3話 『魔法使う』
練習場は校舎の隣だ。
普段は魔法の自主練などで多くの生徒が利用している。
ちなみにナギトは魔法ができないためひそかに森の奥で練習をしてた。
練習場といっても学校のグラウンドのようなのではなく簡単に言えば施設だ。結構大きくて四角の建物で、簡素な見た目だ。
この中では魔力が無限になり、傷も自動回復する。
よく学校の授業で利用することも多い。
約2分ほどで練習場についた。
リューヤさんは校舎から練習場に移動してるときずっと周りをきょろきょろしていた。
恥ずかしがりやなのだろうか。それとも何かに警戒してるのか。
まあそんなことはどうでもいい、さっそく俺たちは中に入った。
中には誰もいなかった。長期休みだからみんな別のところで練習してるのだろう。
中は薄暗く、暗いところが好きな俺はこんなところに住みたいと思ってしまった。
「実技に関する基礎は身につけているから、あとは左手で使ってみるだけだ。案外簡単に行けるかもな。それじゃやってみろ。」
俺は何年かぶりに左手で杖をもった。やはり少しだけ違和感がある。
あとは魔法を使うだけ、だったのだが…。
なぜか魔法が使えない。
物理的ではなく、精神的につかえないはいけないのだ
・・・ 使ってはいけない・・・
まるで禁忌を侵すような感じだ。
やはり過去のトラウマを思い出してしまう。
結局プルテールに来てから杖を左手で持ってたのに右手に変わってしまった。それは周りに合わせて自然と変わったのだろう。
「そういえば、こっちの大陸は左利きを良いものと思ってなかったな。すっかり忘れてた。」
リューヤは静かにつぶやいた。少し悩んだ顔をしたが、
「でも、今は俺たちしかいないし、左でも別に悪いことなんかねえぞ。好きなようにやれ。」
大丈夫だ、と言い少し微笑えんだ。
俺は深呼吸した。左利きだとか縁起悪いとかそんなのは気にするな。今やるべきことに集中しよう。
「いきます…。」
左手に杖を持ち、目を閉じた。体の中心にある魔力をちょっとずつ左手のほうに送った。いつもはこの後魔法が出ないで失敗するけど、今日はそんな感じがしない。
リューヤはじっとナギトを見る。ナギトは少し緊張してきた。
ある程度魔力を送っていると体から力が湧き出る気がした。左手が今までにない感覚で覆われている。
杖が輝きだした。目では直視できないくらいになってきた。
(この感覚や光は一体?)
そう思った瞬間、
杖の先から何かが勢いよく放たれた。
とてつもない輝きと轟音でよく見えなかったが、放たれた『それ』は練習場の壁に当たり、静かに消えた。
杖はいつものように銀色のステッキのようなのに戻った。さっき見えた、青白いような光はなかった。
「もしかして今のが、俺の魔法…か?」
輝いていて、轟音がして、それに明るくて少ししか見えなかったがあの見た目。
これらに当てはまるのは零術魔法には一つしかない。
「あれは、電気魔法か…。」
少し驚いた表情でリューヤは言った。
電気といっても小さな電流ではなかった。たとえるなら雷みたいなものだ。雷が杖から発射された。イメージは持ちにくいかもしれないが言葉の通りのことが起きた。
「すごい…、これが俺の――。」
自分でもびっくりした。こんなのが出せるとは思ってもいなかった。
それに同年代の人たちと比べても明らかに威力が強かった。壁に当たっただけだが、それでもわかるような衝撃音が鳴り響いた。
「やはり零術魔導士だったか…。これでもう実技に関しては大丈夫だろ。」
「…リューヤさん、俺は左手でないと使えないってことですか?」
「いや右手では使えないだけで、左手や足などからも電気を出せるだろうな。」
もう魔法は使えるようになった。卒業まで大丈夫だろう。
ただ、不安は一つある。
「これ実技試験のとき、左手でやっていいんですか?」
左手から右手に変えたのは縁起悪いから。試験の時先生の前で堂々と左手で魔法を使ったらなんて思われるか。もちろん理解してくれてる先生もいるが、全員が全員そういうわけじゃない。
「くそっ…そうだった。左手に対してこの国は厳しいんだったな…。」
リューヤは少し考え、
「あー、そこは俺が国王とかに伝えとく。一応国王とは深い仲だからな。心配すんな。」
と言った。
国王なら先生たちに言ってくれるだろう。
それにしても『あの国王』と仲が良いとは。
