなことを言い残して、ククルゥとリィンがこの場を離れて行ってしまったのは。それで今、こんな状況である。目と鼻の先でドンパチ始まっているのに、自分だけこんなところでお留守番だ。それも抱っこ係まで付けられてとあっては面白くもない。自分だって当事者なのに、この扱いはいくらなんでも不当ではなかろうか。言ったって始まらないが。


「やめてくれ、子ども扱いされるのは嫌いなんだ。あっ、こら」


 抵抗するほどに可愛さ倍増と、ほっぺすりすりまでされてしまうアイリなのだった。そうこうしている間に、ロイド同士の衝突は次第にその激しさを増していき――。



 拮抗していたかに見えた戦局が、徐々に傾き始めている。先にその兆候を見て取ったのはデニスの方だった。しばらく激しい攻防が続いていたが、打ち合いの度に見せる隙がリィン側の方が少しずつ大きくなってきたのだ。


「はっ、なに? まさかこの程度の力で私に対抗できると思ってたわけ?」


 デニスは冷笑する。思いのほか長引きそうだったので、仕方なく魔力の出力を少しだけあげてみたのだ。そしたら、途端にこれである。ものの数撃、追加で撃ちこんだだけで付いてこられなくなってしまったようだ。自分はまだまだ余力を残し、全力には程遠いというのに。


「大丈夫? 随分と苦しそうだけど、もしかして魔力切れも近いのかしら?」


 これでは拍子抜けもいいところだった。これみよがしにやれやれと首を横に振って見せるが、リィンにはもう言い返す気力も残っていないらしい。表情を苦悶に歪め、荒い呼吸を繰り返すばかりだった。だが気に食わないのは、まだ眼が死んでいないことだ。この後に及んで勝機があるとでも思っているのか、敵意に満ちた瞳でリィンはこちらを睨んできている。


「いいわよ、なら思い知らせてあげる」


 すると小さな声でそう呟き、デニスは暗い笑みを忍ばせる。魔動機ロイドは永年使い込んだものほどよく術者の思念を伝え、それこそ手足のように自在に操作することが可能なだ。ともすればあの人型はリィンにとって、今日まで一生懸命育ててきた自慢の一品オモチャなのだろう。


 それを術式の施してある魔石ごと完膚なきまでに壊してあげたら、さてどんな表情をするのか。茫然自失となって、その場に泣き崩れる。そんな姿が目に浮べば、もう楽しみで仕方がなかった。


「後悔させてあげるわ、この私に立てついたことをね」


 あとはゆっくり追い詰めて、じわじわ弱らせていくだけの簡単な作業。そして、待ちわびたときはやってくる。これみよがしに作ってやった隙をチャンスと見たか、すかさず獲物が飛びついてきたのを見計らって。


「掛かったわねええええーっ!!!!」


 高笑いとともにカウンター、ゴシャリと何かがひしゃげるような鈍い物音が飛び散る。そして――。


「さて、掛かったのはどちらでしょうね?」


 端から戦況を見守っていたククルゥの独り言ちに、ついぞ彼女は気づかないのだった。

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