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カルミル村編 第六話 赤龍

「グァァァアアアアア!!!!」

 突然、聞いたこともないものの叫び声が聞こえる。


「総員!!戦闘準備!!成人してない者は家の中に隠れるかレイドのとこに行け!!」


 なんだなんだ。戦闘?山賊とか……?


 急いで階段を降りて外に出る。

 こんな天気悪かったっけ……。集落全体が日陰になっている。それに気づき、空を見るとベージュ色のゴツゴツした何かで視界が埋まる。

 これは……。

 外は避難誘導の声だったり情報共有の声が聞こえる。


「敵は一体!だが、Gランク相当!」

「非戦闘員は俺のとこに来い!!!!おい、そこの嬢ちゃん!」

「赤龍だ!!」


 阿鼻叫喚のように思えるが全員が慣れてるのか怖くないのか落ち着いてるようにも見える。

 ん?成人してない人は戦えないって……ミシアって確か成人してないはず。

 やばいか?

 俺はこれ相手に何もすることができないと思う。って言うかそう。

 でもミシアの元に向かうことはできるはず。あいつはこんな事態でも意地を張って戻れないと思う。


 パンを床に放り投げて門まで走る。

 赤龍と呼ばれたそれはミシアの方を向いてるとは思えないが念のため急ぐ。

 

 門を出て一本道に出るとミシアの姿が見えない。

 どっか行っちゃったか?いや、もう少し探そう。どっかに行ってるならそれはそれで今は好都合だ。


 一本道の側の林に目を通す。すると、さっきいたところから少し林に入ったところに身を潜めている彼女の姿があった。

 

「おい、ミシア!!早く村に入れ!誰かしらねぇけど守ってくれるって!」


「……ぃぃ」


「なんて!?」


「いいって!!」


「何そんな意地張ってんだよ!死ぬぞ!しらねぇけど!」


「私は死なないからいいって。コウシこそ早く逃げれば。っていうかなんで私の名前知ってんのよ。誰かに言ったんじゃないでしょうね」


「そんなことどうでもいいだろ。おら、早く行くぞ」


 そう言って腕を引っ張り上げる。


「やめて!痛い!」

 

 そして振り解かれ投げられる。


「くっ……やばい!!」


 ふと目に入った赤龍がいつの間にかこっちに向かって大きく口を開けている。口の奥はほのかに赤く煌めいていていかにもだ。

 

 どうする。かぶさる?いや、俺が死ぬ。っていうか俺ごと死ぬ。それはいやだ。持ちあげて走って逃げる……間に合うか??避けきれない気がする。くっそ!どうしたら……。


「絶剣!最大火力!!!!」


 集落の方から聞き馴染みのある声が響き、淡く青白く光っている大きな刀身が地面を抉りながら全長五十メートルもある赤龍の体を両断する。

 赤龍は息絶えたのか進んでいる速さのまま遠くの林に落下していく。

 

 地面は地割れでもあったかのようになっている。

 赤龍を両断した後のまま天に伸びて、剣先が見えないほどの長さの剣は一気に霧散し、跡形もなく消える。


 しばらく呆気に取られていた俺は意識が戻りミシアの方を見るがミシアの姿はない。ミシア、あれに巻き込まれたのか……と思ったが集落のほうに走ってく後ろ姿が見え、安堵した。

 俺は何もできなかった気まずさを抱えながら集落に戻るとミシアとセシアが抱き合っているのが見える。周りの住民はそれを微笑ましそうに見て談笑している。


 俺が門をくぐり集落に戻ると、セシアが俺の方を指差してミシアに何か教える。

 それを聞いたミシアは動揺しながら俺の方を向く。


「その、何回も心配してくれてありがと……」


 後半は声が小さすぎて全然聞こえなかったがなんとなく理解できた。


「ん、全然。俺なんもできなかったし。感謝しなくていいよ」


 そう言って宿屋に戻る。宿の前に放り出した包装されているパンを拾い上げる。

 ミルクパンは自分で食うか。


 その後は、赤龍討伐の宴でも開催するようで、みんなが食材を持ち寄ったり椅子を準備したり、子供が喜んだりしている。

 こういうお祭り騒ぎの雰囲気はあんまり好きじゃない。部屋に帰って眺めとくぐらいにしとくか。


 部屋に帰って菓子パンだけを置く。

 窓の側に立ってへりに体重をかけてミルクパンを頬張る。

 

 集落は赤龍の断面からこぼれ落ちた血や肉片でところどころ、いや、大半が赤いがそれを気にせずに楽しんでるみんなのおかげで俺も不思議と何も気にならない。

 みんなが踊りながらお酒を飲んだり剣を振り回したりご飯を食べたりしている。

 ミシアも楽しそうに酒を飲んでいる。ちっちゃい子供もコップに少し入った酒を飲んで「まずい。」と言いたそうな顔をしている。それを見て笑ってる大人。

 この空間は幸せそのものだ。


 あっちの世界はこんなことあったかなぁ。

 祭りはあったけど地元の祭りも大規模なフェスもここまで幸せそうにしてる空間はなかったと思う。いつも誰かがしらけてる。熱狂はしてるのに空気が冷めている。まぁ、俺が冷めた目で遠くから見ているせいなだけかもだけど。

 でも、ここはそんな雰囲気が全くしない。

 

 ……いつまでいよっかなぁ。

 人生的にはずっとここにいた方が楽で安全で安定してるとは思う。

 でも、せっかく異世界にきて人生の明確な転機が訪れてそれでもまだあの世界のような生活をするわけにはいかない。いやだ。

 でも、金もないしなぁ。地理もわかんねぇしなぁ。敵とも戦えないしなぁ、多分。


 ま、いっか。とりあえずどっか旅に出てそこでなんとかしよう。言葉はなんでも喋れるんだ。なんとかなるだろ。

 明日になったら出るか。荷物とかはそんなないしすぐに出れる。


 とりあえず祭りの邪魔になんないように寝るか。

 手に持っているミルクパンを乱暴に食べきる。ミルクパンは言葉通りミルクが染み込んでいて柔らかめのパンで普通に美味しかった。次いつ食べるのかは知らないけど。


 はぁ。寝るか。

 ベッドに倒れ込んで目を瞑る。


 実はいまだに心臓がバクバクなってる。

 異世界にきた不安からなのか旅立ちのことなのかさっきの赤龍の件なのか……全部だな。

 元の世界に戻るとかこの世界でやりたいことがあるでもない。特にこの世界に夢はないけど、なんとなく頑張ってやるか。あっちの世界では常に二割の力で生きてきた。でも、そのままじゃつまらない。せっかく面白そうなことが起きるんだ。七割ぐらいにしよう。

 

 にしても、さっきの赤龍すごかったなぁ。多分、あれを殺ったのはセシアだよな?あんな力があったとは……。

 っていうか、あのレベルで一般村人感を出していたってことはここはかなりの戦闘集団だよな。まぁ、「神に至る」なんて大口を叩くぐらいだしそのぐらいできなきゃか。

 

 目を瞑っていても瞼の裏に刺さる窓の外は光は明るい。カーテン閉めればよかったな。

 眠れなさそうな、ら…………。

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