外に出てみるともう暗くなっている。この学校の生徒は全員大きな寮に住んでいる。夕食の時間もあるので遅れるわけにはいかない。
「さて、俺はそろそろ帰るかな。ナギト、今日知った零術魔法について卒業試験まで誰にも言うんじゃねえぞ。あと明日もまた同じ時間に同じ場所に来い。さらに良いのを教えてやる。」
「わかりました。今日はありがとうございました。」
ナギトはぺこり、とお辞儀をして練習場を出た。
今日で多くのものと出会った。
零術魔法という魔法、自分の魔法、謎の講師の人。
まだまだ知らないことはたくさんあるんだな。
そういえば、リューヤさんはなんの魔法を使うのだろうか。明日会うときに聞いてみようかな。
ていうか、あの人どっかで見たことあるような…。それに小野リューヤって名前…。
急に12歳の時の記憶が流れてきた。
(まて、確か、あの時…。)
思い出そうとすると、頭が痛くなってきた。何かが思い出せそうだが出てこない。
ま、いっかと考え自分の部屋に向かった。
静まり返った練習場にリューヤは一人残った。
(…電気魔法、か。久しぶりに見たな零術魔法は。)
リューヤは通信用の機械を取り出し、だれかに通話をかけ始めた。
「聞こえますか、国王様。」
相手からの返答はなく静かだった。雑音が少し聞こえる。リューヤはもう一回言うと
「どうしたんだいリューヤ、もしかしてあの子のことかい?」
少し落ち着いた青年の声が返ってきた。通話相手は国王だ。
「あぁ、そのことです。やっぱり俺の考えてた通り零術魔導士でした。」
「そうか。君の考えは鋭いねぇ。ちなみに種類は?」
「電気です。なかなか良いセンスしてました。」
「…へえ。電気って『君』と同じじゃないか。」
「そうですね。ほかの人の電気魔法は初めて見ました。」
「そうだろうね。君がいつも見てたのは吸収のほうだもんね。ところでなんでけど、今すぐ王宮にこれないかい?」
「え?今からですか。別に大丈夫ですけど…。急に話が飛びましたね。」
「そこはすまないね。彼のことで話をしたいのさ。」
「了解です。」
リューヤは通話を切った。
(ナギトだっけ。あいつは俺を超えるかもしれない。)
面白くなってきた、と薄く笑い練習場をで出た。
外は暗い。学校の敷地はライトがついているためそこまで暗さは感じない。
ただもう日は暮れてるため外に人はいない。ほとんどの学生は寮の部屋の中で夕食の時間を待っている。
ナギトは急いで部屋に向かった。誰ともすれ違わない。門限はあるが学校の敷地の外に出なければいいため、一日中練習場にいることも可能だ。そんなやつ見たことないけど。
(今何時だ…。うわ、もう6時かよ!やばい、遅れる…。遅れてもあいつは怒らなそうだが。いや、遅れることを前提にするな!)
自問自答を心の中で繰り返した。声に出していたら間違いなく距離を置かれる。ただでさえ5年生で唯一魔法が使えないってだけで有名になっているのに、これ以上変に思われたら学校生活終了になる。
校舎が見えた。寮は校舎の隣にある。オンボロアパートや幽霊が出そうな錆びついたマンションとかではなく、かなり洋風な寮になっている。男子寮女子寮どっちも同じようなつくりだ。校舎もかなり大きく外見からでも豪華なのが伝わってくるが寮もそれと肩を並べるくらいだ。たまに寮を校舎に間違われることもあるとか。
寮に入るには入口でパスワードを入力しなければならない。入口は小さく外から見られないように遮断されてるため問題はない。
パスワードは自分で決めるのではなく学校によって決められる。一人ひとり微妙に違うらしく、間違えたらほぼ終わりだ。中に入れなくなり野宿するしかない。
ピッピッピ、と素早くパスワードを入力した。すると自動でドアが空き、中に入れる。ロビーからここは寮なのか疑いたくなる。
床はカーペットが敷かれていて、近くにある階段はガラスでできている。2階からは普通の木でできた階段になっているが、それもきれいに加工されている。通路は長く曲道が何か所もある。部屋のドアには201などと番号が書かれている。1階には部屋はなく、レストランみたいな食堂が広がっている。この学校の生徒は料理を無料で食べることができるのだ。
ナギトは階段を上がった。エレベーターのような次世代装置はなく、ひたすら走って上るしかない。部屋までの距離は結構ある。急がないと…。
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